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ミジージ・クアンジーア  作者: 犬井作
第2章:接近
5/10

嵐の前の静けさ

第一章のあらすじ


ミジージ村に住まうキイスは、ミジージと対立するスポーレとの混血。それ故彼は村人たちから疎まれていた。星獣:巨鳥ケツァルコアトルとの戦いを払穢の儀として提示され、挑戦を続けていたキイスはある日、諧の国から派遣された調査団の団長:李由リユウと接触した。

少年と少年が出会い、物語の歯車は動き出す。

 

 遥か彼方の空のように青い鱗。身動ぎするたび、それが太陽の光を反射しきらめいている。

 空を泳いできた大蛇はキイスたちの上空で穏やかに旋回している。それをサマーキとマージは櫓から身を乗り出して見ていた。


「どうしてにらみあったままなの?」


 マージが不安そうに呟いた。


「なにもできないんだよ。あの大蛇(ニヨーカ)がどう動くかわからないから……」


 そう返答したサマーキの声は震えている。

 状況は膠着していた。このままではキイスはやられてしまうだろう。幼い彼らにもそのことが想像できた。

 二人は一刻も早い現状の打破を望んだが二人ではどうにもならない。もどかしさが募るばかりだった。

 事態が好転する気配のないまましばらくが経った。


「サマーキ、キイスはどうしておる」

「む、村長(ムラオサ)?」


 真下から掛けられた声にサマーキは驚いた。下を見ると、村長一人だ。サマーキは状況を報告する。


「キイスはラクダに乗った男と、さっきからにらみ合いになったままです。……援軍を動かすんですか?」

「大人たちか。どこにおる」

「まだ丘の手前にいます」


 キイスに少し遅れる形で村を出た大人たちは、蒼龍の登場を受けて村近くの丘で立ち止まったのだった。

 当然、村長はキイスを助けるために彼らを動かすのだろう。サマーキはそう考えた。

 しかし返事は予想外のものだった。


「いいや。なにもしない」

「どうして!?」


 マージの大声がにサマーキは驚いた。見ると、その表情は青ざめている。


「あやつは彼らが敵かどうかもわからぬのに攻撃した。攻撃してしまった。そう命じられたわけでもないのに、だ。

 もしキイスを助ければ、然る後ミジージはあの蛇に攻められ、滅ぼされるかもしれぬ」


 もしもあれが星獣ではなかったとしてもあれだけの巨体だ。村がかりで戦っても敵わないだろう。

 その上、敵は大蛇だけではないのだ。武器を持った男たちがたくさんいる。

 それに今日撃退できたとしてもそれで解決とはいかない。もしも今後スポーレと彼らが手を組んで攻めてきたら、村はひとたまりもないだろう。


 村を守るためには、一人を切り捨てなければならない。

 筋は通っているように聞こえる。しかし、犠牲がキイスであることが、サマーキには作為めいて感じられた。

 それでもサマーキは、村長の考えに納得した。


 だがマージは違った。

 少女の弓なりな眉はきつく顰められ、瞼の端には涙が浮かんでいた。普段の物柔らかな笑顔からは想像できない、烈々とした表情。

 マージは喉にへばりついた言葉を力ずくで引き剥がすように、声を絞り出した。


「大人たちが攻撃していても、助けなかったの?」

「む、それは……」


 マージはたたみかけた。


「あの丘のところにいる大人たちが村を出たのはキイスとあまり変わらなかったじゃないですか! 

 あの人たちがキイスより先にラクダの男たちと戦ってても、助けないっていうんですか!?」


 村長はマージにすぐさま返答しなかった。仮面の隙間から、村長の瞳がじっとマージを見つめた。

 しばらくの後村長は、ただ頷いた。


「……そうだとも。村の存続が最優先じゃ。……復活(クアンジーア)の日までは、この村を残し続けねばならぬ」


 マージの驚きと怒りに満ちた瞳を、村長はただ受け止めた。

 その間、サマーキはただただ放心していた。

 サマーキはマージがこんな大声を出したのをはじめて聞いた。自分と並んでいる少女が自分がよく知る幼馴染だと思えなかった。

 気まずい思いを誤魔化すために彼はキイスのいる方へと目をやると、あっと声を出して村長のほうに向き直った。


「……村長! キイスが!」

「なにがあった?」

「ラクダの男を連れてこっちに来ています!」

「……なんじゃと?」

「どいて!」


 マージが振り返られるようサマーキは隅に身を寄せた。

 ラクダの男を先導して村に帰ってくるキイスを見て、マージの肩から力が抜けていった。体が触れているサマーキにもそれが伝わった。

 それほど嬉しいのだろうか? どうして?

 サマーキは頭を振って思考を止めると村長に向き直った。


「どうすればいいですか?」


 村長はしばし考え込んだ後サマーキに尋ねた。


「ラクダの男の仲間たちはどうしておる?」

「大岩の麓でたむろしてます」

「では、大蛇は?」

「えっ?」

「だから、大蛇だ。どうしておる。こちらからは姿が見えぬのだ。マージでもよい、答えよ」

「ええと……その……」


 サマーキは振り返り、蛇の姿を探った。先ほどチラリと見えた様子を、事実だと思いたくなかった。

 だがこうして見ても、その光景は変わらなかった。


「早く答えよ。大蛇はどうしておる」


 サマーキは念のためにもう一度振り向いた。

 これを口に出さねばいけないのか。気が変になったと思われるだろう。サマーキは額に浮いた汗を手の甲で拭いながら、村長の石のように固い表情を見た。

 無言の圧力の前に、サマーキはしどろもどろに返事をした。


「その……とぐろを巻いています」

「なに?」

「ですから、その……大岩のてっぺんからぐるぐるっと、とぐろを……」

「あっ、いま、あくびしましたよ! 可愛いです!」

「…………」

「……………………」


 先程の剣幕をつゆとも感じさせない安穏とした声に緊張は瞬く間に溶け落ちた。

 村長は大きくため息を吐いた。


「キイスと男を中に通して、儂のところまで案内せよ。ラクダは誰かが……そうだ、サマーキ。お前が見張れ」

「えっ?」


 問い返す間もなく村長は踵を返し棲家に戻っていった。


「……どうすればいいんだろう」

「言われたとおりにすればいいんじゃない」


 いつもの調子に戻ったマージを見やって、サマーキは先ほどの態度を問いただそうとした。

 村長にたてつくなんて、信じられない行動だ。

 では、マージは間違った意見を言ったのか。自問して、そうではないとサマーキは思った。確かにマージの意見も正しかった。

 だけど、マージはどうしてあんなことを言ったんだろう?

 キイスのことになると、マージは知らない顔を見せる。そのときのマージは、近くにいるのに、なんだか手の届かない存在のように感じられる。サマーキはそれが怖かった。


「どうしたの? さっきからジロジロ見て……」

「いや…………なんでもないよ」


 サマーキは結局、なにも訊かなかった。 


 門の近くに村の人々が集まり、あれやこれやと騒ぎ始めている。それを尻目に視線を丘へと向ける。


 このままではキイスたちが別働隊と鉢合わせになるだろう。サマーキは太鼓を鳴らし、部隊に撤収の合図を出した。

 サマーキはいつもよりも多く叩いた。そうすることで、胸の内を覆ったなにかを打ち払える気がしたから。


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