プロローグ
泣きたいのだ。私は。
盛大に、大げさに、大声を上げて。
真っ赤になって開かないんじゃないかと思うくらい眼を腫らしたいのだ。
泣きすぎて、気絶するみたいにコテンと寝てしまいたい。子供みたいに。
だが、泣くのは意外と難しい。
いや、簡単な人もいるんだろう。なんかの歌詞にもあった。こんなに泣く貴方は心に素直な人だから、とかなんとか。
どうせ私は素直じゃないですよ、と思ったものだ。
だって、すぐに泣いていれば素直で優しいなんて、嘘でしょう。
泣いたって解決しないことは山ほどあるんだ。泣く前に動けと言いたい。
だってずるい。私だって泣きたいけど、泣いたら誰が事態を収めるの?
そう思って、ぐっと堪えて動けば、気が強いとか、心が冷たいとか。
なんでよ。
ひどい。
私だって。
言えなかったのは、言っても意味がないと思うからだ。
堪えて、笑みを貼り付けて、その場をやり過ごす。
泣けなかった気持ちだけが小さな石になって、心臓に積もってく。
ああ、ああ、泣きたい。
泣いてしまいたい。
責任も外聞も恥も何もかも放り捨てて。
誰かのせいにして泣き喚いて当たり散らしたい。
それなのに、私の涙腺はすっかり自分の仕事の仕方を忘れてる。
タマネギを切るときにしか仕事しないなんて、横着にもほどがあるよ。
最後に泣いたのが何時か、もう憶えてもいない。
そのくせ私は、週末になると泣けると評判の映画を借りてしまう。
わんわんと泣き喚く主人公を眺めながら、シンガニをストレートで喉に放り込む。
喉を焼く強い酒。その刺激が好きだ。ちょっと泣いたような気になる。
自分の極限まで押さえ込んだ感情の温度が上がってくれる気がする。
こんなの、その場しのぎにもならない。そう、分かってもいるんだけど。
やけ酒なんて惨めだ、そう思っていられる時期なんかとっくに過ぎてる。
惨めで結構。自覚はある。だからどうした、と開き直れるくらいに。
テレビの中では、泣き顔さえ可愛らしい主人公が、相も変わらず身を引き絞るように泣いている。
現実は、泣いたら不細工になるだけなのに。
わんわんと泣く主人公に、馬鹿じゃないの、泣く前に走れよ、と呟いて、私は酒瓶を抱えてソファに沈みこんだ。
明日はどうせ休みだ。構うまい。思いっきり寝坊しよう。
眠りに落ちるその寸前まで、誰かの泣き声が響いて。なんだかそれが妙に近くて。
ああ、私、今泣いてるのかな。
無意識に触れた頬は乾いていたけど、涙を拭うみたいにクッションに顔を埋めた。
夢の中でくらい、素直に泣けたらいいと思いながら。