そういう大事なことは先にいおう?
近況にも書きましたがちょいとスケジュールが埋まりつつあります。
本人の意思とは裏腹に。
ま、そんなものです。人生ってやつは。フフフ……(泣き笑い
ですので数話分を投下してゆきます。
修正加筆、及び次回投下は少々間隔があくやも知れません。申し訳ありません。
どれぐらい本と格闘していただろうか。時計もないしお腹も空かないしで時間の経過がまるでわからない。
あれでもないこれでもないと書き散らしたメモ用紙が机の上に散乱しており、そこへオレは両腕を投げ出してに突っ伏していた。
背後から彼女の生暖かい視線を感じるのはなぜだろう。
どうですか、いい加減諦めがつきましたか、ヌーブ乙って言葉が聞こえる気がするよ。
気のひとつも利かせて紅茶でも出してくれてもいいのにね。飲めるのかわからないけど。
「あーやっぱ無理かなー」
指先で鉛筆を意味もなく転がしつつ、メモの内容に目をやった。
ざっと思いつく限りで持って生まれたいチート名を書き出しており、それを囲むかのように簡単な足し算がいくつも書き込まれている。
先ほどから本を片手に悪戦苦痛した結果がそこに書き連ねられていた。
ある程度の予想はついていたことだが、はっきりいってゲームや小説のような転生チートなんて夢のまた夢である。
恐らくそうなんじゃないかと推測の域を出ないが、先ほどから本を読み込んだ感想としてこの転生システムには落とし穴が設けられているように見受けられる。
メリットを発生させると必ずといっていいほどデメリットがついてまわっているのだ。
それを打ち消す手段も講じられてはいるのだが、基本的な姿勢としては<禍福はあざなえる縄の如し>なのではないかと思っている。
現世はあくまでも修行の場ですよーという意図のようなものが根底にあるのだろう。
だとすれば迂闊に何かを願うと重箱の隅をつつくように、アラを探して負荷をかけてくる公算が大きい気がした。
美形だけど凄まじい貧困だとか、絶大な魔力を有した魔法使いだけど魔法のない世界とか。
ちと極端に走ってる気もするが、なんとなくありえそうでシャレになってない。
どうしたものか。いっそ素のままでいくかとも思うがそれはそれで大変つまらない。
せっかく憧れの転生人生なのだ。男の子は冒険したいお年頃なのよ!
上体をおこすと、すいっと手を上げて生徒がするそれのように彼女に質問することにした。
「初めてだから聞きたいんだが、他の人はどんな感じなの?やっぱポイントためてどかーんと華々しい人生送る人とかいるの?」
彼女は首肯してから、ですが人とは心の弱い生き物なんですよと、前おきしてぽつぽつと語りだした。
慎ましく清貧人生の先でためにためたポイント大奮発。ほとんどの人が勘違いをしたまま一生を送るそうだ。
テストの後にぱーっと遊びにいくあれですかね?ちょいと程度は低いですが。
現世は研鑽の場という基本的なことを忘れ去り享楽の限り生きる向きがほとんどを占めるそうだ。
性質の悪いことにそうできるだけの力を持っているから、なおさら歯止めがきかないと。
英雄と呼ばれる方たちのほとんどがそうですよ。と彼女はどこか寂しそうに言った。
定義は色々あるだろうが、確かに英雄とよばれる人間のほとんどが俗物であるよう思えてくるから不思議だ。
英雄色を好むなんて言葉があるくらいだ。大量殺人も戦場であればそれは英雄行為である、なんてのもあったかな。
「なんにしてもそれらは功徳とはほど遠い行為であり、むしろ英雄的人生を終えた後の収支報告で大量のペナルティがつく事がざらです」
彼女はそれからひとつ実例を挙げてくれた。
誰もが知る長身の天才軍師兼政治屋。彼もまたポイント大量消費者であったそうだ。
「――で、今は本人の希望とはかけ離れた微妙な姿で現世を必死に生き抜いています」
「ちなみに……どの程度ペナルティ?」
「背の低い、幼いといえるほどの容姿の女の子で前世と似通った乱世をまた軍師として生きていますね、可愛そうに」
「何かすっごい思うところがいっぱいあるけどつっこまないからね!? 」
ちぇー、とかいう彼女をひとまずおくとして。
天才軍師はそれとして他の転生者の話も聞いてみたところ、まったく消費しないのも都合が悪いようだ。
こちらもピンキリなのだが、消費なしはもっと苦行カモーンの意思表示と取られたりするようなのだ。
「大量消費で暴君の限りをつくした方が来世でミジンコだったってのもありますが、ゼロ消費された方が生涯すべてを行者として過ごされたという過去もあります」
行者って修行にあけくれる者をさす言葉だったはずだ。山伏とか。どっちにしてもおいしいものや可愛い女の子とは無縁の一生は御免こうむりたい。
つーか、ミジンコってなんだ!ミジンコって!人間ですらないのか!
しかし、ますます弱った。
適度に面白おかしく修行ライフを満喫するには、現状では無難なお願いをひとつ選ぶ程度がよさそうだ。
だけどこれじゃまたスタート地点に戻っただけな気がする……
そんな腕組みをしてうんうん唸るオレを眺めるのに飽きたのか彼女の方から思いもよらない提案をされた。
「いっそ、召喚募集に応じられてみますか?」
「召喚募集?なんだそれ?」
「人が転生するように世界――星も転生するのですが、その際に極稀ではありますが特定の住人を求めているのです」
え?星って擬人化されてる世界なわけ?それより特定の住人もとむってなに?
突拍子もない話に軽くパニックになりかける。本当、死んでからは驚くことばっかりだ。
「タマシイが神格化されて星に生まれるという選択肢があります。それゆえに星も人同様、試行錯誤を繰り返しながら転生を繰り返しているのです」
通常は大雑把ながら星自身が定めた条件をクリアできるタマシイを無作為に受け入れるだけなのだが、新しく世界を構築するにあたりそれらに加えて特定条件を備えた住人を求めることがあるのだという。
「こちらが募集要項になりますが」
すいっと目の前に差し出された一枚だけの資料にははこうあった。
<モトムXXXというゲームを基本設定に構築された異世界への転生者>
あなたも広大なフィールドを縦横無尽に駆け巡り、多彩な魔法を駆使して敵をなぎ倒す。そんな人生に夢見てはいませんか?
当ワールドはそんなあなたのご希望を叶えるべく誕生したばかりの世界です
転生条件
上記ゲームをプレイ、もしくは類似したゲーム等の内容を把握されている方。
成人以上の年齢に達した前世を送られた方。
と。
最近、ご要望が多い人気の異世界転生方法なんですよ。そう言う口元はにっこりと笑っているようだった。