あ?!知らないところで、こんな出逢いもあったのね・・・
◯大阪 阪急梅田駅
行き交う人々。目的地へと向かう人の足が行進となって歩いている。
キップを買う人、売店で雑誌を買う人、時計を気にしながら誰かを待っている人。
多くの音がリズムの様に交差している
◯同 3番ホーム
到着する電車、降りる人々、乗り込む人たち。
構内アナウンス、
発車する電車。阪急京都本線急行、河原町行き10両編成。
◯情景 走る急行列車
周り田んぼの真っ直ぐ延びた線路を走るあずき色の電車。
その横を白とブルーのラインの新幹線ひかりがものすごいスピードで
列車を追い抜かす。
◯同 列車車内
ドアにもたれて立っていたボタンダウンのカッターシャツを着た学生らしき男
ひかり号のすれ違う突風に少し驚く。
◯阪急桂駅 ホーム情景
梅田を発車した列車がホームに入る
嵐山線に乗り換え下車する人々
気温は30度に達しようとするこの日
嵐山方面より揺らぐ陽炎の中3両編成の折り返し嵐山行き電車がやってくる。
メインタイトル
「 知らないところで、、、。」
◯ 京都 1970年8月嵐山 渡月橋付近 情景
セミの声が響き、夏の日差しが保津川の流れを光らせる。
渡月橋北詰の方は土産物屋が立ち並び大勢の観光客がいる。
大きな提灯が出ている店には桜餅を売っている。八つ橋、湯豆腐などの看板も沢山ある。
店の前の赤い絹を敷いた木椅子に座りお茶を飲む人やら
行き交う観光バスやら夏の賑わい。
◯渡月橋付近 中之島公園
中之島公園の岸には親子ずれ、観光客、恋人同士等 賑わっている。
レンタサイクルで借りた自転車を止め地図とにらめっこしている中学1年の女の子3人。
ミッキーマウスTシャツを着ている女の子。
黒い服に黒いスカートの女の子
ポニーテール(パイナップルポニー)の女の子。
黒い服の女の子 「小学校の頃ってさ、中学、高校の人って怖かったよね。」
ミッキーの女の子 「ねえ、、。でもいざ中学に入ると―こんなもの?!だもんね。」
ポニーテールの女の子 「でもさあ、私らが高校生になると小学生の子らから見てそう言う存在で見られるのよ―――じょしこーせー★●@」
ミッキーの女の子 「 いやらしー、私ね中学入って幻滅したのがさ、美術部の部長!!イメージ的には髪の毛サラリ、ハンサム、足長、8頭身なのに現実は坊主頭よ!!! 滅入ったね、夢見る少女、すばらしき恋!は育たないわよ、、やめよかな美術部、、。」
黒い服の女の子 「バカね、、、。私なんかESS入ったけど部長インテリ美人!!少女マンガしてるよ(笑う)でも中3であれじゃーねえ、、、。」
ポニーテールの女の子 「ああー(ため息)早く卒業して高校に入って素敵な先輩欲しい ね。」
ミッキーの女の子 「 同じだったりしてね。」
黒い服の女の子 「 女子校だったりして 」
さりげない会話にキャピキャピ笑う3人娘。
再び地図を見つめる。
ミッキーの女の子 「 どう散策しようか?」
ポニーテールの女の子 「これで行くとお勧めは、天竜寺、野宮神社、大河内山荘、常寂光寺、落柿舎、二尊院、祇王寺、化野念仏寺、清涼寺、大覚寺、所要6-7時間の旅と なってますが、どういたしましょう、、?」
黒い服の女の子 「 どこに書いてる?」
ポニーテールの女の子 「ここ」
記してあるところを指さす。
黒い服の女の子 「 本当、本当、、」
ミッキーの女の子 「 ご飯食べるところは?湯豆腐は?」
カバンより持ってきたガイドブックを取り出す黒い服の女の子。
パラパラとページをめくる。
黒い服の女の子 「 湯豆腐って以外と高いよ、、」
ポニーテールの女の子 「 これって拝観料いるよね、電車賃220円サイクル800円残金7300円、、いくら持ってきた?」
黒い服の女の子 「 湯豆腐2000円だって、」
ミッキーの女の子 「 ゲッ!まあ成せばなる!」
ポニーテールの女の子 「 成らないような気がする。」
黒い服の女の子 「 3人で1人前は無理よね、、。天竜寺100円、野宮神社ただ、大河内山荘600円」
ポニーテールの女の子 「 大河内山荘パス、パス」
黒い服の女の子 「 600円茶菓子付き」
ポニーテールの女の子 「 (悩む)うーんんん」
黒い服の女の子 「 常寂光寺150円、落柿舎100円、二尊院150円、祇王寺、200円、念仏寺200円、清涼寺本堂200円、霊宝殿100円、経堂100円」
ミッキーの女の子 「霊宝殿、経堂って何?」
黒い服の女の子 「 知らない、書いてない、勉強してない、それで大覚寺300円しめて 2200円成り!」
ミッキーの女の子 「 節約すればなんとか成るね、、」
ポニーテールの女の子 「 うん、でも残り夏休み質素だね。そうだ竹細工の店ってどの辺かなあ」
黒い服の女の子 「 どこか途中にあるよ、出発しよう、その前にここで写真撮ろう?」
黒い服の女の子、カバンよりカメラを取り出し、ちょうどその前を通ったすれ違いの人に
黒い服の女の子 「あのー、スイマセン、、。」
呼び止められた男2人、大学生らしい、、
その一人、ボタンダウンのカッターシャツを着ている。
もう一人、『VAN』とロゴの入ったTシャツを着ている。
黒い服の女の子 「あのーすいません写真撮ってもらえますか?」
ボタンダウンのカッターの男 「いいよ、、。」
黒い服の女の子 「お願いします、すいません」
ボタンダウンのカッターシャツの男にカメラを手渡す。
それぞれ借りたレンタサイクルの自転車の横に行き並ぶ3人娘。
カメラのフアインダーを覗くカッターの男。
カッターの男 「はい、いきます。はーいチーズ。」
シャッターは下りる。
レンタサイクルナンバー8番、微笑んでいるミッキーマウスのTシャツを着た女の子。
レンタサイクルナンバー23番、澄まし顔の黒い服の女の子。
レンタサイクルナンバー31番、首を少し曲げピースサインのポニーテールの女の子。
◯京都 嵐山 1981年春 渡月橋付近
中之島公園の岸には親子ずれ、観光客、学生服の生徒さん―賑やかである。
その学生服の高校生男子、大友、滝川 2人つまらなそうに歩いてる。
フテ腐れている大友、一眼レフに望遠レンズをつけたカメラ小僧。
「このまだ寒い中、誰よ?嵐山に行こうと言ったバカは??」
大友と仲良しのクラスメイト滝川
滝川 「仕方ねえだろ、クラス遠足、多数決!!民主主義なのよ、世の中は。
8組、10組も来てるもんな、大方タレントショップ目的ですな、、。」
大友 「3組は賢いよなあ、大阪城!天守閣に入れば暖かいよ、、、。」
滝川 「どうせ広場で1日レクレーション、同じだと思うけどね。」
大友 「あーあーっ(あくび)滅入る滅入るよナンマイダ、、滅入るついでに滝川よ、
写真撮ってやるからその木にもたれて、、、。」
やや小振りな木の幹にもたれる滝川
カメラのフアインダーを覗く大友
「もっと芸術的にもたれてくれない?芸術意欲なくなる!」
ポーズをとる滝川「こう?これ?こーか?」といろんなポーズをとっている。
大友 「表情!!表情が全然ドラマチックじゃない!!、、、、、」
滝川、大友、2人の情景。
いろんなところに散らばった黒い学生服の生徒達。
観光客やら家族ずれ、お年寄り、黄色い帽子に水色の服の幼稚園児。
保津川に浮かぶカモや水鳥。
嵐山には春の桜が息吹こうとしている。
◯兵庫県立某高校 全景
創立8年らしくまだ新しい、校門前の大きな道路には大型トラックが行き交っている。
開発途中の地域のようだ。裏門近辺はニスの匂いのする長屋が建ち並んでいる。
◯同 2年1組教室 昼休み
モノクロ写真が大友の机の上を埋め尽くしている。
その中の1枚の写真、滝川が木にもたれポーズをとっている写真。
写真を見ている滝川。
得意げに滝川の反応を見ながら喋る大友。
大友 「どう?表情がいまいちだけど、、、。」
滝川 「白黒写真も仲なかいいね。」
誉められた嬉しさと安堵に微笑む大友。
多数の写真を見ながら対話のはずむ2人。
そこへ級友の女の子、菅原が来て滝川の持っている写真を覗き見する。
菅原 「おっ!シブイじゃん!!なかなか良く写っているじゃないの。」
大友 「腕がいいからね、腕が!センス抜群!!、そうそうおまえの写真もあるぜ」
菅原に写っている写真を渡す大友。
菅原 「わっ!きゃっ!!」
騒がしく見ている菅原をそっちのけに
大友 「(滝川に)それでさあ、この写真なのよ、この写真、見てみて。」
その問題?の写真。ややピントはボケ気味の美女が写っている。
大友 「ややボケてるけど美人と思わない?(同意を求める)おまえの写真の後ろに写っている女どもを引き伸ばしたら知らない美女が写っていたからより引き伸ばして 出来上がり、俺のタイプの年上!!美人じゃない?」
その写真をのぞき見る菅原、得意げに喋っている大友、それを見ている滝川。
菅原 「八波先生じゃないコレ?!」
大友 「せんせい?」
滝川 「知らないで喋ってたの君?」
大友 「(狐に飲まれたように)へえ?!何?!」
菅原 「今年転任してきた先生よ、大友君選択英語取ってないから。知らなかったの?たしか10組の副担任。」
大友 「(嬉しそうに)あららーそうなの?身近にいるの?なあんだ。隣は何をする人ど世間は狭くて広いなあ、、、。」
大友、空を見つめてゆっくり席を立ち上が夢遊病者のようにその場を離れる。
滝川 「何?」
大友 「そうと分かれば職員室へ行って仲良くなってこよう、そーそーなのドラマを感じちゃうなあ、、へっへー。」
大友、教室より出る。
やれ、散らかしぱなっしで行っちゃたわよ。」
机の上のモノクロ写真をかたずける菅原。
滝川 「泣いて帰って来る姿が見えるね、それもドラマだね。」
菅原 「本当、ほんと、、。」
◯時が過ぎ 5月際も終え
◯兵庫県立某高校 夏 放課後
夕焼け空、夕焼け色が校舎を照らす。
帰路に向かう生徒達。
◯同 2年1組前 廊下
黒色と茜色のコントラストの長い廊下。
腰ぐらいの高さのロッカーの上に座っている大友。
向こうの方から小走りに来る滝川。大友の方へ、
滝川 「夕方と言えど暑いなあ、走るんじゃなかった、話って何?」
滝川、無造作に誰かのロッカーを開け、下敷きを取り出しパタパタと扇ぐ。
大友、滝川の目を見つめる。
大友 「ここ何ヶ月も悩み悩まれ、衝撃!!の出逢い!!僕は今ここに八波先生に告白する事を決めた!!!」
滝川 「ああ、あれ(思いだした)、まだそんな事考えてたの、人生単調なのね君?!」
力を込めて雄弁に語る大友。
大友 「何とか仲良くなったし、ナイスバデイだし(ヨダレ)あの人になら全てまかして良い!!」
下敷きを大友に向け扇ぐ、滝川。
滝川 「不純な、、本気それ?正気?狂気だろ?」
大友 「マジもマジ、大マジ。先生と生徒のしたたかなるひたむきな愛!!ラブロマンス、ドラマチック!!。」
滝川 「マンガだよマンガ、、、。」
そこへ何故からともなくやって来た見回り巡回中の八波先生。
茜色に染まった2人を不思議そうに見て。
八波 「何してるの?」
緊張し始めた大友。
大友 「はっ、はい、せ世間話などをば少々、GNP国民総生産、機関車トーマス語りは森本レオ、、、。」
八波 「ふーん暇なのね君たち、、。」
大友 「はい、よくそう言う風に言われたり言われなかったり、、。」
大友を呆れて見ている滝川。
滝川 「(ささやき)アホねー。」
八波 「まあ、良い。早く帰りなさいよ、、、。」
2人の元を去っていく八波。
手を振り見送る大友、「チャーオ」
階段を下りていく八波。
大友 「なあ!!いいだろ!!美人だしかわいいし、英語で言うとビューティフル!プリティ!!oh my teacher。」
滝川 「英語は聞いてない聞いてない。俺は別に否定はしないよ、しかし年上には興味がない、、、。俺、松本を狙ってる。」
大友 「誰、それ?!」
滝川 「後輩。」
大友 「不幸な子ね君。」
滝川 「どっちが、、、。」
◯次の日
◯兵庫県立某高校 男子トイレ
とある生徒タバコを吸っているらしく『大使用』のドアが閉まっており煙が漂っている。
小便をしている大友、我慢していたのかプルプル震えている。
大友 「ふーっ、女も我慢してドバッと出したら男同様震えるのかネ、
今度ホームルームの時間に議題として取り上げようっと。」
そこへ勢いよく入ってくる体育教師。
大友を横目に、閉まっているドアを何回も蹴飛ばし
体育教師 「オラオラッ、ここ開けんかい!!。」
すごい剣幕である。まだドアを蹴っている。
仕方なく諦めたのか開くドア、出てくる生徒。
体育教師 「(怒濤の怒り)何しとんじゃあ!」
生徒 「う、うんこです。」
体育教師 「ほおー、おまえケツから煙でるんかい?来い!!」
タバコを吸っていた生徒、体育教師に連れて行かれる。
手を洗いながらその光景を見ている大友。
大友 「ドラマだねー。」
ハンカチを持ってないらしく手で水をピュッと切り学生ズボンで手を拭く。
大友 「よし、告白しよう。今がチャンス。」
◯兵庫県立某高校 情景 夜
グランドには照明灯の明かりの下、運動部がランニングをしている。
◯同 職員室 情景
書き物をしている先生、帰ろうと支度している先生、そんな職員室の風景。
八波先生の前に座っている大友。
微笑んでいる八波先生。
八波 「うん、おもしろい話だった、でもねえ話の必然性も構成力もいまいちね、没。」
意気消沈の大友。
八波 「もう少し話を練ってからまたおいで。」
大友 「はあ、、、。(力無げに)」
八波 「(時計を見て)じゃあ、時間だから会議行って来るね。」
書類を持ち職員室を出ていく八波。
回転イスをクルクル回し元気のない大友。
大友の肩をポーンとたたく友永先生。
友永 「残念だったな、女を口説くにはもう少し説得力のあるセリフを言わないとな。」
友永も会議らしく職員室を出ていく。
大友 「ちぇっ!」
◯神崎川提防―夜―
月明かりが川を照らす。
夏の虫の声が聞こえている。遠くの方ではカーンカーンと工場の音が聞こえる。
藪蚊も電灯の灯りに集まっている。
路肩には無断駐車?の車、車。
白く長い防波堤の壁の上に座り、タバコをふかして滝川を待っている大友。
大友 「 ふむ、教師連盟では先生と生徒の恋愛は禁止されているに違いない!。そんなテレビも在ったしな、、だから八波先生は笑顔で俺を相手にしなかった。その線だな、きっと。あれは合図なのだな、、しかし私は負けない!アタックあるのみ!うんうん。しかし滝川遅いなあ。」
自転車のブレーキの音。
大友 「 遅いんだよバカ!」と言おうとしたがそこに立っているのはお巡りさんだった。
口からタバコを落とす大友。
◯兵庫県立某高校 ―夜― 会議室
ギーギーとイスを引く音。
会議室のドアが開き教師達出てくる。
「お疲れさん。」
「あー忙し、、。」
「疲れた、、。」
「腰痛い、、。」
八波も出てくる。一緒に出てきた40歳の女教師。
女教師「あーっ、もう年やから辛いなあ、こう遅くなると。」
教師達、職員室へ向かう。
八波 「 遅くなると子供さん達のご飯どうしてますの?」
女教師「どうしてるんでしょうねハハ、朝まとめて作ってるんですよ、あとは主人まかせ。」
八波 「 フフ 大変ですネ。」
女教師「大変よ本当、その分早起き眠い眠い。お化粧なんてパパッと3分お肌の曲がり角! もう曲がりすぎだけどハハ」
八波 「 私結婚したら教師どうしようかな?」
女教師「おっ!誰か相手でも出来たの?」
八波 「 学生の子。」
女教師「生徒!?ダメですよ八波さん、本気はダメ!遊びにしなさい!遊びが1番なんてウソウソ。 誰なの?」
八波 「 嘘ですよ、嘘。でも25歳いい年でしょう私、誰かいてもおかしくないのにねー、世間の男どもはプンプンけしからん。」
女教師「クリスマスケーキっていうやつ?」
八波 「 それは男どもの勝手な発想、女25歳といったら熟、熟なのになー」
女教師「さあ それはどうだか、、。」
八波 「 意地悪ですね先生。」
女教師「女40にも成ると妬んじゃうのよ。」
笑う八波と女教師。
◯神崎川 堤防―夜―
壁に持たれてポケーっと月を見ている大友。
自転車でやって来る滝川。
滝川 「すまんすまん、(大友を見て不思議そうに)どうしたの?月にウサギでも見えるのか?」
大友 「 かぐや姫が手を振っている。」
滝川 「おっ!そいつは、ラッキーだな、、。」
大友 「 いいか、俺は今大友君ではない。松田太郎君だ。それに住所はおまえの近所。」
滝川 「訳解らん!」
ポケットよりタバコとライターを取り出し一服しようとしている。
大友 「 吸っても良いけど見つかって住所が俺の近所に変わらないようにな。」
◯兵庫県立某高校前の歩道 ―夜―
車道には車がスピードを出して走っている。
歩道を歩いている八波、帰路へと向かう。
車のクラクションの音。歩いている八波の歩道へ車を寄せる。
八波、クラクションの方を振り返る。
ウインドウが開き顔を出す友永。
友永 「確か途中でしたね?乗りますか?」
八波 「友永先生、あっ、すいません、お願いします。」
◯車中
運転している友永。
助手席に座る八波。
八波 「実を言うと歩きながらタクシーで帰ろうかどうか思案してたんですよ。給料前だしどうしようかなって。」
友永 「グットタイミングでしたね。」
八波 「い、いえそういう意味でなくてあの、その、(困る)」
友永 「(笑って)いいですよ、夏休み前はうちの高校ちょくちょく遅くなりますよ、それで夏休み中は研修三昧ですしね、ぼくなんか夏休みは学生と同じように休みだとばかり思ってましたけどね。」
八波 「私もそう思ってましたよ(笑う)。」
友永 「旅行が好きだから遠くに行ける!と考えてましたけど、全然最近行けないですよ。それより今日、大友が先生に告白してたじゃないですか。」
八波 「フフあの子おもしろい子ですね。」
友永 「僕は去年大友の担任してたし、大友好きですから判りますけど、どうやらあれは本気みたいですね。あいつが回りくどく遠回りにして話すのは脈ありですよ。」
八波 「先生は大友君の味方ですか?」
友永 「味方ですよ。なんとなく似てるんですよね、バカする方法がハハ、あいつはもっとバカですけどね。」
八波 「本当に味方なんですか!?。」
友永 「でね八波さんが転任して来なかったり、もしくは大友がこの学校に入学してなかったら、、、つまりどちらが、どちらか一人でも欠けていたら。」
八波 「先生の恋愛哲学ですか?」
友永 「学生時代こんな事ばかり考えてましたけど、だから今この学校で八波さんと大友 は出逢ったことは『おもしろい子ですね』では少し大友に可哀想ではないでしょうか?彼が産まれていない時には既に八波さんは存在していた、、、、。それが今 出逢った。」
八波 「マンガですね、マンガ。」
友永 「マンガですよね、はは。」
走る友永の車。
× × ×
友永 「マンガかも知れないけど一分先を歩いている人でさえも同じスピードで歩いていたら永遠に出逢わないひとですから、同じ時間を過ごしている彼のことも少しは間に受けてあげなきゃ、、、。」
八波 「フフフ、そうですよね、、、。」
◯神崎川 堤防沿いの長い道
自転車を二人乗りしている大友、滝川。
滝川 「でさあ、どういう風に告白したんだよ八波先生に。」
大友 「『先生!!面白い話があるんですよ...』 『どんな話?』と八波先生は耳を傾ける。
滝川 「それで?」
大友 「そこでだ『ある生徒がいましてね...』って始まるのよ...この出だしがまずかったかなあ、回りくどい事は言わずズバリ本題に入った方が良かったかな?(ため息)ハアーそう言やいつもこのパターンのような気がする、、。」
滝川 「それよか、26歳だぜ今年。やめとけオバハンは。」
大友 「何を言う!我は行く、己の信じる道に悔いはない愛に国境はないとも言う!」
滝川 「はい、はい...(あきれる)」
二人の隣で走っている単車のお巡りさんがいる。
警察 「はい、はい...止まりなさい。」
大友 「ついてるねえ、今年は。」
◯走る友永の車
信号待ちで止まっている。
青になり発進する車。
◯同 車内
八波 「本当に20歳を過ぎると月日が早いですね、何かその歳になって色んな言葉の意味が生きてくるような。例えば小学校の頃よく怒る先生がいて、『先生は本当は怒りたくないんだ!!』って怒るんだけどその意味がその頃全然理解出来なかったけど、今副担任だけどその時の先生の気持ちが今は少し先生の言ってた言葉の真意が理解出来るみたいな..逆に言えば歳を取ったのかな..ふふ。」
友永 「そういう意味で7歳年下の生徒と恋愛!シブイじゃないですか。うちの高校流行ってますよ人気ある男子教員と女子生徒、まあTVドラマのようにドロドロしてませんね現実は、サラリとしてますよ本当。流行っていると言っても創立8年の我校 まだ1組ですけど、在学中はひたすら秘密事項でしたね、卒業して短大入ってそれから結婚したそうですけど...。」
八波 「それってあの一張羅の先生ですよね?。」
友永 「彼はお洒落ですよ、一張羅でなくて同じ背広を数十着持っていてローテーション して着ていたんですから、ズボンも同じ事ですが。そういうのが本当のお洒落だと頑固なこだわりの一品みたいな。色んな先生もいて、そうですよ、早いもの勝ち。」
車内より流れる景色を見ている八波。
八波 「(ささやく様な声。)ロミオとジュリエット―私たちの頃はそんな恋、してみたい!と思ってましたよ私自身。滑稽ですね。夢多きあの頃、想い出した想い出した、私ね内緒ですけど高2の頃ねそういえば恥ずかしながら恋いに恋してた頃ですよね 何かあの何か障害のある中で恋したい、恋されたいみたいな...。そういう気持ちが心に残っていて、はははそういうのを誰か感じてふふふ、それを見事悟られたのかな?大友君に?おもしろいですね。そうですね、
そんな恋愛も、叶う叶わない別として、私『童心忘れるべからず』ですよね..。」
友永 「電車の中で『あっ!いい男!』と思った人のことを今でも覚えてますか?どういう顔か、どういうスタイルか?」
八波 「友永先生は覚えてますか?」
友永 「もちろん!覚えてますよ。なんてね...覚えてませんよ、すれ違った人ですし、同じ点と線の中で生活してないですしね。でもそれがもう一度交わった時、心に何かこう...。なんと表現していいか判らないけど、何かこう...。」
八波 「ふふ、何となく判ります。先生の話っておもしろいですね、うちのクラスの女の子にもダントツ人気ですよ、今少し話ししてても彼女達の気持ちが判るような気がする。問いかけの中に答えを探らせるような、、、。生徒達みんな...」
友永 「僕は一目惚れって信じないんですよ。」
八波 「はあ?」
友永 「知らないところで話をしたかも知れないって事ですよ。」
八波 「話が戻りましたね、、、。」
友永 「(想い出した様に)そうそう、先生におもしろい話を言うのを忘れてた!!」
八波 「(興味気に)どんな話ですか?」
友永 「ある教師がいましてね...。」
◯兵庫県立某高校 ―朝― 登校風景
登校中の生徒達
「 おはよう。」
「 オッス。」
◯同 玄関 下駄箱
スニーカーからスリッパに履き替える大友。
そこへ登校途中の菅原。
菅原 「おはよう、大友君。」
大友 「よっ、!」
興味津々に大友の顔を見る菅原。
菅原 「聞いたわよ、ふられたんだって...。」
大友 「滝川のやろうだな、、まあ、いっか減るもんでないし。」
下駄箱の中に入ってる紙に気がつく大友。
大友 「おっ?!」
紙には、『シンデシマエ...』と書いてある。
微笑む大友、紙を丸めてゴミ箱へ。
大友 「もてるねえ、、、。」
教室へ向かっていく大友、菅原。
階段を昇る2人。
菅原 「ねえ、?どういう風にふられたの?」
大友 「(悟す様に)あのねえ、まだふられた訳じゃないのよ、残念でした。」
菅原 「似たよーなものでしょうに...。」
大友 「あのさあ、僕ナイーブなの、解る?だから静かにして欲しいのよ、次なる作戦思案中なんだから。(菅原を見つめて)何?!気になるの?俺のこと好きなの?」
菅原 「(あきれて)脳天気ね、あなた。そんなんだから敵が多いのよ。」
大友 「味方が欲しい...。(つぶやき)」
◯2年2組教室
◯同 教室内
黒板に『第7回古文小テスト』とチョークで書いてある。
机に向かって鉛筆を走らせる生徒達。
歩き回っている友永先生。
テスト用紙をにらんでる大友。
大友 「いと、おかし、、、全然面白くない。」
フッと天井をみる。
大友 「何かいい作戦はないものであろうか?」
背後から来た友永、不真面目な大友の頭を叩く。
大友 「イテっ。」
友永 「ポケーッとしない!真面目にやる!!。」
大友 「(小声で)うるせー。」
大友の頭を叩く。
大友 「イテっ。」
◯職員室
◯同 職員室内 昼休みの情景
まだ弁当を食べている先生もいる。お茶を飲んでる先生。単行本を読んでいる先生。
人様々な風景である。
八波先生の姿は見えない。
小テストの採点をしている友永先生。その隣の席に身を乗り出し座っている大友。
友永 「(採点をしながら)女の口説き方ねえ、、、、、、、、、(考えてる)、、、、、、、
自分で考えろアホ!!。」
大友 「経験豊富と思って頭下げてるんじゃない、悩める生徒だぜ!何かない?
いい言葉、今まで色々ダマして来たんだろ、、、。その中の一つ教えてよ...。」
友永 「 人聞きの悪いこと言うなバカ。そもそも恋愛というものはダ!自分で考えて、
考え、考え悩んで大きくなったあ.。となるの、だからあっち行け仕事の邪魔。」
大友 「生徒A、、、思いつめて自殺、、、。」
友永 「 死ね死ね大友!」
大友 「冷てえ、先公だなあ...。」
採点途中のテストを大友に渡す友永。
友永 「 ホラ手伝え!悩んでるんだろう採点手伝って汗を流し全てをスカッとさせろ」
大友 「どうやったら採点で汗かくんだよお、先生、頭飛んでるね。」
友永 「 おまえよりは低空飛行と思うがな...。」
ブツブツ言いながら結局お手伝いしている大友。
友永 「 うん、まあ、んんん..(考えてる)突然そうこう言われてもだな、つまり、
うんん、あれだ まあ、、なんといってもだな、、」
大友 「先生?童貞?恋愛したことないの?そんな訳ないよなあ...。」
友永 「(ちょっと怒って)お、おまえ有るのか?この前の視聴覚室の授業でキスもボタン押してなかっただろう...。」
大友 「職権乱用すな!!ちょっと先生の興味本位と言って質問した内容を乱用してやがる!!!。みんなに言ったら信用無くすぞ。」
友永 「(とまどい)まあそうだな、話を戻して、、、まあ何と言ってもだな、
ドラマチックに話を持っていき自分の気持ちを、、相手に考えさせる暇なく打ち明ける!!つまりそこがポイントだ。相手に言葉を出させる暇なく」
大友 「(バカにして)先生。」
友永 「そ、そうか、、そうだろう、、これは?今は古風なラブレター作戦。そうこれが意外と女子の気持ちの中をうごめくんだ!興味本位の質問意外ね女子第一位。」
大友 「お手紙ありがとう、お友達でいましょうね...。ですか??」
友永 「おまえも冷めた奴だなあ、、(再び思考)、、、こんなのどうだ!(得意げ)グッとしぶくきめて...眉間にこうしわを寄せた感じで、たった一言、『君の口説き方教えて欲しい...。』おう!これで完璧!!。」
大友、席を立ち去っていく。
大友 「お邪魔しました。独身男31歳。」
ちょっとムッとして友永。
友永 「さよなら、高2のマセガキ。」
◯2年1組の教室
あと6分で午後の授業が始まろうとしている残り少ないざわめいた室内。
机に座ってポケーっとしている大友。
大友 「(独り言)はああ、何かいいアイデアないのかね...。」
教科書やファイル、筆記用具を持った菅原が大友の前に来る。
菅原 「生物教室に早く行かないと間に合わないわよ、所要時間ゆっくり徒歩4分、走って90秒、必死に走って危ない40秒。(微笑む)」
大友 「(ため息)はああー、(菅原を見て)おまえ女だよな?」
菅原 「当たり前でしょう!」
大友 「問題です。」
菅原 「何?!」
大友 「まあ、仮に明日は菅原さんあなたの誕生日です!」
菅原 「何かくれるの私に?」
大友 「最後まで話を聞きなさい!こういうの喜ぶか質問ね?」
予鈴が鳴る。
菅原 「うん、どうぞぉ。」
大友 「俺が、この大友君がだよ、白いスーツをバシッと決めて着て真っ赤な薔薇を歳の数だけおまえにプレゼント。菅原、おまえ喜ぶか?!。」
菅原 「(考えて...)ちょっと不気味、怖い(笑う)大友君がスーツ着て17本の薔薇を持って立ってるの想像すると笑っちゃうよぉハハハ...。」
大友 「ちゃんと考えろよ。」
菅原 「うん、まあ実際目の前の現実なら...(思案)はずかしいけど..本当にされると人それぞれだけど、嬉しいと思うよ。キザね、やっぱ赤面しちゃうね、」
大友 「かっこいいだろ!?」
菅原 「スクリーン上ではね...。」
微笑む大友、机の中から生物の用具を取りだして席を立ち走り出す。
大友 「(菅原にむかって)早く移動しないと本鈴鳴るぜ!」
生物教室に続く廊下
チャイムが鳴る。キーンコーンカーンコーン
走る生物教室に向かう大友。
向こうの方より八波が授業のため教室に向かって歩いている。
走る大友。
八波 「何してるの!!予鈴が鳴ったら移動しないとダメでしょう!間に合わないよ!」
八波とすれ違う大友。八波に向かって。
大友 「先生!!感動させますよ!待っててください!!!」
走り去る大友を不思議そうに見ている八波。生物教室に入る大友。
八波 「何考えてるんだか?理解出来ないねあの子...。(不思議、摩訶不思議)」
その八波を通りすぎる走る菅原。
菅原 「うわっ!!遅刻、遅刻。」
生物教室に姿を消す菅原。「遅れてすいません。」
その光景に何故か微笑む八波。
走り去る大友を不思議そうに見ている八波。生物教室に入る大友。
八波 「何考えてるんだか?理解出来ないねあの子...。(不思議、摩訶不思議)」
その八波を通りすぎる走る菅原。
菅原 「うわっ!!遅刻、遅刻。」
生物教室に姿を消す菅原。「遅れてすいません。」
その光景に何故か微笑む八波。
◯海の家 『大正浪漫』 次の日
客で賑わう、かき氷の客を必死でさばいている大友。
太陽の熱と鉄板の熱で汗まみれの中、焼きそばに青春?してる滝川。
おしゃれな麦わら帽子にサングラスのグラマーなビキニの女の客が氷の前へ。
客 「レモンひとつ下さらない...。」
大友 「(驚く)おおっ!てめえ、菅原?!」
菅原 「(ちょっと照れて)ヘヘッ...。どう?(ポーズをとる)なかなかグラマーちゃんでしよう、、、。」
大友 「(目のやり場に少し困る)だ、誰と来たの?ひとり?」
菅原 「一人で来るわけないじゃん、真紀さんと直美ちゃんとおきん。みんなすごいわよ色っぽいよ!スタイル抜群!!」
大友 「真紀さんは丸太じゃん?!」
菅原 「うわっ!恐ろしき発言!!言ってやろうっと、うそうそ、、そんなことないよ.すごいよ!呼んで来ようかみんな。」
大友 「呼ばなくていいよ、呼んだら殺すぞ!(まだ目のやり場に困っている)はいレモン4個250円です。」
菅原 「えっ?」
大友 「いいから早くあっち行け、もう来るなよ...。」
菅原 「(微笑む)ありがとう。じゃね、頑張ってね。」
大友 「言われなくても頑張ってるよ。」
菅原 「(微笑む)ひと言多いよいつも、じゃぁ(滝川を見て)滝川君も頑張ってね。」
手を振る滝川。
氷を4個持って浜辺へ向かう菅原。
大友の所へ滝川が来て。
滝川 「ありゃりゃ、なかなか同級生もいいものだね...。」
向こうへ行く菅原の後ろ姿を見ている2人。
大友 「以外といいケツしてるなぁ...。」
滝川 「賛成。」
◯浜辺
浜辺を歩くかき氷4個持った菅原。
ナンパ男が菅原に近づく。
男 「彼女ぉ、一人?」
無視する菅原。
男 「彼女ぉ?冷たいねえ、どっから来たの?!」
菅原 「海の底。」
◯海の家 『大正浪漫』
菅原のその光景を見ている2人。
次に女の子に声をかけようとしているナンパ男。
去っていく菅原。
大友 「あれじゃぁ、、男出来ないな今年も。」
滝川 「以外と堅いねえ...。柔らかそうだけどなぁ?胸は...。」
大友 「本当、驚き。」
笑うエッチな高校生2人。笑い声は大空へと消えていく。
◯兵庫県立某高校 二学期の始まり
◯同 二年一組 教室内
真っ黒に日焼けした面々。
皮が剥けボロボロ顔の生徒もいる。
真っ黒な大友の元に菅原来る。
菅原 「やあ。(挨拶)」
大友 「やあ。(挨拶)」
菅原 「なぁ?あの事言わんとってなぁ?!」
大友 「何の事?!」
菅原 「海辺のグラマーな私の事。これ以上男に人気でたら断るの大変やから...。」
大友 「(笑う)おまえ、彼氏は?!」
菅原 「いないけど...?」
大友 「じゃぁ、いいじゃん!」
菅原 「ダメなの!見たの大友君だけだからね...。あんたに言わしたら何か変な様にみんなに伝わるでしょう、男好きムチムチぷりんぷりっ。」
突如現れる滝川。
滝川 「その通り!!こいつ言葉を語るの得意だから...。」
大友 「うるさいなぁ!!(菅原の胸元を見て)制服着てるとあんなデカイように見えないのになぁ、身体細いし、、。」
大友を教科書で叩く菅原。
◯日曜日 晴れ
◯阪神電車高架沿いの長屋の情景
高架下は更地が目立つが道路は舗装されている。
木造立ての建て屋が立ち並ぶ、高い建物はというと銭湯の煙突ぐらいである。
今は使用していない井戸の名残がまだ残っている路地裏もある。
色んな種類の花や植木鉢が玄関の廻りを取り囲んでいる。
一眼レフのカメラでその風景を撮っている大友の姿がある。
◯兵庫県立某高校 月曜日 放課後
◯写真部部室
◯同 暗室内
かすかな赤い灯りの中、大友の顔が現れる。
感光板より印画紙を取りだして現像液の中に入れる。
竹ハサミで印画紙をつかみ現像液の中で印画紙を泳がしている。
真っ白な印画紙よりゆっくりとモノクロの下町の写真が浮かびあがる。
同じ作業をハナ歌まじりで繰り返す大友。
印画紙を停止液に入れ、次に定着液にいれる。その隣の洗い場に溜まった水の中には
既に焼き上げたモノクロ写真が流水の中漂っている。
◯同 部室内
窓の外はもう暗い。部室内には色んな写真が所狭しと貼られている。
他の部員も何人か残っている。レンズを磨いている部員。
写真雑誌を見ている部員。「お先に..」と帰る部員。
机の上に焼き上げた写真を積み上げ一枚一枚鑑賞している大友。
写真部部長、大友の所に来る。
部長 「今度の下町イメージコンテストの写真か?!」
写真を何枚か手に持ち見る。
部長 「以外とこの近辺下町残っているからなぁ、いい写真撮れたか?」
大友 「FujiのAM3(印画紙の種類)で焼いたんですがちょっとコントラストがイメージより薄いような絵もあっていっそFM4か5で焼き直そうかなって、でもAM3でもいいのありますよヘヘ。」
部長 「俺も負けずにOLMPUSフォトコン狙ってるからな。」
× × ×
写真を見ている大友。他の部員はもう居ない。
ドアが開き滝川が入ってくる。
滝川 「帰ろうと思って上見たら灯りついてるから大友かな?と思ったら大当たり!!」
大友 「放送部終わったの?」
滝川 「今週当番じゃない、それより『たつみ屋』行かないか?腹減った。」
◯高校近くのお好み焼き屋『たつみ』
◯同 店内
10畳ぐらいの店内、奥に座敷と称した食べるところがある。
座敷には仏壇も冷蔵庫も家庭生活用品もある。
10畳の店内にはおばちゃんが焼く大きな鉄板があり、他にテーブル2席ある。
店は客で賑わっている、毒舌交じりにお好み焼きを焼く店主のおばちゃん。
座敷と称した所に座っている大友、滝川。
大友 「おばちゃん!俺、イカ玉モダン一個半。それとペプシ。」
滝川 「俺、イカモダン ダブル。」
店主 「はいよ、ジュースはセルフやでコップはここ。」
× × ×
鉄板の上にあるモダン焼きを頬ばりながら写真を見ている滝川。
大友 「(口をモグモグさせ)テーマ、あなたの街の下町。今度のフォトコン!入賞三十万円なり。入選をねらう!!」
滝川 「入選をねぇ、インパクトがねぇ、、」
ゲソ足を食べてる大友。
写真を見ている滝川。
モダン焼きの端部分を食べてる大友。
次の写真、次の写真を見ている滝川。
滝川の反応を気にしながらハフハフと食べてる大友。
写真を見ている滝川。
大友 「(滝川の反応にしびれを切らし)何とか言えよ...!!」
滝川 「(きっぱりと)まったく判らん、写真の良し悪し。でも良いんじゃないの」
× × ×
鉄板の上のモダン焼きはきれいに食べられている。
お腹いっぱいで満足な二人。
大友 「撮ってる時はあまり気にならなかったんだけど、見てみてこの写真。」
畳の上に散らばった写真の中から任意の写真を探す大友。
大友 「あった、あったコレ見て。」
下町風長屋の写真その隅の方を歩いている女の子。
滝川 「誰?」
大友 「それでこの部分を引き伸ばした写真がこれ。」
あきれる滝川。
滝川 「おまえ、好きだなぁこのパターン。」
大友 「この街もまんざら捨てたもんじゃないね。」
滝川 「(引き伸ばした写真を手にとって)でもなかなか、かわいいね。」
大友 「だろー、意見は一致した。今度の日曜日暇だろ?探すぞこの娘。」
滝川 「( 驚き)えっ?!俺も?何で?それにおまえ八波先生一直線だろ!浮気するのか?」
大友 「バカ、八波先生はちゃんと来年告白する準備中だよ、しかしだ!この写真に写っている娘は、何かドラマを感じる、つまり我々のシンデレラストーリーだ!」
滝川 「演劇部にでも入ったら、最近おかしい大友君?」
大友 「よく考えろよ、ただね、ここに薬師丸ひろこが居たとする。まだ誰も知らない一般の女の子だとする。」
滝川 「う、うん」
大友 「その薬師丸ひろこがおまえの彼女だとしてみろ、俺達は滝川の彼女のこと『なんてかわいい子を彼女にしたんだ!羨ましい!』と学校中思うぜ。出逢いは早いもの勝ちかも知れないって事」
滝川 「(少し感化された)そ、そうだな...。」
カバンより二万五千分の一縮小の地勢図を取り出す大友。
大友 「作戦を立てよう。写真を撮ったのはこの辺で写真の光線の入射角度から判断して午後一時頃。」
滝川 「おまえって感心するぐらい行動力あるなぁ、八波先生と出来そうな気がしてきた」
大友 「当たり前よぉ!俺に不可能はない!!!。」
◯日曜日 大物公園
公園内にSLが置いてある。
四季の木々が生い茂るその情景。
大友と滝川がいる。
大友 「六時にロイヤルホストに集合な。地図と写真ちゃんと持った?」
滝川 「はい、はい。」
大友 「じゃぁ、聞き込み開始!」
二方に散る二人。
◯下町風景
辺りを見回しながら歩いてる大友。
◯路地裏
歩いている滝川。
◯民家が並ぶ道路
歩いてくる大友。植木にじょうろで水をあげてる主婦がいる。
主婦に小走りに駆け寄る大友。
女の子の写っている写真を見せ、
大友 「すいません、こういう人知りませんか?確かこの辺だと思うんですが...。」
主婦 「(不審に思う)あんた誰?」
警察手帳を出す要領で生徒手帳を見せる大友。
大友 「学生です。」
◯写真に写っている建物の前
写真と建物を見比べて推理している滝川。
滝川 「こっちの方へ行こうとしているのか?帰ろうとしているのか?行こうとしてるんだろな多分、あっち方面に家が在るということだな。基本だね、あっち行こう!」
あっちに行く滝川。
◯ 情景
青空が夕焼け空に変わろうとしている。
◯路地内 狭い通路
豆腐屋の笛の音が聞こえてくる。
歩き疲れている大友。向こうから自転車に乗った豆腐売り。
大友 「(豆腐屋に)こんな人知りません?」
自転車を止め写真を見る豆腐屋。
ニターッと笑い大友を見る、白髪で歯の抜けたお爺さん。
豆腐屋「こういうお客は見たことないが、だいたいがおばさん連中やお使いのちびっ子だからね。何?お宅のコレ?」
短い小指を立てる豆腐屋のお爺ちゃん。
大友 「いえ、まぁ、似たようなものですけど...。」
豆腐屋「そーかい、(しみじみと)俺もコレぐらいの娘がいて、駆け落ちか何か知らんが、出て行きやがった。」
豆腐屋、写真を見ながら座り込む。
大友 「?!。」
豆腐屋「まあ、立ち話もなんじゃから座れや。」
大友 「いえ、僕は...。」
豆腐屋「豆腐食べるか?」
大友 「いえ、いいです。」
豆腐屋「遠慮せんでもええがなぁ、」
立ち上がり箱より豆腐を取り出す。
豆腐屋「こんな事もあろうかとネギと醤油を持ち歩いているんだ。」
あっけにとられる大友。
豆腐屋「あんたが初めてだよ、こうして豆腐食うの、おっ、ネギ忘れた、ちょっと待ってろよ、(谷木さんの家に入るお爺さん)谷木さーん、ネギ貸してくれないか?」
◯阪神電車高架下 夜
とぼとぼ歩く大友、滝川。
滝川 「結局...。」
大友 「豆腐二丁食っただけ...。」
滝川 「有力な情報も無しか、、、。」
元気を使い切ったみたいに歩いている
大友 「来週は暇か?。」
滝川 「やだよ!俺!忙しいからきっと。」
大友 「写真に写っているからどこか近くにいるはずなのにな。」
滝川 「おまえと付き合ってるとろくな事ないなぁ。」
大友 「結構乗ってたジャンか。(ため息)はあぁ、人と出逢うってことは...むずかしいことで...」
向こうから来た白い車(ソアラ2000GT)から降りる、写真の女の子。
ソアラは発進する、車の中の彼氏に手を振る写真の女の子。
大友 「むずかしいことで...あるのかないのか...わからない...。」
あまりの早い結末にあっけらかんの大友、滝川。
車が遠くに去り、自分の家の方向、大友達の方向へ歩いて来る女の子。
滝川 「そりゃぁ彼氏ぐらいいるわなぁ。」呆然
大友 「残念無念。」
滝川 「えっ?おまえ狙ってたの?八波一本と言ってたくせに!浮気もの」
大友 「に、人間何があるか判らないだろ。」
滝川 「おまえの人生観って素晴らしいねぇ。しかし残念かわいい子。」
大友 「えっ?おまえ狙ってたの?」
滝川 「に、人間何があるか判らないだろ。」
大友 「そうだろー。」
こっちに向かってくる女の子。
二人女の子に向かって礼。
二人 「おめでとうございます。」
女の子の写った写真を渡す大友。
突然の出来事に驚く女の子。
女の子「?!。」
× × ×
ガードレールに横一列にもたれている三人。
女の子「(不思議に)私がシンデレラ?。」
大友 「写真に偶然写っていたんだけど、これも何かの縁かと思ってね、君を探求してたのよ。」
女の子「そ、そうですか?」
滝川 「しかし、すでに王子様は現れておいでで...。」
大友 「ふふっ、これ副賞の盾です。お受け取り下さい。」
銭湯のげた箱入れの木で出来た『1』番のカギにマジックで
『下町シンデレラ』と表記された盾?を女の子に渡す大友。
この発想に微笑む女の子。
女の子「(笑顔で)これも何かの縁よ、また街で会うことがあったら挨拶ぐらい交わしましょうネ。」
右手を二人の前に出す。
女の子「河野 明子です。明るい子と書いて明子。よろしく」
握手する大友。「大友です。」握手する滝川。「滝川です。」
河野 「ヨロシク、面白いね自分たち、君らみたいな人に出逢ったの初めて。」
大友 「そう言われるのが我々の生き甲斐です...。」
微笑む河野。
◯兵庫県立某高校 次の日
◯二年一組教室
だらけている大友、滝川。
滝川 「しかし、昨日は疲れたなぁ。」
大友 「まあ、そう言うなよ。最後に三人で思いでの写真撮ったし、知り合いになったん だから、点と線交わったのよ、これからこれから。これから始まる物語。このパターン気に入ったから流行らせない俺らで?」
滝川 「銭湯のカギ無くなるぞ。」
昨日の写真を持ってる大友。
菅原がやって来る。
菅原 「よっ!漫才コンビ。今日は元気ないね。もっとも元気なときはバカやってる時だけだけど。」
大友 「バカ相手する元気ないから、用がないならあっち行ってくれ...。」
机の上の写真に気がつく菅原。
菅原 「あらっ?これ?河野さん?!」
大友 「?!」
滝川 「?!」
菅原 「どおして?こんな写真持ってるの?」
大友 「す、菅原さんの、お友達?!」
菅原 「中学校一緒だったよ。」
滝川 「女子に聞くという方法もあったなぁ。誰だ?探そうと言ったバカは!!。」
大友を教科書で叩く滝川。
大友 「痛てて、勘弁を滝川様ぁ。」
菅原 「ねえ?どうして知ってるの河野さんの事、今何してんの?。」
大友 「知らないよ...。」
菅原 「(想い出し笑い)彼女おもしろい子でさ、私は絶対玉の輿に乗るんだ!!それが夢って言ってたのよ中学の時、ませてるでしょう...。(笑う)」
笑う大友、滝川。
菅原 「会いたくなったなぁ、今何してるんだろ?」
大友 「(皮肉まじりに)今頃ガラスの靴でも磨いているんじゃないの?!。」
「?!」の菅原、微笑む滝川。
◯時が過ぎ
◯秋空
◯走る近鉄電車(近鉄御所線)
山間と広大な田んぼの中走る三両編成の列車
◯同 車内
車内にはハイキングに行く人たちも多くいる。
絶好の行楽日和の日曜日。
ハイキングに行くのにはちょっと軽装すぎる大友達メンバー。それぞれ秋の服装。
大友の声『クラスの気の合ったメンバー男9人、
女は菅原、この前知り合ったシンデレラ、そして無理言って来て貰った保護者役の八波先生の計12人で、この私、大友の主催するハイキングとなりました。』
大友の横には八波が座っている。楽しそうに喋っている。
滝川、ギターを(なぜか)持ってきた大久と喋っている。河野と菅原も楽しそう。
川釣りスタイルの長瀬、クーラーと竿袋を持っている。どこに行こうと勘違い?したのか
黒い上下のジャージ姿にサンダルの尾瀬。砂長谷、萩岩、猪間、坂本。
◯近鉄 御所駅
改札より出てくるみんな。
◯駅前 バス停 葛城ロープウェーイ前行き
バスの来るのを待ってるみんな。
◯バス停 葛城ロープウェーイ前
バスより降りるみんな。
◯葛城山頂行きロープウェイ乗り場前
菅原と大友がやり合っている。
菅原「山登りなんて聞いてないわよ!!せっかくスカートはいて来たのに!!」
大友「履いてくるおまえが悪いんだろ。ハイキングって言ったろ!」
菅原「山登りがハイキングなの?!普通に考えて行きも帰りもロープウェイでしょう。」
大友「考え方の相違だよ、行きは山登り!!」
八波「行こうみんな。さあ山登りよ!身体もつかしら?」
長瀬「先生、本当にフィッシングする所、在るんですかねぇ...。」
八波「さぁ、主犯があれだからねぇ...。」
× × ×
山道を登るみなさん、ワイワイと楽しそう?
× × ×
大友「先生の高校時代って何してたの?」
八波「同じ事してたよ、大友君みたいな走りながら考える子が主催のレクレーションとかみんなでキャッキャ文句言って楽しんでた。君と居るとなんか懐かしさに感動するね...。こんなもんだよ高校時代は、でも大友君よりはあの頃のみんなおとなしかった様な気もする、もっとも君は何か違う。」
大友「それって誉めてるの?」
八波「(笑って)紙一重だね...。」
× × ×
菅原「変わってるでしょう大友君。」
河野「珍しいよね最初逢ったときは何者?って思ったよ、」
菅原「彼氏っていくつなの?」
河野「大学二年。」
菅原「(興味津々)出逢いは?!」
◯頂上付近
小さな滝がある。
澄み切った河には小魚が泳いでいる。
長瀬「俺ここで釣りして行くから帰りに呼んでくれ。」
大友「そうはいかないよ。」
クーラーを開けた長瀬、驚く!!
長瀬「テグスもルアーもおもりも...!!!」
クーラーの中には肉や野菜が入っている。
大友「バーベキュウパーティだから、悪いとは思いながらつい...。」
滝川「トイレに行ってる隙にちょっと、、、。」
釣り竿ケースを開けるとビールやジュース。
長瀬「うげっ!!」
尾瀬、ポケットより釣り糸と針を出す。大久、手頃な木の枝を折り長瀬に渡す。
大友「頂上で準備してるから魚たのむよ!」
河野「彼?怒らないの?」
菅原「怒ってるわよ!このメンバーこれが普通なのよ、信じられない世界でしょう。」
八波「本当、犯罪スレスレ、私保護者役務まるかしら...。(不安)」
菅原「大友君、先生のファンだから大丈夫ですよ。」
◯葛城山 山頂
360度見晴らしの良い晴れた風景。
雲が生き物の様に流れている。
『葛城山山頂』と記されたオブジェの前で記念撮影のみんな。
× × ×
バーベキューの準備をしているみんな。
八波「何年ぶりだろこんな事したの?」
大友「参加して良かったでしょう?」
遠くで尾瀬の声。
尾瀬「大友!バンガローの店で鴨肉売ってるぞ!!肉足りるか?」
滝川「肉、三キロ持ってきたけど足りないか?」
大友「(大声で)二キロ買っといて。」
尾瀬「OK!!」
炭を並べてる八波。
八波「バカ出来るのこの時だけだよね、楽しいよ、ありがと。」
大友「(少し照れながら)ちょっとは惚れなおした??...。」
八波「何言ってるの?...。あっ、それとビールの事だけど、一応保護者、教師ですので禁止だからね!!」
大友「えっ?!」
八波「飲み過ぎダメよ!」
ホッとする八波の周りのみんな。
長瀬、魚を持ってくる。
長瀬「大漁!!。結局は腕よ腕!!!。」
菅原「すごい!長瀬君!で?誰がさばくの?」
互いに見つめ合うみんな「...........。」
パチパチと火が燃える。肉も焼ける、魚も焼ける。
楽しそうに食べてるみんな。
魚を食べてる長瀬。
長瀬「自分でさばいた魚は格別うまい!!!」
河野「釣ったの長瀬君だしね、川魚初めて食べた、おいしいね。」
誉められてちょっと嬉しい長瀬。
滝川「二日後お腹痛くなかったらいいけどね。」
八波「大丈夫よ、長瀬君。完璧よ、私より上手い。しかし、おもしろい特技持ってるね。」
ビールの空き缶も積み重ねられてほろ酔いのみなさん。
葛城山山頂はみんなの楽しさに包まれている。
× × ×
ロープウェイ下りに乗っているみんな。
夕焼けが山に照りつけとても美しい。
◯近鉄 御所駅
電車を待つ大友以下みんな、他の人たちも多少いる。
みんないい気分なのでそれぞれ唄を口ずさむ。
ちょっとはずかしい八波、まわりを気にしている。
歌うみんな。盛り上がる。一曲目が終わり次の前奏が大久によって奏でられる。
2曲目は長渕剛の『巡恋歌』だ。
歌うみんな
昔を懐かしむ様にみんなを見つめる八波も少し酔っているようだ。
列車が来て乗り込むみんなだが歌うのを止めない...。
みんな本当に楽しそうだ。
◯走る列車
夕闇の中走る列車からは楽しそうな歌声が聞こえてくる。
八波の心の声『卒業してから意味が...解るんだよね...』
◯列車内
楽しそうに歌うみんな。
疲れたのか八波の肩を枕に幸せそうに寝ている大友。
その大友を見て優しく微笑んでいる八波。
八波の心の声『高校時代のバカ騒ぎ...。』
◯時が過ぎ
◯兵庫県立某高校
正門付近に植えられた多くの木々は紅葉に染まっている。
◯同 中庭
中庭の木々も紅葉に染まっている。
八波が小山の芝生に座っている。
八波を100-200ズームレンズで色んな角度から撮っている大友。
八波「まだぁ?大友君?五時半から職員会議なのよ。」
大友「もうちょっと、この紅葉と先生のコントラストがなかなかマッチして...。」
八波「(微笑んで)だって、白黒写真でしょう?一緒じゃないの?。」
八波の微笑んだ所を連写してカメラに押さえた大友。
大友「OK!ありがとう先生。」
八波「恥ずかしいからもうやんないよモデル。」
大友「大丈夫、大丈夫って。」
八波「何が?」
大友「さて?(微笑む)。」
◯写真部部室
◯同 暗室内
半切サイズの大きな印画紙を現像している大友。
印画紙からは八波のUP写真。
大友「Good!!」
◯生物教室準備室
昼休み、八波先生と同僚の生物教師の三宅先生がお昼を食べている。
はがき大の大きさの八波の写った写真を数十枚見せてる大友。
写真を一枚一枚見るたびに驚きや、微笑み、いやな顔、表情が変わる八波。
よく写ってる、という表情の三宅。
その八波の表情を楽しそうに見ている大友。
半切サイズの写真をパネルにした写真を八波に見せる大友。
八波の微笑みの写真。をプレゼント。
恥ずかしい八波、顔を赤らめ写真を隠すように抱きかかえ照れている。
笑っている三宅。満足げに微笑む大友。
◯兵庫県立某高校
どんよりとした低く立ちこめる青空。
正門付近に植えられた多くの木々は葉も枯れ冬を待つ。
吐く息も白く、登校する生徒も手袋やマフラーを身に付けている。
自転車で登校している生徒は頬と鼻が赤く染まっている。
使い捨てカイロを両手で揉みながら登校している大友。
◯同 げた箱
「おはよう」とあいさつが聞こえる。
上履きに履き替える大友、寒そう、眠そう。
向こうから本を読みながらげた箱にやってくる、クラスメートの演劇部の女生徒、
早見が来る。早見に気がついた大友。
大友「おう!早見、おはよ!彼氏出来たんだってな。」
早見「おはよう、」
大友「今度のシナリオ読んでるの?」
早見「違うのよ、源氏物語の本。やっと三巻読んだところなのよ、あぁしんどい!!」
大友「勉強熱心だな、文化系の大学でも入るのか?」
早見「今度の彼がね源氏物語に興味があるらしいのよ、何とか話題に合うように
勉強してるのよ。」
大友「(微笑ましく)はは...。前の彼は物理学系だったろ?!おまえいつか東大に
入れるぞ。」
早見「そうなの、女って色々大変なのよねぇ...。」
靴を履き替える早見。
早見「紫の君が朝起きてこなかった...うんぬんかんぬん...。」
大友「大変だねぇ、年上と付き合うと...。」
◯帰り道 夜
大友、正門より出る。ポケットより使い捨てカイロを取り出し揉みほぐす。
大友「寒いなぁ!!冬は嫌い。もうこのカイロ温くない、、。」
ポケットに手を入れ肩を上げ夜道を歩く大友。
夜道、車はライトを付けてビュンビュンと大友を追い抜かす。
ふと前を見ると八波が歩いている。八波に駆け寄る大友。
大友「先生!」
後ろを振り返る八波。大友が来る。
大友「今帰りですか?早いですね。」
八波「珍しく今日は早かったのよ、ラッキーと思って。仕事押しつけられる前に
退散しよう!という理由。」
帰り道歩いてる大友、八波。
大友、寒そうに使い捨てカイロを揉んでいる。
歩きながら八波の横顔を見ている大友。
大友の目には八波が(街灯バックに)輝くように見える。
ドキドキしている大友。
八波「どうしたの?いつも学校のような元気ないよ...。」
大友「いやぁ、何か、ちょっと、恥ずかしいような、嬉しくて、どうしていいか...。」
大友、前を向いて八波に歩調を合わすように歩いてる。
八波「照れてるの?!」
大友「ちょっとだけ...。」
八波「へぇー、知らない面を見てしまったわ、私。」
大友「意外とデリケートなんですよ...芸術家だから...。」
八波「本当だよね、写真ありがとう、ちゃんと私の部屋に飾ってるから。自分で言うのも
なんだけど美しいねあの写真の私、、、ハハハちょっと自惚れ?」
大友「いえいえとんでもない...。」
会話がとぎれ歩いている、何かぎこちない雰囲気の二人。
大友「(話題を切り出す)先生。」
八波「?!」
大友「........。」
八波「何?!」
大友「映画好きですか?!」
八波「あまり見ないわねぇ...。」
大友「そ、そうですか...。」
歩いている二人。
八波「本とか何か読んでる?。」
大友「そっ!!す、推理小説好きなんですよ。」
八波「トロフツの『樽』とか?あれは面白かったね!」
大友「すいません、『樽』は読んだ事ないです。」
八波「そう、、、。」
大友「アガサクリスチイが好きでね、ABC殺人事件、そして誰もいなくなった、おもしろいですよねぇ!像は忘れない、とか、オリエント急行殺人事件!これ有名!映画にもなりましたね(得意げ)白昼の死角、これも映画化されるんですよ、ナイル殺人事件という題名で...。」
八波「読んだことないから分からない...。」
大友「そ、そうですか...。」
声が段々とフェードアウトしていく大友。
八波「(ちょっと気まずい)最近読ね、読んだと言うより他の先生が面白いから読んで見なよ!と貸してくれたから、読まされたから、読んだんだけど「おとみ」の書いた『気まぐれ天使』青春小説と言うかSF青春ラブロマンス?ラブコメディ?どのジャンルか知らないけど面白かったよ。」
大友「主人公が五年前に本当は死んでいて残り一年間記憶の戻って無いはずの一年間の生きていたならあった時間の生活の話?僕も読みました、発想が面白いですよね、」
何とか話の盛り上がる二人。
歩くスピードも相まって楽しそうに話す大友、八波。
◯本屋
推理小説のコーナーで本を探している大友。
大友「クロフツの『樽』、樽、樽...。樽は何処だぁ、何か早見の気持ちがよく分かるような気がしてきた、樽、樽あった!!。男も大変だなぁ...(しみじみ)」
◯時が過ぎ
◯兵庫県立某高校
どんよりとした空。
登校中の生徒達。小さな粉雪が舞っている。
◯同 二年一組教室
寒そうに教室に入ってきた滝川。席に座っている大友が視線に入る。
大友ブルーのマフラーをしている。
滝川「マフラーどうしたの?!」
大友「(幸せそうに)八波先生からのプレゼント!!写真のお礼という名目だけど...着々と進行中です、今は今だけど、何年か経ったら俺って...。初心忘れるべからず、歴史に残る恋をしたいね、日に日に何か気持ちが沸々と...なーんか俺って...凄いなぁ...。」
放心状態、自分の世界に浸ってる大友。
滝川「..........(冷たい目)....................。」
◯放課後
廊下を歩いている大友。八波にもらったマフラーをしている。
◯時が過ぎ
◯新学期 3年2組
三年生になったみなさん。担任の古川先生(髪の毛薄い)の挨拶。
大友の姿がある。滝川の姿も見える。女生徒たちの面々、菅原の姿も見える。
◯1970年 京都 嵯峨野
うっすらと光の入り込む竹藪、遠くからはセミの声。
竹藪の小径を歩く人々。
◯天竜寺
堂々とした大寺である。総門をくぐると、両側に瓦屋根の土塀が境内まで広く続く。
◯天竜寺南側 湯豆腐 嵯峨野
入り口の前にはレンタサイクルが置いてある。
サイクルナンバー8番、サイクルナンバー23番、サイクルナンバー31番
◯同 店内
天井は低いが30畳の広い座敷にテーブルが規則ただしく並んでいる。
鍋を囲んで食事をしているお客さんたち、着物を着た仲居さんが
ゆっくりと忙しそうに歩いている。
三人娘の前に仲居さんが料理を並べている。
ご飯、季節の京野菜3品、天ぷら(エビ2匹、シシトウ、レンコン、なす)
付き出し、田楽コンニャク二本。
ミッキーマウスのTシャツを着た女の子
「(びっくり)湯豆腐だけじゃないのね!」
黒い服を着た女の子
「お腹いっぱいになるね。」
ポニーテールの女の子
「(わくわく)いただきます。」
仲居 「(微笑み)お豆腐は鍋のふたのこの穴から湯気が出たら食べよし...。」
× × ×
湯豆腐を食べてる三人娘。
ミッキーの女の子「(驚き!!)こ、これが豆腐!?美味しすぎる!!」
黒い服の女の子 「この舌触り...。美味しいネ!!」
ポニーテール 「家で食べてた豆腐って何なの?!絹ごしでもこんな味しないよ!」
黒い服の女の子 「お湯のだしも味があるよ?水が違うのかなぁ?」
ポニーテール 「(幸せ)豆腐...。甘くてほんのり柑橘系。美味しい.....。」
ミッキーの女の子「(鍋の中を見て)この細かなの柚子じゃない?」
黒い服の女の子 「隠し味?!」
一生懸命食べてるポニーテールの女の子。
ポニーテール 「これ湯豆腐ちゃうわ、美味しいわ!!」
黒い服の女の子 「されど豆腐。でも初めて!!」
ミッキーの女の子「口の中でとろけていくー!」
幸せそうにワイワイ食べている。
◯野宮神社から続く竹のトンネル
散策している人々。
レンタサイクルでゆっくりと走り去る3人の女の子。
◯小さな踏切手前の小さい店。
遮断機が鳴り、山陽本線の列車が走っている。
お店で買ったソフトクリームを満足げに食べている。
◯化野念仏寺
境内には無縁仏石像、石仏(8000体)で埋められている。
◯同 境内
石像を一体一体見ている三人娘。
ミッキーの女の子「この石像の中に自分に似ているのがあるんだって。」
黒い服の女の子 「三十三間堂の仏像じゃぁなかった?それって?」
ミッキーの女の子「同じ京都だから一緒なのよ、きっと...。」
ポニーの女の子 「この顔、4組の青木さんに似ていると思わない?」
ぽっちゃりした石像。笑う二人。
黒い服の女の子 「フフ...。雰囲気あるね。」
× × ×
多くの石像の中歩いている多くの観光客。
入り口でもらった念仏寺の概要の書いた紙を見ているミッキーの女の子。
ミッキーの女の子「付近から出土した約8000体の無縁仏の石像、石仏で埋まり人の世の無常をを漂わす...。無常ってどういう意味だっけ?」
ポニーの女の子 「この前授業でやったね確か、諸行無常の響きありって。」
黒い服の女の子 「この世の物全ては滅びては生まれる、世の中変わりやすくてはかない事。じゃぁなかった?」
ポニーの女の子 「何かそう言う感じだった、かしこいねぇ...。」
黒い服の女の子 「(石像を見て)怖い顔やらかわいい表情のやら色々あるね、これすごくかわいい!!(気に入った)」
ポニーの女の子 「趣味悪いー、ダメよダメダメ、私も探そ!」
黒い服の女の子、その雰囲気を写真で撮っている。
気に入った石像の顔、何となく1982年の大友に似ている。
その石像の顔が1982年の大友の顔にオーバーラップして
◯大友の顔 (走る列車内)
大友の声 『 この日の来るのをどれ程待ち望んだか...。』
大友の後ろの景色は流れている。
◯走る列車
『 1982年8月20日 』
◯同 列車車内
それ程込み合っていない車内。
席に座っている大友、髪の毛をビシッとセットして白いスーツ上下に白いネクタイ、
白い靴、手には丁寧に飾られた赤い薔薇27本。
大友 「薔薇は向こうで買えばよかったかなぁ、僕はプロポーズします!って見え見えだよな、あーはずかしー。(顔を赤らめる)」
大友を見て見ぬ振りしながら見ている他の乗客。
大友 「(自分に言い聞かせ)これが終われば努力は報われるのだ!恥ずかしさなど怖く ない!!待ってろよ...八波!!(顔は真っ赤)」
◯走る列車
◯簡素な住宅街
同じ様な形をした住宅が建ち並ぶ。
◯八波家
インターホンの所で行ったり来たりボタンを押そうか押さまいかウロウロしている。
立ち止まり、意を決したかインターホンを押す。
大友 「ど、どんと来い!!」
鳴るインターホン。
× × ×
大友、少しの微笑み 『白いスーツも無駄にはならず...。』
かわいいい顔して微笑んでいる八波。
八波の元にゆっくり歩みよる大友 『赤い薔薇も無駄にはならなかった...。』
大友を見つめている八波。
八波に花束を渡す大友 『ただひとつ無駄になったのは...。』
八波「ありがとう...。」
赤い薔薇27本を嬉しそうにもらう、白いウェディングドレスを着た八波。
八波の横に座っているタキシード姿の友永。
友永「(不思議そうに)生徒達には秘密にしていたのに情報早いなぁ。」
友永をにらむ大友 『..その花束を友永の嫁に渡すということだった。』
司会者の声「教え子さん代表の花束贈呈でした。」
拍手が響く披露宴会場。
むすっとして用意してくれた席に座っている。
× × ×
◯披露宴会場
友永家、八波家の結婚披露宴会場
テーブルには料理が並んでいる。
誰かが英語で『マイウェイ』を熱唱している
料理を食べてる大友。
大友 「(やけくそ)もーやけ食いだクソッ!!」
近くにあるワインも飲む。
大友 「何で誕生日の日が結婚式なんだ?!何で俺の告白する日に結婚式なんだ?!
くそっ!...。これはきっと策略に違いない!!そーだ!策略結婚なんだ..
これは合図だきっと!!!」
勢いよく席を立ち上がる大友。
誰かが英語で『マイウェイ』を熱唱している。
新婦八波のもとに歩み寄る大友。
大友 「先生!!僕と逃げるんだ。」
八波の手をにぎり大友と八波、披露宴会場から駆け出す。
ざわめく場内 「演出でしょ?!これ!?」
二人を追いかける友永。
◯結婚式場 玄関
玄関より走り出てくる白いスーツを着た大友、ウェデングドレス姿の八波。
追いかけてくるタキシード姿の友永。
止まっているタクシーに急いで乗り込む大友、八波。
笑っている安堵の大友と八波。
走り出すタクシー。
友永、次のタクシーに待ってた人を払いのけ乗り込む。
◯タクシー車内
ハアハアと息をきらしている大友、八波。
八波「私も悪い娘ね...。ふふ何となく大友君に輝きを見たわ、これからどうするの?」
大友「働くさ...。」
八波「こんな事したら、学校戻れないし、高校卒業証書もらえないよ最終学歴中卒よ中卒で働く所あるの?私も女、夢あることに期待大だけど、私も女未来は現実!働いて月20万はもらわないとダメよ!行くとこあるの?これから二人どこで暮らすの?遠くに行かないと世間様に白い目で見られるわよ」
大友「ま、まかせとけって...。」
八波「い、家はどうする?今からどこに行くの?これからどういう風にする計画?」
大友「何も考えてない....。成るように成るさ...。」
八波「えっ?何も計画してなかったの?!生活費も?何考えて行動してるの?衝動で物事考えているの?!どーするの?まあいいけど、私を幸せにしてよ?」
大友「自信はないけど..努力はする...。」
八波「努力してダメだったら?...私、どうするの?大友君はやり直し効くだろうけど。」
大友「.......。」
× × ×
誰かが英語で『マイウェイ』を熱唱している。
料理を食べている大友。ほとんど平らげて皿はきれいだ。
大友「映画 『 卒業 』のよーに行く訳ないし、出来たとしても後の方がもっと惨めだ(ため息)あーあぁ、神様なんで素直に祝福してくれないの..ああ無情..。」
新婦八波の前に置かれている大友の赤い薔薇。
◯街中
大勢の人混みの中、引き出物の手提げ袋を持って力無げに歩いている大友。
大友「生徒代表ねぇ...。」
胸ポケットより一輪の薔薇をとり
大友「......皮肉なもんだなぁ...。こういう運命、宿命なのね俺...。」
薔薇を人混みの中空に放り投げる。
大友「第一カメラスタート、薔薇のスローモーション。第二カメラスタート、上空より人混みのなか白いスーツの大友の情景、第三カメラ大友の表情、大友セリフ『さらば八波!年上への愛...。』
空を舞う赤い薔薇、それを見ている大友。
大友「かっこいいなぁ俺、映画の主人公みたい...。」
◯兵庫県立某高校
新学期(二学期)も始まり
◯同 三年一組教室前廊下
廊下の窓より身を乗り出して外を眺めている大友、滝川。
大友「知らないところで二人は出来てたんだなあ、(しみじみ)」
滝川「さらば、年上の恋人!だな。」
大友「そのセリフもう言った...。」
滝川「そぉーっ...。」
ぽつんと中庭を見つめている和やかな静かな二人。
滝川「別の女の子に切り替えたら?年相応の娘いないのか?」
帰路をキャピキャピ叫き散らし帰っている高1の女子生徒が視界に入る。
大友「あいつらも息づいているうちですかねぇ...。」
滝川「分かりませんよ、これからどうなるか?」
ため息をつき微笑む大友。
滝川「(慰めるように)何かいいドラマはありませんか?大友先生?!」
大友「ないです...。」
渋い表情の滝川。
その二人の元へ菅原がやって来る。
菅原「先生達一目惚れだったらしいね、最初出逢った時にピーンときたんだって。」
大友「一目惚れなんて存在じないの!」
菅原「あるわよ!大友君ない!?、ピーンとくること。」
大友「俺が考えるに、人は以前どこかで知らないうちに出逢ってるの。」
菅原「友永先生みたいな事言うね、似てるんじゃない?」
大友「そうかも知れないね...。」
窓より身を乗り出して外を見ている大友、滝川、菅原。
大友「だから、つまり、おまえでもいいけどさ、俺とおまえは以前どこかで逢ってんだよ小学生の時かも知れないし中学の時かも知れない、お互い知らないところですれ違っているんだ。」
菅原「どういう意味?!」
大友「中学の時だと仮定して、おまえは買い物をしていた。あまりにも多く物を買いすぎた、おまえは歩いてる、10秒先につまずいて転ぶように運命ずけられた石が5年も前からおまえを待っていた。転ぶ菅原、飛び散る荷物、通り過がりの人が手伝ってくれる。その中の一人が俺だった...かも知れない。」
滝川「そんな簡単なものかねぇ...?」
大友「石がポイントだったんだけど..他には、こういうのは?おまえらのアルバムを見て見ろよ小さいときかも知れないし、親と一緒、彼、彼女と一緒かも知らないけど、逢う前の俺が通り過がりで写っているかも知れない、手を振っているかも分からないよ、旅行の時かも知れない...。」
菅原「ないない!そんなの!。」
大友「おまえの知人、友達の写真の中に写っているかも...。だけど写ってないとは断言出来ないぜ!こう考えて行くとなんか神秘的だなー。」
一人遠くを見ながら喋り続ける大友。
菅原「(滝川に)やっぱり、変ね...。」
滝川「鬱病なのよ、今は..でもすぐに躁病になるって...。」
菅原「そ、そうネ。」
◯中庭
帰路の大友、滝川。
大友「ああっ、恋愛してーなぁ。」
滝川「みなさん受験で忙しいのよ。」
大友「よし作戦変更!後輩を狙おう!女欲しい!!」
突然後ろから躍り出てきた八波。
八波「何の相談してるの?。女の子ならあげれないけど、良い話あるよ。」
大友「や、八波先生!!」
滝川「NEW友永先生!。」
八波「まだ、八波でいいわよ、どう?日曜日暇?!」
◯日曜日
ぽかぽかと天気の良い日曜日。
◯八波家
トラックが二台止まっている。新品のタンス等を運ぶ運送屋が二人。
アルバイト?の大友、滝川は三面鏡を運んでいる。
大友「(ヤケ気味)花嫁道具だってよ!傷でもつけてやるか!!」
滝川「おまえはとことん悲劇だな...。」
小物を持って出てくる八波。
八波「そこの二人悪巧みしてないでさっさと運ぶ!バイト料払わないゾ。」
大友「鬼!!」
せっせとバイト?に励む二人。
大友「友永のボゲ!」
× × ×
ぽかぽかと日射し、荷物は積み終わり、荷には紅白の紐が結ばれている。
そのトラックの一台のタイヤにもたれ昼の弁当を食べてる大友、滝川。
滝川「好意に甘えて家の中で食べた方が涼しかったのに...。意地っ張りだなおまえ。」
大友「いい天気だなぁ...。」
滝川「おまえの頭の中だよいい天気は、脳天気...。」
大友「あっ、そうそう八波先生のアルバムがあったな..。」
滝川「よせよ、プライバシーの侵害だぜ。」
荷を物色する大友。
大友「あった、あった!抜群の記憶力。」
× × ×
お茶をすすりながらアルバムを見ている大友、滝川。
大友「若いねえ、かわいいねぇ。笑っちゃうねこの写真。」
滝川「歴史を感じるこれ、古い!これ面影ある。」
楽しそうに見ながら話してる大友、滝川。
大友「滝川知ってた?」
滝川「何が?」
滝川を見てなにを企んだか微笑む大友。
大友「ま、まあいいや。それよりおまえ教習行ってんだろ?車運転できるか?」
滝川「ち、ちょっとだけ。」
大友「このトラックここじゃあ邪魔だから少し動かそう。」
滝川「いいよ。」
運転席に乗り込む滝川。
アルバムを開いたまま地面の脇に置きトラックの後方へ行く大友。
エンジンのかかる音。
運転席の窓より顔をだす滝川。
滝川「い、いいぜ!OKよ。」
大友「紅白の紐を結んだトラックは......。」
滝川を見て合図する大友、表情は晴れ晴れとしている。
大友「後進してはいけない!のだ!!....。」
滝川に指示する大友、元気な大声で
大友「バック・オーライ!!」
ゆっくりとバックするトラック。
大友「くたばれ友永夫妻、最後のプレゼントだよ。」
後進するトラックの傍らの開かれたままのアルバムの中の一枚の写真。
八波の中学の頃の写真。友達と一緒に写っている写真。
レンタサイクルナンバー8番、微笑んでいるミッキーマウスのTシャツを着た女の子。
レンタサイクルナンバー23番、澄まし顔の黒い服の女の子。
レンタサイクルナンバー31番、首を少し曲げピースサインのポニーテールの女の子。
その写真の少女達が動き出す。
◯京都 1970年8月嵐山 渡月橋付近
黒い服を着た中1の八波
八波「どうもありがとうございます。」
カメラを渡したボタンダウンのカッターシャツを着た青年の所へ行く。
八波にカメラを返し愛想し去っていく青年二人。
それぞれに動き出す女の子三人。
ミッキーの女の子 「大学生かなぁ?大人だねぇ...。」
ポニーテールの女の子「写真撮ってくれた人かっこよかったね。」
八波 「春ねぇ...。夏よ今。」
ミッキーの女の子 「そう?私『VAN』のTシャツの人ワイルドでいい!!八波は?」
八波 「別に興味ない..お兄ちゃんがいるから何かお兄ちゃんみたいで。それより私、教師になってさ、もち高校の先生。そして年下の男の子よりどりみどり。男17,18歳エネルギッシュでかわいい盛り!その頃って私たち26か27歳でしょう。」
ミッキーの女の子 「それまで独身?結婚してるんじゃない?みんな。」
ポニーテールの女の子「八波、それまで売れ残っているの?!」
キャハハ、キャピキャピ、笑う三人の女の子達。
その高らかな笑い声が写真を撮ってくれた男の方まで響いている。
カッターの男「ガキだねまったく、あの年頃ませた小学生?中学生?うるさいねぇ。」
『VAN』の男「本当...。でも何年かして綺麗になってるかも...はは。」
カッターの男「あれも息づいているうち、ですか?」
『VAN』の男「さあね...。でも少なくともまだまだだね。」
カッターの男「同感。」
◯1982年 友永家 新居
八波の荷物が整理されずに雑然と置いてある。長いソファーに座り友永と八波が
大笑いしながら友永のアルバムを見ている。
1970年京都嵐山とタイトルが書いてある。
八波「ガキねえ、ハハハこれって笑えるよね友達のTシャツ、『VAN』は誰もいま着て ないよねぇ、時代を感じるね、でも何で友永さんもカッターシャツなの?それもボタンダウンじゃないこれ?」
友永「VAN派とBVD派に分かれてたんだこの頃、俺のはBVDのボタンダウンだぜTシャツより高価だったんだぜ、この時は俺の勝ちかなって...。」
穏和な雰囲気の昔話に花の咲くひととき。
◯次の日
◯兵庫県立某高校
ズボンのポケットに手を入れ階段を降りている大友。
階上より大友を呼ぶ声がする。
大友、降りるのをやめて声のする階上の方を見る。
菅原がいる。
大友「どうした?」
階段の踊り場にいる菅原、階下の大友。
菅原「あのねぇ...。友人に頼まれたんだけどさ、いい?」
大友「何?いいよ何?」
菅原「大友君好きな子いる?」
大友「あのねぇ、人の心配より自分の心配でもしたら?おまえはいるの?好きな子?」
菅原「(少し感情的に)いるわよ!好きな子ぐらい!!」
大友「誰?」
ゆっくりと大友を指さす菅原。
あっけにとられる大友。
しばらくの間。
下を向き首を傾げ微笑みの大友、静かに笑っている。
菅原「写真の後ろに写っているかも知れないて、大友君言ってたでしょう?探したけど写ってなかったよ....。それって?望み薄??」
大友「おまえって可愛い性格してるなぁ...。」
菅原「今頃気づいたの?」
大友、どう表現していいか分からない笑いがこみ上げてくる。
降りようとしていた階段を菅原の方に向き直り、ゆっくりと昇って行く大友。
大友「.......。きっと、その中の一枚は....。見知らぬ通り過がりの俺が.....
撮ってあげたんじゃぁないかな......。そう...きっと........
....知らないところでさ.........。」
『知らないところで...。』
京都、嵐山には学生時代よく行っていて、京都もかなり変わっています。
平成版の『知らないところで...。』を書いたらもっと違う物が出来るんでないだろうか?