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朕は猫である  作者: 名前はまだない
23/70

#23

余りにライラちゃんが空気だったのでライラちゃん視点です。

 夜明け前、耳元の物音で私が起きたら、ナヴィが尻尾をピンと立てながら全身の毛を逆立てて、シャァァァァッ!ってしてた。シャァァァァッ!って。


 目からなんか変な光線出てた。シャァァァァッ!って。

 ちょっとビクッてなったわ。



 「アァァァ…………おう、ライラ。起こしてしもうたな。済まぬ」



 ナヴィ、目からまだ光線出てるよ?

 まだ薄暗い森の中でランタンみたいに煌々と光るナヴィの目はちょっと気持ち悪い。ビカーッて。



 「ぬ。ちと本気になりすぎた。目とは外界を定義する重要な器官であるからして、オドが流出しやすい。ちとオドを練りすぎて溢れてしまったようだ」



 ナヴィの言葉と共に、ナヴィの目から光線が消えた。消えた後にそこに居たのはいつもの黒猫ナヴィだった。

 私はちょっと安心した。それまで、ナヴィから聞こえていた音は、とても嫌な音だった。酷く低くて、底冷えする唸りのような音だった。



 「ライラ、其方今どんな音を聞いた?」



 「低い、低い、お腹の底が揺さぶられる音」



 「それはな、悪意ある精神攻撃(マインドクラック)が行われている証拠だ。まだライラには出来ぬであろうが、その音を聞いたら何を持ってしても、思考迷宮(マインドラビリンス)のチェックをしなければならない。誰かが其方の精神に攻撃を仕掛けているのだ。思考迷宮(マインドラビリンス)の構築方法は追々教えよう」



 ナヴィが言っている事が碩術師としてとても大事なことだと言う事は解ったが、その内容が詳しくわからない自分が悔しい。

 私も早くナヴィの様に自在に碩術を行使できるようになりたい。



 ――ぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………



 と、私が自身の無力を噛み締めていたら、遠くの方で変な声がした。私位の女の子の悲鳴のようだった。



 「ナヴィ、今の、聞こえた?」



 「うむ。聞こえたな。ぬぅ、あの娘、航空艦であったか」



 ナヴィが眉間にシワを寄せて見つめる方を私が見た瞬間、物凄い轟音と共に地面が揺れて、遠くに巨大な土柱が立った。



 「む、こりゃマズイ。ライラそこを動くな」



 土柱が立った瞬間、何かが迫りくるのが見えた(・・・)。それは圧倒的な空気の塊だった。


 私が思わず両腕で顔を覆うと、ナヴィがトコトコと私の前に出てお座りをしたのは同時だった。


 バンッ!と言う耳を直接叩かれたような音と共に、両腕に塞がれた視界の端々を土や木や焚火の燃えカスやらが吹き飛んでいくのが見えた。



 「大事無いか、ライラ」



 何もかもを無慈悲に吹き飛ばすような空気の圧力が止んで私が両腕を下ろすと、目の前にはまるで台風の後のような何もかもが吹き飛ばされた中で、ナヴィを起点に私の盾になるように円錐状の跡がくっきりと地面に刻まれていた。耳がキーンってする。痛い。



 「あの娘、落下制御も出来ずに超音速で堕ちおった。未熟者であるな。ちとやりすぎたかの」



 遠く森の陰で濛々と沸き立つ土煙を見て、私は寝袋から這い出した。



 「何、あれ?」



 「……ま、大丈夫であろう。仮にも戦闘艦の様であったしの」



 「女の子の悲鳴がしたよ?助けに行かなくちゃ!」



 大急ぎで寝袋を畳もうとする私を制して、ナヴィは何故かマジックハンドで吹き飛ばされた小枝や荷物を集め始めた。



 「なに、飯を食ってからでも遅くあるまいて。先ずは腹ごしらえをしよう」



 言いながら、ナヴィはさっきの暴風から私と一緒にキチンと守っていたのであろう、昨日の残り物の鍋をその辺の石で積み上げたかまどに乗せて温め始めた。

 その動作は何一つ慌てることなく、尻尾をリズミカルに振りならが行うその姿は寧ろ優雅さすら纏っていた。


 うううん。良いのかな?さっき女の子の悲鳴がしたし、でも私じゃ何ができるかわからないし。

 ナヴィが大丈夫って言うなら良いのかなぁ?


 等と考えつつ、川から水筒に水を汲んで帰ってくると、温かいスープと焼いたフィセル(精白パン)に鳥の燻製肉を挟んだホットサンドが出来上がっていた。

 うう。美味しい。あぁ、でも、さっきの女の子の声は――もうひとくち食べてから……。



 「気にする必要はないぞえライラよ」



 ホットサンドを頬袋一杯に咀嚼しながらナヴィが言う。



 「彼女は恐らく、自立艦だ。大層なマインドスフィアも持っておるようだし、そんじょそこらの船とは頑丈さが違うであろ。超音速で地表に激突しても……まぁ、艦首がひん曲がる位で死にはしない。彼女の核であるマインドスフィアは、そのぐらいでは壊れぬ様保護されておる筈だ」



 「自立艦?でも女の子の悲鳴が聞こえたよ?こんな呑気にサンドイッチ食べてる間に……このピクルス美味しい」



 「うむ。それは何より。それに、このぐらいゆっくりせねば、彼女には近づけぬよ」



 「そうなの?」



 「見たところ、彼女は超音速で堕ちてきた。堕ちてくるまでの時間から考えて、かなりの高度をそれなりの速度で飛行しておったのであろ。なれば、空力加熱により表面温度がかなり高くなっているはずだ。熱くて近づけぬよ。空力加熱は音速の2乗に比例するからな。其方が飛行箒――碩術によって効率よく飛ぶ道具だが、これで飛行する場合はこの空力加熱により発生する熱をうまく逃してやらねばならんぞ。……その内飛行箒も作ろう」



 聞いたことがある。天上世界の船は空を飛ぶのだと。国軍にも、箒に乗って戦う兵隊が居るということも。

 ……お母さんたちも、箒に乗って戦ったのかな。



 「自立艦とは、マインドスフィアによって意思を持って完全自律行動を行える船の事だ。天上世界の、特に戦闘用の大型船には大抵搭載されている。まぁ、天上大陸の飛行艦は完全自立は出来ておらぬがな。……まてよ、と言うことは彼奴は『帝国』の船かの?いや、でもあんなちんちくりんなマインドスフィアを持った船、造った覚えがないのぅ?」



 途中で考え込んでしまったナヴィの言葉の最後の方はよく聞こえなかった。

 ウネルマ先生から船に宿る妖精の話は聞いたことがあった。天上世界の船には妖精が宿っていて、高位の妖精はそれはそれは美しい女性の姿をしていて、聡明で清廉。しかしいざ戦いになると、彼女達ほど恐ろしいものはない、と言っていた。



 「まぁ、実際に見てみればわかることよな」



 そう言ってナヴィは残りのサンドイッチを平らげ、私も昨日の残り物のスープでお腹を満たした。


 ナヴィと私は野営の跡を片付け、荷物を纏める。飛んでいってしまった荷物も有ったので探すのに苦労した。

 荷物をまとめ終わると、ナヴィが荷物の半分を遠隔操作(テレキネシス)で持ち、もう半分は私が遠隔操作(テレキネシス)の練習の為に持つことになった。といっても私が持つのは寝袋だけだ。鍋や水筒は、私が遠隔操作(テレキネシス)を失敗して壊してしまわないように。


 先程土柱が上がった方に向かうが、道なんて無いし、歩きながら遠隔操作(テレキネシス)を維持するのが難しい。

 何度も私の分の荷物が大空へと飛び立ちそうになったが、その度にナヴィが遠隔操作(テレキネシス)でキャッチしてくれた。


 小半刻も歩いただろうか。疎らとは言え延々と続く木々の影が作る薄暗い風景に、まるで光の壁のように切れ目が出来ていた。



 「……なんじゃ此奴。降下艇か何かか?それにしては図体がデカイの」



 私は圧し折られ倒れ伏した木々の間から覗く光景に絶句した。

 それは白い壁とも言えるものだった。


 上を見上げれば、私のアパルトメントよりも随分高い。その白い壁が視界の続く限り左右に広がっていた。

 ナヴィはその壁の匂いを嗅いだり、ペシペシと前足で触ったりしながら壁に沿ってゆっくりと歩いていく。私も驚きで遠隔操作(テレキネシス)がかなり乱れたが、その後を追って歩いた。

 暫く歩くと、唐突に壁が終わっていた。その先には抉られた大地と、壁に押しのけられた土砂が小山を作っていて、ナヴィは壁を回り込むように小山を越えていく。私もそのフカフカの土で出来た小山を滑り落ちないように注意しながら登った。



 「此奴がこの船の顕現実体インターフェース・フィギュアの様だな」



 と言って足を止めたナヴィの側にあったものを、最初私は正しく理解できる自信がなかった。


 最初に目についたのは、薄紅藤色のズロースだった。それが逆さになって地面から生えている。

 そのズロースはまるで花瓶みたいに二本の白い足を生やしていた。その両足はまるで石膏像みたいにピンと垂直に、空に向かって生えている。

 その根本にはめくれ上がった純白のレースがあしらわれたペチコートや浅葱色のスカートがまるで花弁のように広がっていた。


 見たことも無い巨大食虫植物の様なそれに私が近づくと、ビクリとその雄しべと雌しべのように生えた両足を震わせ、その奇妙な食虫植物は唐突に喋り出した。



 「再起動完了したのです!って、あれ?真っ暗なのです!」



 「……ライラよ、引っ張ってやるが良い」



 ナヴィに言われて気を取り直した私は、恐る恐る私の腰の高さくらいに伸びているその綺麗な肌をした足を、足首のところを掴んで思い切り引っ張った。

 まるでスポンと音がしそうなほどあっさりと引き抜けたその足と胴体の軽さに私は少し拍子抜けしつつ、胴体の先に視線をやって息を呑んだ。



 「……くっ……首がッ!!」



 無かった。


 引き抜いた体は浅葱色の瀟洒な前開きのワンピース。その上にレースのフリルの付いた前掛けをつけたその姿は、何処かのお金持ちの家の小さな可愛い女中さんという感じだったのだが、肩から先が付いていなかった。



 「あ、取れてしまったか」



 ナヴィのなんの気無しにつぶやいた言葉に、私は腰を抜かしてへたり込んでしまった。



 「くっ……くくくくび!首!わわわわたわたし!引っこ抜いちゃった!」



 「あぁ、気にするでないライラよ。この者のその体は単なる飾りだ。首が引っこ抜けても腰から先がなくなってもなんともありゃせぬ」



 そんなわけ!……あるのかしら?


 私が引っこ抜いてしまった当の体は、ワタワタと手足を動かしながら、先程まで刺さっていた地面の穴にまた体を突っ込んで穴を掘り出した。

 あ、大丈夫っぽい。



 「ひ、酷い目に会ったのです!」



 暫くすると、泥だらけになった首から上を胴体にグリグリと差し込むように両手で抑えながら、その子は立ち上がった。



 「って!大元帥(シックススター)を騙る大罪人!よくもやってくれたのです!」



 年の頃は私と同じくらいで、背丈は私よりも幾らか小さいくらいの癖の無い綺麗なプラチナブロンドを真紅のリボンでツインテールに結んだその子は、ナヴィを指差してそう叫んだ。

 彼女から、先程のナヴィからしていた底冷えするような低い嫌な音がする。



 「面倒くさい奴だ。仕方ないの。『汎用命令。(Edict:)艦姓(Report)名を(affili)申し(ation)給へ(/official.)』」



 ナヴィの後半の声が、私にはとても小さな甲高い音の連続に聞こえた。そう言えば、前にウネルマ先生が卒業の儀(ケラヴゼナ)のお祝いをしてくれた時も、この音が聞こえていた気がする。これはもしかしてナヴィが時々口にする思念通信(チャント)という物だろうか。


 その音を私が聞いた瞬間、泥だらけの顔の女中姿の彼女が大きく瞳を見開くと、まるでバネ仕掛けのように踵を鳴らし、右手の五指を真っ直ぐに伸ばして、脇を締めて中指の先を僅かにこめかみに付けると、視線を斜め上に合わせて、直立不動に直った。



 「ほっ……本艦は星征艦隊第二○一(フタマルヒト)予備戦隊第三強襲隊所属、強襲軌道降下突撃艦(オービタルダイバー)第865号建艦計画型124番艦なのです!」



 ビシッと敬礼した彼女は次の瞬間は自身のとった行動に、はたと気を取り直した。



 「って!何でその汎用命令項文(コード)を知っているのですか!そのコードは一部の人間しか知らない筈なのです!」



 彼女、ええと星征艦隊第フタマルヒト?予備……何とかの124番艦ちゃん?の様子から察するに、ナヴィが何かの呪文で124番艦ちゃんに強制的に名乗らせたみたいだった。

 それにしてもこの子、名前が言い難い。



 「なんじゃ、其方名前は無いのか?進水式の時に何某か、艦名を頂戴するであろう」



 「う……五月蝿いのです!艦名を持っているのは本艦よりももっとずっとずっと前に竣工した(お姉様)達だけなのです。と言うか、人間たちが進水式なんてやってくれたのはもう何百年も前のことなのです!だから第865号建艦計画型は全艦(全員)番号で識別されているのです」



 「ふむん?真逆、『帝国』は『統帥部』と仲違いでもしておるのかの?何をやっておるやら……。其方はかなり新しいタイプの航空艦なのかの?強襲軌道降下突撃艦(オービタルダイバー)と言う艦種は聞いたことがないしの」



 「本艦は『航宙艦』なのです。星間航行能力があるのです。敵勢力圏の惑星に大気圏外から強行着陸して地上制圧を行うために考案された艦なのです」



 この子の言っていることが何一つわからない……。けど、ナヴィはきちんと理解しているようだった。航空艦?って天上世界の船だよね?



 「なるほど。強襲揚陸艇の大型版か。と言うことは、星征艦隊はとうとう『ILshnEDE(イルシュネーデ)』の根拠地を発見できた、ということか?」



 またわからない単語が出てきた……。いい加減私の解る言葉を喋って欲しい。



 「それは機密なのです。……というより、本艦もよく知らないのです。竣工してからずっと予備艦隊付なのです。戦域ネットワークに接続できるのは実働艦隊に配属されている艦だけなのです。だからずっと総予備の本艦はこの星を回って『ILshnEDE(イルシュネーデ)』が忍び込んでいないかを監視しているのです。……かれこれ300年くらいになるのです」



 124番艦ちゃんは何処かちょっと寂しそうに前掛けの裾を握った。



 「ふむ」



 と、124番艦ちゃんの様子を見て、息を吐いたナヴィはこちらを見た。



 「ライラ、其方何かこのう○こ娘に名前をつけてやれ」



 え゛?そういう無茶振り困る……。

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