顔と身長だけで判断はご勘弁_2
俺は仮面を払った手を切り刻んでやろうと腕を振り上げた、のだが、
「ギャーーーーーーーーー!!!!」
と女がさっきの10倍はでかい声で叫んで、気絶した。
そんな馬鹿でかい声出せるなら最初から出しとけよと思いつつ、この声のおかげで苛立ちは消え、冷静になる。
此処でこいつの腕を切り刻んでいる暇はない。
こいつの胴体と頭は遠く離れている、機能不全に陥っていないとはいえ、動きは鈍るはずだ。
そうなると俺がやることは一つ。
寝転がっている女を抱えて、
「じゃあな!」
とスタコラ逃げることだった。
「あ!おい待て!」
身体が追ってくるが動きが鈍い。
上級魔族とはいえ、頭と身体はそこまで距離をおけまい。
兵士が集まってくる様子もなく、俺は城の外に抜け出すことができた。
しかし、何故兵士は集まらなかったのだろうか。
それを疑問に思いつつ、宿に戻るのは危険と思い、俺が昨夜夜待ちをした森へと向かった。
女が目を覚ます。
暫くは状況が飲み込めないのか、キョロキョロと見渡していたが、俺の存在に気付くと途端に顔を青ざめさせ、叫ぼうとした、が、それは俺が口に布を咥えさせることにより防止してある。
また、攻撃されないように手足も縛ってある。
女は絶望した顔でこっちを見ている。
「大丈夫だ、落ち着け、とって食ったりはしない、ただ、俺の姿を見て、気を動転させてたお前が、目覚めた後暴れないよう、少し抑えさせてもらっている」
女は納得いかないという顔をした。
それはそうだろう、今はカラスの仮面で顔を隠しているが、その仮面の下は酷く醜いゴブリンの面があるのだから。
ゴブリン、それは得体の知れない化け物。
男を喰らい、女を辱める、畜生。
俺はそのゴブリンそのものなのだから、怯えられても仕方ない。
「その証拠に、今お前をとって食ってないだろう?わざわざお前が起きるのを待つ必要もない」
女はしばらく訝しげな目をしてこちらを眺めたが、観念したのか、頷いた。
俺は女の口に巻いていた布を外し、腕と脚の拘束も解いた。
「少しは落ち着いたか、ならいい、一つだけ聞かせてくれ、おま「あなたは何者なの?」
女が急に口出しをしてきた、あんなでかい声で叫ぶくせには、案外気の強い性分なのかも知らない。
少し気圧されて俺は、
「見たらわかっただろ、ゴブリンだよ、俺は」
女は俺に近づいて、
「ゴブリンはこんなに理性的じゃないわ」
と俺の仮面を取る。
そして、また晒される。
緑の肌。
でかい口。
鋭い牙。
伸びた鼻。
俺の姿を再び見た女は叫びはせずとも、
「ゴブリンだわ…」
と驚嘆するばかりだった。
そんな青ざめていても目の前の女は俺と比べるまでもなく麗しい。
桃色の艶やかな髪。
綺麗なコバルトブルーの目。
整った端正な顔。
グラマラスな体型。
もちろん身長は俺より高い、多分普通の女よりは小さいが。
ゴブリンは基本チビだ。
「あんまり見ないでくれ、俺も俺の姿は好きじゃない」
「ご、ごめんなさい」
仮面を返す女。
俺は仮面をつけながら、
「お前の名前は?」
と聞く。
女はへっとした顔をする。
「…知らないの?」
「あぁ、有名人なのか?」
女は、キリッとキメ顔をする。
「私は、リュナ。リュナ・ルクセンティよ」
俺は目の前でドヤ顔をしている女を眺めながら
「ルクセンティってことは、王族か何かか?」
リュナはむすっとする。
「何よ、反応が薄くてつまらないわ!もっと驚いてよ!」
「す、すまない、俺はあまり人付き合いがなくてだな…というか、人付き合いなんてなかったからそう言った反応ができない…」
仮面をつけている俺の表情はわからないだろうが困惑しているのは伝わっているだろう。
「なら、仕方ないわね…」
そして俺は今度こそ質問をしようとしたのだが、
「貴方、何故人語を喋れて、そんなに理性的で、なおかつ王宮に潜入したの?」
まとめて質問しすぎだ!
「…少し長くなるが、いいか?」
リュナは興味津々といった風にこちらを見る。
「うんうん!」
この反応の可愛さは少しやる気が出る。