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おっさんが好きです。ハゲとか最高ですね

ない知恵を絞った結果、どうしようもないサブタイになってしまった事をお詫びしておきます。


結局オレは彼女の提示した募集に乗ってみることにした。

かなり迷いはしたのだが、ゲーム世界への転生は体験してみたい転生モノの上位にランクインするし、今のままでは時間ばかりが経って埒があかなかったからだ。

考えるのが面倒になったというのも無きにしも非ずだが、募集される以上無碍にもされまいという考えもあってのことだ。

同時に何かを期待されて何かを強要されもするだろうが、あのまま新しい人生に突撃するよりはいくらかいいのではないか。


死んだらまた生まれなおせばいい。


との考えに至ったのである。

当然、死に際して痛かったり苦しかったりするのは御免こうむるが、それはどんな来世を選んだとしても差異はあれど同じであるだろうし。


でも、苦しまずに済ませる方法もいくつかあるそうだけどなー、最悪の場合それでいいか。

基本、前世の記憶を持たずに生まれ変わるのって絶対理由がこれだろ。あー今世は失敗したなー、はいリセポチ。とかじゃだめだろ、色々と。



「格別な理由がない限り、自らを決するなどという選択は極大ペナルティの対象ですよ」



オレの目の前で召喚募集に応じる書類を作成しながらさらりと釘を刺してきた。

さっきもだがどうやらオレの考えは筒抜けであるらしい。



「ま、まあ当然だよね。自殺ヨクナイ!――そ、それでどう?オレ以外にも同じ選択した人いる?」


「ゲームが世に生まれてからの歴史が浅いですから。条件をクリアできる方はかなり少数です」


「だろうねー。10年程度の寿命のゲームの存在を知っててなおかつ死者で転生先にこれを選ぶなんて風変わりは限られるか」


「ただ、募集要項とは別に結果としてこの世界に生まれる方ならかなり」


「結果として?」


「はい、<異世界転生>や<中世ファンタジー>、<剣>と<魔法>など挙げればきりがありませんが、類似ワードを選択した結果としてです」


「あー、やっぱりたとえ望んでない世界だったとしても条件が合えば生まれる可能性があるのね」



XXXは国産MMORPGのさきがけとなったタイトルである。

残念ながら数年前にサービスが終了したそうだが、流行り廃りの激しいネトゲ世界で10年近くも第一線で稼動し続けたのはたいしたものだと思う。

就職した際に忙殺され次第に疎遠になってしまい最後まで付き合わなかったが、オレも学生時代はかなりの時間をコレに費やしたクチだ。


ストーリーや世界設定、音楽に惹かれたんだよな。

ゲームとしては……どうだろうね。元来そんなにRPG中毒でもないし、批評できるほど数を知ってるわけでもない。

ネトゲ特有の先行優遇で、オレみたいなのんびりグダグダプレイ派の評価は「こんなもので十分なんじゃない?」だ。



「それよりさ、こんなお手軽な手段があるんだったらもっと早くに言って欲しかったなー」


「あまりに真剣にお悩みでしたので邪魔をしては悪いかと。それに募集は本当に極稀なのでつい失念を」



かなりおざなりに、申し訳ございませんでしたとこちらを見ようともせずに散らかった机を片付けてゆく。メモ用紙をまとめる音がやたら大きい。

いや……まあ、けっこうなれたけどね……そのツンっぷり。もうちょっとこう……というか、散らかしてごめん……



「では、転生先も決まりましたし担当者と代わります。転生先での条件や説明はそちらから聞いて下さい」


「え?」


「お疲れ様でした。良い人生を――」



言うが早いかオレの足元に大きな穴が開いた。急速に部屋と彼女が遠ざかる。

なんて脈絡のない――

うそおぉぉ!と意味を成さない叫びを共連れに、呆けた顔のまま見えない底へと一直線に落ちていった。






オレは猛烈に当惑している。ステータスを覗けばまずコンフュージョンだと思う。


気づけば半すり鉢状の部屋。緩やかな傾斜をつけた床に長机が配置され、その一段と低い中央には黒板を背に小太りの男がせわしなく口を動かしている。

見るからに風采のあがらないといった感じの。しきりに手にしたハンカチで顔を、ついで随分と面積のひろがった額も拭う。白髪まじりの髪は耳の上と後頭部にわずかしがみついているだけだ。

一見して大学のヒトコマか何かの説明会か。なんにしろそれに類似したもの以外を連想しろといわれてもまず無理だ。


周囲を見渡せばオレと同じように困惑していますといった風の顔がいくつも見受けられる。

参加者の風貌はといえば、性別や年齢はもとより、あきらかに人種そのものがオレとは異なる人ばかりだ。

ここまで多種多様な集団をついぞ前世の日本でみたことない。異人さんの群れがざっと100人くらいか。



「はいはーい、お静かに。注目、注目してくださーい」



オレたちの意識を集めるべく、黒板前の小太りが手にした紙片をぱんぱんと叩く。

40半ばほどか。ベルトの上で大きくたるんでシャツを前へと押し広げた腹がだらしない。アイロンをあてたシャツが小奇麗なのが唯一の救いだ。



「質問はあとで時間を設けて受け付けます。最初に説明させてくださーい。まずは、当ワールドを転生先に選んで下さってお礼申し上げます。私、担当でもある皆様が転生する予定である<星>です」



男の自己紹介に教室がどよめく。ほんとに<星>が擬人化されてるよ……それも冴えないおっさんに。


お手元の資料をごらんになりつつ説明を、と男がいうや手元の机の上にまるで水面から浮かび上がるようにクリップでまとめられた紙片が現れた。

どんな原理か知らないがすごいな。さすがは転生システムだ。などと感心したのはオレだけじゃないらしい。あちこちから感嘆の声が聞こえる。



「ご存知ない方もいらっしゃると思いますので簡単にこれから転生先となる世界についてご説明を。1ページ目をご覧ください」



男にいわれるままにページをめくる。

うーん、なんかページばっかめくってるな、オレ。まさかあの世までデスクワークだとは思わなかったよ。


そこから先の説明はオレが事前にある程度以上認識している情報だった。なにしろ数年遊んだゲーム世界についてだから当然だ。

かいつまんで説明するとこんな感じだ。


光の女神と闇の魔神、その眷属が一進一退の攻防を繰り広げる世界。

肝心の女神や魔神といった偉大な存在は神代の時代の戦いで共倒れとなり、直接的に世界に関与する事ができないでいる。

そこで争いあう神々は自分たちに成り代わるものたちに覇権を競わせることにした。

光の女神側がヒトを中心として他にエルフやドワーフといったものたち。

魔神側はオークを中心にオーガー、ゴブリン、コボルトといったヒトに対して敵愾心を燃やす亜人どもである。


ドラゴンやその他の幻想世界のモンスターは魔獣――魔力を素にしたある意味ファンタジー独自の野生動物として描かれている。

一部を除いて女神、魔神どちらの眷属でもなくその世界にある単なるひとつの生命体として。

不老であり、個体差はあれど高い知能を有してそれぞれの身に応じた魔法を操ることができる生物。それがドラゴンたち魔獣である。

無論、魔獣とは別にごく普通のシカや獅子、昆虫や魚類といった野生生物も世界には存在する。


さて、魔法については存在するものの、ヒトをはじめ亜人種にはあまり適正はない。魔法最適種と定番のエルフですらケが生えた程度だ。

というのも魔法は体内にある魔力を消費して発動させるのだが、これが魔獣以外の種では絶対的に容量が少ないのである。


具体例でいうと、初歩的な破壊を象徴する火属性の攻撃魔法をひとつ用いるだけで、一般的なヒトの魔力はその大部分を消耗することになる。

ゆえに魔法を生業にする恵まれた素養持ちはかなり稀少であり、その者たちですら魔法を行使するにあたり魔力補助という名の触媒や杖といった道具、儀式が必須なのである。


このあたりの微妙に現実味を帯びた地味さがオレがこのゲームを好んだ理由のひとつだった。

中世ヨーロッパをベースにしたファンタジー世界。だけどありがちなド派手な魔法や衝撃波をとばすような剣技もない。

かといってリアルすぎて不便極まりないというほどでもない、現代人ある程度都合のよい世界。



「ざっとそんな世界なのですが、詳しくはお手元の資料を転生完了までご自由にご覧ください。では次にですが……」



なおも小太りの男の説明は続いていた。

男は短い腕を肩の高さで水平にひろげて掌を上にむけた。

途端、音もなく黒板の左に木製の、まさしく教室でみかけた引き戸が現れる。



「召喚募集に応じられてこの場にお出ででない方は速やかにこちらからご退出願います」



男の言葉に大半が呆然とした。

ある者は意味がわからず「は?」と答え、ある者は「召喚募集って何?」などと周囲に答えを求めて視線を彷徨わせている。

後者などは少数でほとんどが前者だが。


それでも男に急かされるように促され、該当するのであろう者が数名最前列から立ち上がって引き戸に消える段になると、残りの者も次々に後に続きだした。

あれやこれやと近くにいた者と話しつつ、召喚されていない転生者たちが全員退出するのに数分を要した。

最後のひとりの手によってピシャリと引き戸が閉められると、後に残るのは募集に応じた10名である。

100人をも収容できた部屋に10名だ。かなりガランと寂しい。



「改めまして召喚に応じていただけました事ここに感謝いたします」



男は残ったオレたちを見渡しながら、どこか満足そうにいう。



「質問される前にご説明しておきますと、退出していった方たちは当ワールドにおきましていわゆる一般的なヒト族、もしくは亜人として生まれ変わって頂くことになります」



再び残ったオレたちからどよめきがあがる。

退出組みはこの世界においてどちらかの陣営に属する一般人。逆にいうとオレたちはそれに当てはまらない何か。

一番前列はじっこでオレよりも若くみえる青年から、いよっしゃあ!勝ち組キターと雄たけびがあがる。

若いなー。キモチはすごいわかるけど。まあ、とりあえず今は抑えておきなさい。


だが男はどこか生暖かくその青年を、そしてこの場にいる全員を見渡す。

その瞳にゆらぐのは憐憫の情であるようにオレには見えた。



「大変申し上げにくいのですが、恐らくは皆様が期待するような形にはなりません。なぜなら――」



ひと呼吸おいて男はゆっくりと正確に発音した。



「なぜなら、皆様にこの世界で担当して頂くのは魔獣であるからです」

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