顔と身長だけで判断はご勘弁_3
俺が意識を得たのは、金色の髪を見た時だった。
俺は上を見上げたんだ。
美しい女性が居た。
その女性は顔を歪ませていた。
その原因は彼女の腹の上で蠢いている緑の『それ』だった。
俺は『それ』の首を絞めた。
それは俺をやたらと引っ掻いて、顔やら体やらに傷が出来た、さっきの俺の顔にあった傷はその時ついたやつだ。
俺は『それ』が生き絶えるまで、生き絶えた後も嬲り続けた。
そうして、感情が少しづつ、取り戻されたかのような、感覚がした。
昔から「怒り」という感情を持っていたかのように。
俺は美しい女性を縛り上げていた鎖を解いた。
その女性は俺を眺めて、いや、俺を眺めていたのか?
ずうっと、女性は俺を、俺は女性を眺めていた。
数刻が経っただろうか、多くの足音が聞こえてきた。
俺は咄嗟に洞窟の天井に引っ付いた。
やってきたのは血塗れの兵士だった。
きっと入口らへんにいたゴブリンの返り血を浴びていたのだろう、やたらと鬼気迫った顔をしていた。
女性は兵士に連れていかれた。
女性が何故隠れた俺のことを兵士に言わなかったのだろうか。
俺が洞窟の天井に張り付いたあとは一切こっちに目を向けなかったのは何故だろうか。
それは今となってもわからない。
彼女がいなくなった後、おれは洞窟を出た。
太陽の光がきつい、目に染みる。
俺たちゴブリンが洞窟の中にいるのは日航が苦手だからだ。
あれは目が痛い。
だが、俺は彼奴らと同じような習性を取りたくないと思ったから地上に出た。
肌も目も痛かったが、俺は歩き続けた。
何かに脚が躓いたと思ったら、人の死骸だった。
何処かで見慣れたような死骸だった。
生まれたばっかだからおかしいとは思ったが、後日よくよく思い返せばあれは俺の死骸だった。
あの緑に殺され、貪られた俺は皮肉にも同族に生まれ変わってしまったのだ。
笑えない冗談だと思った。
その時は取り敢えず死にたくなかったからその死骸から服を剥いで、ローブを作った。
今着てるのがそれだな。
ばっちいって?洗濯はちゃんとしてる。
そうして俺は森の中で生活を始めたんだ。
森といっても此処首都、ルクセンティより遥か遠くの森だ。
ルクセンティ辺りだったら間違いなく今リュナと会えていない。
それはともかくだ、俺は生き残るために多くのことを学ぶ必要があった。
まずは狩りだ。
最初は鼠やら捕まえやすいのを捕らえて食っていた。
最後らへんは鹿とか捕まえてた。
人間?たとえ死骸でも食べたいと思ったことはない。
ゴブリンは別に人間を食べたいって思ってるわけじゃない。
彼奴らは「なんでも食える」だけで、悪食なだけだ。
俺もそれは同じだな。
狩りを学んで最中に、狩られる立場に立つこともあった。
熊とか、人間だな。
側から見たらゴブリンなんだから身体を隠してるとはいえ、顔を見られると殺しに来られる。
全力で逃げた。
今でもあれはトラウマだ、人間は怖い。
その後は鍛錬を続けた。
人間が怖いっていうのもあったし、他にやることがなかったってのもある。
そして最も重要なことは人語。
俺が何故この世界に来て、この世界で死んだ後、ゴブリンに転生したのか。
その理由が知りたかった。
その為には人の生活圏に紛れ込む必要があった。
あのカラスの仮面はその為に作ったんだ。
何故カラスの仮面かって?
鼻を隠すのにちょうどよかった。
これらのことを長い月日、続けた。
正確にはわからないけど、10年は下らないと思う。
そして、自分の出生を知るための旅の最後が此処、ルクセンティ。
早めに来るべきだった?
いや、ルクセンティは仮にも王都、生半可な強さでいけるようなところじゃない。
理由を知ったところでゴブリンを辞められるわけじゃないからゆっくりとすることにした。
その落ち着きがあったからこそ、今まで生きてこられた。
それはともかく、俺は隠密行動で王宮の書斎に潜り込むつもりだったんだが…