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めでぃーっく!めでぃーーーーーっく!!

来る11/15に作者であるこの僕は暗殺者になろうと画策しております。

ですので、それまではなるべく頑張って更新しようかなあとか思ったり思わなかったり。




魔術の難易度を上げる要素は二つある。


この世界ではあらゆる物質が元を辿れば魔力から生まれていると考えられている。火に水、草木に空や大地まで、ヒトをはじめに生き物全てがそうなのだ。あらゆる現象は魔力が物質化したものであるという。

さすがに神ならざる身で生命や星月をこそ創り出すことは叶わないが、初歩的で単純な自然現象の再現を魔力で行うことは可能だ。

自己の持つ属性魔力を変換して触媒を介さずに炎を出現させる行為などがこれにあたり、これを魔力の物質化という。


次にもう一つの原因が、その生み出された、もしくは最初から存在しているとしても良いのだが、その炎の特性を違うものへと変質させたり、他の性質を付与させたりする行為、性質変換がある。

炎は生み出したものであれ、自然のものであれ、元は魔力で構成されている。そこへ自己の魔力で介在して別の特性を付与したり、もしくは全く違うものへと書き換えるのだ。

例にすると、炎の形状を竜巻型にすればゲームでお馴染みの「ファイアーストーム」「フレイムピラー」などといった類のものになるし、炎の指向性を高めて燃焼温度を上げていけばビームのようなものを生み出すことも理論上は可能だ。実用性は皆無に等しいが青い炎や、熱くない幻影のような炎も作り出せる寸法だ。

それだけにこちらは先の物質変換よりも遥かに高難易度であり、そもそもが種族特性としてオンリーワンになってる場合がほとんどであった。


この世界においてはほぼ魔獣にのみ許された特権である……というよりも、物質化、性質変換ともに必要とされる魔力量がおよそヒトや亜人に耐えうる域を逸脱しているために、ヒトが生身でこれを行うのは不可能に近いと言える。

ヒトがこれを行うにあたっては、魔力増幅装置であるマジックワンド・スタッフといった杖や触媒、魔法陣を代表とする儀式の各種が不可欠となるのだ。


そして、オレこと<湖岸の蛇姫>の特殊スキル、<聖杯>はまさにその性質変換を可能にするものであった。






ヴェラに誘われるままにオレは流れの比較的緩やかな渓流に入っていった。

腰のあたり――触腕がすべて水没する深さまでベニグノを抱きかかえたままである。オレの腕で支えるだけでは筋肉質で意識のないベニグノは沈んでしまう。水の中から蝕腕でもってそっと支えて安定させた。



「手は離しな。あんたの癒しは両手が空いてることが条件だ。ベニグノはあんたの肢だけで支えるんだよ何本もついてるんだ、できるだろ」



ヴェラの叱咤が飛ぶ。

数百キロもある彼女の巨体は、その皮毛を濡らすことなく流れる川面の上で寝転がるように伏せていた。ひと雫すらついていない。まるでウォーターベッドの上に寝そべってるかのように、流れに揺られて背中が上下していた。

<ウォーターウォーキング>。初歩的な<水>系統の魔術で、読んで字のごとく水の上を濡れることなく移動することができる魔術である。さすがはネコがベース、濡れることを嫌うらしい。



「魔力は知覚できるんだね?ならお次はその魔力を掌に集めてもらおうか。いいかい?魔道の基礎にして真理はイメージだ。頭の中で想像したことを寸分違わずこの世で再現する、簡単にいえばそれだけのことさ。例えば――」



ざぱ、とヴェラが視線を流した先で、水面から細長く不格好ではあるが奇妙にねじれた腕が生えた。ゆるゆると水が流動しており、不格好ではあるが明らかに人の腕の形をしたそれの掌が二、三度と平開してみせている。

魔力を肉眼で確認することは不可能である。その上、魔力自体にどれほどの力があろうとも、現実世界に物理的な干渉を及ぼすこともまた不可能であった。

この水の手は、彼女の体から伸びた見えざる魔力の腕が川の水を媒介にして表現されたものであった。



「全てはイメージさ。あたしが腕と漠然に想像したからかつての人の腕が顕れる。さらにいうとその人の腕を動かす感覚をよく覚えている。だからこそ容易にこれを為せる。ところがこれがあんたの肢のように何本もの触手を創り出して動かそうとすると難しい。なにしろそんな経験なんてあたしには無いんだからね」



支えを失ったかのように飛沫をあげて水の腕が崩れると、代わりに幾本かの明らかにオレの肢を真似た水の触手が現れた。

ところがどれも等しい長さで一斉に合わせたかのように左右に同時に動く。そこからそのひとつだけを複雑に蠢かそうとすると、それを残して他の触手全てがするすると背丈が縮まり、びくりともしない小山程度になってしまう。

ご覧の通りさね、と器用に肩をすくめてみせた。

視覚、聴覚、味覚、嗅覚、さらには触覚や感覚。なんでもいい、体験や経験したものほど容易くイメージし易いというわけだ。そして正確にイメージできるというそれが魔術の成功率や威力と密接な関係にあるのだという。



「今、不出来ながらも触手を再現できたのも、あんたの肢を見るという経験があったからこそさ。ただ動かす感覚はわからないから想像するしかない。だけど、似たような形でいうとあたしはこの長い尾を動かす感覚をよく知っている」



二メートルもある物騒な兵器と呼べるほどの尾を頭上でぴこぴこと振っている。

なるほど、複雑に動かそうとしたら一本残してあとが崩れたのはそのためなのか。ヴェラの言うように触手を動かすことはわからずとも、その代理といえる似た形状の尾を動かすことなら熟知してるわけだ。

知らないものはイメージしにくい、それならそれを連想させるものの中で見知ったものを代用として補完すれば良いわけである。



「――と、いう解釈であってる? 」


「こうだという答えのない世界だからね。合ってるかどうかはともかく、そのやり方であたしはやってきたし、今からやる癒しの術も成功するとにらんでる。――さ、何度も言うけど時間がおしてるんだ、とっとと魔力を掌に集めるよ。言う通りにやってみな」



おっけー、と答えるとオレは瞑目してひとつ深呼吸をした。お腹の下の方で魔力が――うん、ばしばし感じられる。オレの水属性との親和性からなのかはわからないが、半身を水中に沈めた今の方がよりくっきりと知覚できる気がする。

前はぼこぼこと溢れるマグマのようと形容したけど、ヴェラからイメージの重要性を耳にしたためか今は湧水のようなものを思い浮かべていた。

じっと掌を見た。なんの変哲もない、だけど前世とは違う細い指が十本並んだヒトと変わりない手。その両手をお腹に当て、すすすっと上方向へとずらしていった。そして、両肩を抱くような形から腕組み、最後は胸の前で合唱のポーズへと。



「……ありゃ」



両手を開いて思わず言葉が漏れた。

視覚的には何一つ変化はないけれど、そこには確かにひと塊の魔力が両手にまとわりついていた。振り返った先でヴェラの顔がほころんでいる。上出来だ、と。

掌に魔力を集めるなどという所作が感覚的に分かり辛いなら、違う手に訴えればいい。それが触覚というわけだ。自分の指先が滑ったあとをなぞるように先ほどの工程を再現してみた。すると更に魔力の密度が濃くなったような気がする。

イメージとしては魔力の発生源であるお腹から掌まで、指でなぞった所をラインで結ぶような感じ。体の中にパイプを這わせて繋ぐ感じだ。

二度、三度と繰り返すにつれよりスムーズに、且つ流れ込む魔力を増やせている、そう実感できた。



「遊んでる時間はないよ。いよいよ本番だ。その両手で水をすくい上げるんだ」



言われるままに両手を流れの中へくぐらせた。雪解け水の冷たさと、それとは別になんともいえない感覚が腕にからみつく。水の流れ一筋一筋が繊維になって渦を巻いて腕の周囲を流れるのがわかる感覚とでもいうのか。あくまでも視覚的に、ではなく肌で感じ取れる感覚で、だ。これは魔力を体に巡らせた副産物なのだろうか。

そして水の中で腕に起こった変貌がオレを驚かせた。青い水の中でゆらめくオレの腕は、肘のあたりから先がそれまでの人間の皮膚とは違う白く肌理細かい鱗に覆われていたのだ。

さぱっと両手で水を肩の高さにまですくい上げてみた。やや傾きだした陽の光を跳ね返しきらめく掌の盃から、幾筋もの水が手の甲から肘までを雨樋を伝うようにこぼれ落ちていく。その水が這いまわった跡のみが白い桜色の鱗へと変貌を遂げていた。それまで張り付いていた人間の肌を溶かしてその下に隠されていた本当の皮膚を暴き出したように。

人外の装いとはいえ、陽にきらめく澄んだ水とやや赤みを帯びた白い細やかな鱗模様に思わずオレは見蕩れてしまった。



「惚けるのは後にしな。――あんたの特殊能力<聖杯>の正体はその手にすくった水の性質変化だ。今からその水に力を与えるんだよ。あんたの癒しの力をね」


「水質変化……」


「そうだ、水質変化だ。<蛇姫>が祈りを捧げる事によってその盃の中身は命の水にも猛毒にもなる。さあ、時間はないんだよ、さっさと祈りな」


「祈るって……何を?どうやって!? 」


「ベニグノを救いたいんだろ?だったらそれを念じればいい」



急ぎな!の言葉にオレはぎゅっと目を瞑るとすくい上げた水を心持ち掲げて言われるまま祈った。

ベニグノの傷が治りますように……ベニグノが良くなりますように……と。



「そうじゃない、漠然と念じてもいつまでたっても単なる水のままだ。正確に癒しの水の姿かたち、その効果を念じな」


「そんなの無理だって!癒しの水なんて見たことも聞いたこともない! 」


「そうだよ、見たことも聞いたこともなくて当たり前さね。だから癒しの術は難しい。だからさっきも言ったろ?こいつは連想ゲームだ。似たもので代用させるのさ。あんたの知ってるもので何が傷を癒す?そいつはどれだけ効果がある? 」


「オレの知ってるもの。理解できるもので癒しの水を連想させるもの……傷を治すもの……」



本当になんとなく。

唐突に脳裏をかすめたのは――絆創膏だった。



「っ!? 」



咄嗟に片目をつむって肩をすぼめた。お腹からもの凄い勢いで駆け上がり、肩から肘を抜け掌に到達したのは紛れもなく魔力であった。水面中央から波紋が幾重にも広がっている。

――変質した!自分でもはっきりとわかる。見た目は未だ透き通った水だけど、これは絶対に単なる水などではない。

思わず興奮したオレは耳朶をうつ鼓動音をなだめつつ、もう一度前世で傷口に巻いていた絆創膏を思い浮かべてみた。再び魔力が駆け抜ける感覚。ぞくぞくと肌が泡立つ。



「上手くいったようだね。何を思ったんだい? 」


「あ、ああ、絆創膏を」


「成程ね。この世界にはないが、あたしらにとっちゃ傷をカバーする道具としては馴染み深いものだ。その名前が傷の手当を連想させる。ただ絆創膏じゃ重傷のベニグノは救えないね。もっと別のものにしな」


「別のもの?包帯とか?――ぅぁっ!? 」


「包帯もいけたようだね。だがそれでもまだ弱い。包帯も絆創膏も傷の手当としちゃ直接的な効果は薄いからね。――それと思ってるだけじゃない、口に出すんだ。あたしら、魔獣の言葉は精霊の言葉。精霊の言葉は即ち魔術を紡ぐ呪、要は呪文であり詠唱さ」


「わかった!じゃ、いくよ!えーと、輸血パック!注射器!ビタミン剤!」


「輸血パックとビタミン剤はちょっと来たね。注射器は駄目だ。ほら、しっかりおしよ、もっとないのかい。そんなんじゃベニグノは助からないよ! 」


「あーわかってるよもう。あーえー、えーとそうだな……えー、そうだ!ハイポーション! 」



ハイポーション。RPGゲームにおいては回復手段として鉄板ともいえるアイテムである。現実世界で凡そハイポーションなんてシロモノをお目にかかった事などないのだが、どうやらその効果とやらは抜群らしかった。

フラスコに半分ほど注がれた青々とした液体が頭をかすめた瞬間、今度こそ魔力の奔流がどうっと腕を抜けたのだ。絆創膏や包帯がお猪口に一口程度であるとすれば、こちらはバケツ一杯である。


オレはぷうと頬を膨らませて大きく息を吐きだした。確かにヴェラの言う通り、癒しの術は高難易度で魔力消耗が凄まじい。バケツ一杯は明らかにオレから余裕を奪い去っていた。

心臓を煽られて、動悸が激しくなっているし、何より虚脱感が凄まじい。目に見えるものではないのだが、腕を経由してこの水に生命力そのものを吸い取られたようだった。


その掌中の水だが、ハイポーションの魔力を受けて絵の具を垂らしたかのような青色に変わっていた。

ふと気づいた。滲み出て腕を伝って肘を濡らしていたものが、今ではすっかり盃に収まっているかのようにオレの手の中にある。好奇心に駆られて両手を少し左右に降ってみた。どのような原理か、青い水は我関せずとばかりに波紋を広げるばかりで一滴の雫すらこぼれない。


そっと指を広げてみた。

ため息がオレの口をついて漏れた。白い指と指の間に薄いシャボン玉を思わせる虹色の光彩――水かきがあった。青くさざめく水を通して透ける陽の光が万華鏡のような色合いで思わずつばを飲む。



「それが<蛇姫>の、あんただけの力<聖杯>だよ」



これでベニグノが救えるといった安堵感でもなく。オンリーワンを得た達成感や優越感でもなく。


<聖杯>の美しさにオレはただただ心を奪われていたのだった。




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