プロローグ「初めまして」
「君は彼氏いるの?」
私はその問いにはいつも自信を持ってこう答えるようにしています。
「はい。います」
「同じ大学の人?」
「いえ、わかりません」
「わからない、の」
不思議そうな顔をされるのも無理はありません。事情を知らない方にはきちんと説明するのが、親切というもの。
私は包み隠さず真実を打ち明けました。
「行方不明なのです」
――すると大概、私は溢れんばかりの痛ましい気持ちを込められた視線に包まれるのです。
私と恋人は今遠距離恋愛中なのです。
『どれだけ離れていて、どれだけ近いのかも定かではない距離恋愛』なのです。
皆様が一言物申したい気持ちはわかっていますが、それはひとまず胸に秘めなさって。
行方不明の恋人との在りし日を胸に、私が過ごす日々をこれからお話しさせていただきたいです。
そして物語りの合間に、我が恋人へ宛てることができなかった――どこへ出していいかわからない手紙を添える無礼をお許しください。
さ迷う懸想文たちよ、ここに安らかに眠り賜え。アーメン。
では早速、一通捧げさせていただきます。
*
拝啓、恋人様。
あなたは今どこにいますか。誰と一緒にいて、どんな顔をしているのでしょう。
あなたが私に連絡一つくださらないのには、それは大変な理由があるのでしょうね。
神様があなたを悪戯に連れ回しているかのように消息は掴めず。さながら私は神様と鬼ごっこをしているよう。
それともあなた一人でうろうろなさっていらっしゃるのですか?
嗚呼、あなたとの連絡が途絶えて早数ヶ月。独りの私にはめくるめく恋の誘惑と、望みを絶つよう諭す言葉がひしめき合って襲ってくるのです。
一刻も早いお帰りを。願わくば、私に救いの手を。
敬具