#20
※銃が空飛んでたので修正
「メリッサさんいますか?」
アイディスが完成して、オリバー氏から報酬を受け取った翌日。朕とライラはその報酬を持って、早朝の戦場が終わったであろう昼の二刻頃、メリル・フィンチ・ブレンナー合同会社トシュケル支店を訪れていた。
目的は先日ライラがヤル気になったので、秘密基地を作る為の準備、というか森に入る為の自衛手段兼食料確保の為の銃を探しに来たのだった。
軽くて小さい鳥撃銃が有れば良いのだが、この国で子供用の狩猟銃が作られていることを願おう。
ライラの言葉に、手の空いていた丁稚が奥へと引っ込み、メリッサを伴って戻ってきた。
「あら、ライラちゃん。また、写本の仕事受けてくれる気になったの?」
「すまんな。今日は受注の用件で来たわけではない」
開口一番表情を輝かせて写本の仕事を推してくるメリッサ嬢に違う旨を告げると、彼女は残念そうな表情を見せた。
「写本の仕事、もう受けてくれないのかしら?」
「そんなに写し手が足りておらんのかの」
「足りないんですよねぇ」
そう言って、メリッサ嬢は頬に手を当て困り顔を作る。
聞けば、写本の仕事は主に古い碩術書の写しが主で、受注量も一冊限定などが多いらしい。
原本となる碩術書は貴族が所蔵していることが多く、一冊分のみの写本しか許されないことが多いのだとか。複数冊印刷するなら印刷所に回すのだそうだが、活版技師の居る印刷所は出版社を兼ねているらしく、冊数の出ない印刷は請け負ってくれない為、単価は高くなっても個人の写本に頼るしかないとのこと。
元々碩術関連の技術書は地上世界ではまだまだ秘技に類する性質を多分に含むため、原本を所有する貴族が活版印刷で大量出版することは当分無いだろう、とメリッサ嬢は言った。
しかし、依頼自体は少数ながら存在するが、一般人では教育勅令でそれなりに識字率は上がったが、写本とはいえ大量の文章を書ける人間はそう多くなく、そういう技能を持った者は別の稼ぎの良い仕事に就くためどうしても副業の域を出ず、常に納期が遅れがちなのだとか。
そういう意味では碩術幼年学校生であり長い文章も書けて、写本を専門にしていたライラは貴重な戦力だった様だ。
「そういう事なら、偶に受けてみるのも良いかもしれんな。どうだライラ?」
朕の言葉に、ライラは首を縦に振る。
「しかし、原本はこちらで選ばせてくれ」
朕の言葉にメリッサ嬢は小躍りしそうな勢いで店の奥へ消えると、直ぐに何冊かの装飾過多な本をカウンターに並べた。
が。
「……すまんが、どれも駄目だ」
ちらりと内容を流し読みした朕の言葉にメリッサ嬢はがっくりと肩を落とした。
「仕方ないですね……。今度別のものが入ったら、お願いします。で、今日はなんの御用かしら?」
肩を落としたのも束の間、流石その若さで店員の地位にいるだけの切り替えの速さで、彼女は表情を接客モードに戻した。
「今日は、銃を買いに来たんです。鳥撃銃?が欲しいんです」
そう。今日の目的はこれだ。森に入って秘密基地を作るにあたって、自衛用にも食料調達用にも欠かせない。まぁ、朕達の場合通常の使い方ではなく、弾体を遠隔操作で飛ばすつもりなので、単なる筒で有れば十分なのだが、銃とは握りや構えた時に自然と標的を狙いやすいように作ってある物なので、どうせならと銃を見に来たのだった。鍛冶屋にそれ専用で作らせるよりも安いかもしれないからな。
わざわざ銃を用意しようと朕が思い立ったのは、遠隔操作と言うのは意外と狙いをつけるのが難しい故に、照準器のような物が有ったほうが遠距離の的に当てやすいからだ。鹿などは遠距離から狙わぬ限り、警戒心が強くてなかなか狩猟出来るものではないしな。
ライラの言葉にメリッサ嬢は今度は不思議そうに首を傾げる。
「鳥撃銃?猟銃が欲しいの?ウチでも扱ってるけど、ライラちゃん猟師にでもなるの?」
そう問いつつも、メリッサ嬢はエントランスの壁に飾ってある幾つかの銃を指差しながら説明をしてくれた。
「一番上のが最新式、フーガ&クルーガー社製のHK2289、後装式ライフル銃ですね。使用弾薬は.38フィンチ弾で半フィンチ×4.2フィンチ金属薬莢の専用弾を使用します。発火方式は雷管を使用したセンターファイア方式。最新の専用弾になっちゃうから、銃の本体価格と弾薬代が高いのが難点だけど、命中精度は抜群。装填方式はボルトアクション方式のみ。有効射程は500ショーク程度。射撃テストでは1000ショーク先の的にも当てられたって話だから、性能は折り紙付きですよ。命中精度が良くて、装填が素早く簡単に出来る銃ですね。排煙も少なくて目に染みることもないし、ライフル銃だから遠距離射撃でも威力が期待できますよ。その下のがマイセル社製のC9-Mk.5 。同じライフル銃だけど、こっちは紙製薬包を使用する前装式単発銃ですね。発火方式は装填後に銃身の付け根の穴から雷管を刺すピンファイア方式。ちょっと排煙がキツくて慣れないと目に染みるかもしれないけど、弾薬代は安くて命中精度も良い銃です。その下が……」
と、スラスラと専門的な説明が出てくる辺り、彼女はやはり優秀な店員であるな。
しかし、旋条銃は朕達の求めるものではない。滑腔銃が良いのだ。
「ライフリングの付いていない物が良いな。前装式でも後装式でもよいが、出来れば後装式が良い。銃身長には拘らないから軽くてあまり大口径でないものが良い」
朕の言葉にメリッサ嬢は腕を組んで少し考える。
「滑腔銃で、軽いもの、となると新品ではウチの取り扱いではちょっと難しいかなぁ……。中古なら何かあるかもしれないから、ちょっと倉庫覗いてみます?」
そう言って、メリッサ嬢は朕達を連れ出し、数ブロック程離れた倉庫と思しきレンガ造りの建屋が立ち並ぶ一角に案内した。
倉庫番に挨拶しつつ、中に入ればそこには食料品から衣類、日用雑貨とありとあらゆる物が所狭しとラックに押し込まれていた。
メリル・フィンチ・ブレンナー合同会社は総合卸の様である。かなり手広くやっているように見える。
「この辺が中古の銃器ですね。気になる物が有れば触って見て下さい」
案内されたのは物品ごとに区画別けされた一角、銃器や鉄製品が置かれている区画だった。
小銃が銃床を下にして数十本は置かれている。
「……重い……」
その1つを手にとってみたライラの感想は一言であった。
やはりそうであるか。言ってみれば、中で火薬を爆発させるために頑丈に作られた鉄の筒が軽い訳が無いのは分かっていたが、ライラでは構えるのも一苦労のようである。
しかも、銃床――構えた時に肩に当たる部分だ――や台木や先台――銃身の台座や引金よりも前に来る握りの部分――は柔らかい木材では裂けてしまって危険なため、硬い木材が使われることが多い。
硬いということは中身が詰まっているということで、銃身を取り付ける台座の部分からして、銃というのは重いのだから仕方ないとはいえ、ちとアテが外れたな。
逆に軽すぎるとリコイルをより強く感じてしまったり、発射時のブレが大きくなる事があるので、命中精度を重視するなら重いことは機能と同義であったりもする。
だが、遠隔操作を使用した朕達の想定する使用方法――要は、火薬の代わりに弾丸のみを銃身に込めて、遠隔操作でズラして弾丸を飛ばそうというだけだ――では火薬を使わない。その為、リコイルは余り気にする必要がないのである意味で銃の常識に対しては正反対の要求をしているとも言えるから、なかなか良い物がないのも仕方がないな。
「これなんかどうです?元はショットガンだけど、短銃身化加工してあるから短くて軽いわよ」
朕達があれやこれやと選り好みしていると、メリッサ嬢が異様に銃身が短い銃を一丁持ってきた。
「ううむ。良さそうなのだが、ちと口径が大きいな……」
メリッサ嬢が持ってきたのは水平二連散弾銃と呼ばれる銃身を2つ持つ散弾銃だった。一発撃ったら手元のレバーを操作すると、次は隣の銃身から発射できる為、短時間で二連発撃てる銃だ。
散弾銃とはライフリングの無い滑腔銃の一種だが、複数の弾丸を一度に発射する銃のことである。鳥も撃てるので鳥撃銃と言えなくもないが、射程が短く――50ショークも飛ばない――遠距離の獲物を狙うのには向かない。その分、射程内の的には大まかに狙いをつけるだけで良いのが特徴だ。
複数の弾を込めることが前提なので、かなり口径が大きい。大人の親指くらいなら二本は入りそうである。大き過ぎだ。
滑腔銃と言うのは発射時に弾丸を回転させる為の螺旋状の溝が付いていない銃の事だ。
飛翔する物体は飛翔方向を軸にして回転運動を与えると、独楽効果で軌道が安定する性質がある。ライフリングはその回転運動を与える為の物であり、滑腔銃に比べると進んだ技術と言える。
だがライフル銃と滑腔銃の最も大きな差であり、ライフル銃の最も大きな欠点はある程度展性がある柔らかい物体でなければ、撃ち出すことが出来ない点だ。
これは、ライフル銃が元々鉛の弾丸を撃ち出すことを想定して開発されたからであり、発射された鉛の弾丸はその高い展性でもって火薬の爆風によって変形し、ライフルの溝に押し付けられ、結果回転運動を与えられる。
逆に、これが展性の少ない、小石のような物であった場合、回転運動は与えられず、下手をすると銃口で引っかかってしまう。火薬を使った爆轟で弾を押し出していた場合、下手をすると銃口で詰まって暴発する事も考えられる。
滑腔銃はその点、銃身内部は滑らかなので引っかかる心配は無く、命中精度と威力は落ちるが、銃身内に詰めることができれば大抵の物は撃ち出せるのが強みなのだ。
しかし、滑腔銃はライフルと違い回転運動が不規則に弾丸に与えられてしまう為、今度は弾丸がまっすぐ飛ばないのだが、それを解決する為に安定翼と言うものが存在する。
言ってしまえば弾丸を球体や細長いどんぐりのような形では無く、ダーツの投げ矢の様な形にするのだ。
これを銃身内を滑る事が出来る様に2つの鞘で挟んで銃身に装填することで銃身内でもスムーズに運動出来るようになり、発射後は銃身を出た弾丸からは空気抵抗で鞘だけが外れ、弾丸は安定翼によって弾道が安定する。
弾丸に一工夫必要だが、こうすることによって安価な滑腔銃――ライフリングを施す為にはかなり高い金属加工技術が要る為、滑腔銃に比べてライフル銃はとても割高になる傾向がある――でも安定した弾道が得られるというわけである。
まぁ、ぶっちゃけると装弾筒付翼安定徹甲弾――塑性流動という現象を利用した対物侵徹弾であり、固体としての物理作用に拠って防御力を発揮する形式の装甲――例えば分厚い鉄板のような――に対しては最強の貫徹力を有する――が出来ないものかとも思っていたのだが、やはりライラには猟銃は重すぎるようであるし、諦めるしかないかもしれぬ。
あわよくば、戦車の装甲を貫徹できる攻撃方法を幼女が持っている、と言う夢想に浸ってしまった結果とも言えるが、浪漫じゃろうて。
「むう。やはり、重すぎるか」
朕の言葉に、メリッサ嬢に渡された水平二連散弾銃を震える腕で構えながら、ライラは「これなら持てるかも」等と言っているが、そんな様子では的に当てるどころか、弾がどこに飛んでいくかわからぬ。
仕方ない。諦めるしかないか。ライラがもっと大きくなってから設えても遅くは無いかの。
「メリッサ嬢、手間をかけてすまなんだ。ライラにはまだ少し早かった様だ」
メリッサ嬢も「そうねぇ」と残念そうだった。まぁ、銃は元が高いから中古でもいい売上になる可能性があったのだから仕方ない。
まぁ、今回は諦めるにしても、他の物でメリッサ嬢の売り上げに貢献することとしよう。
長くなったので分けました。




