光の中
『あたしね、あるんだよ』
彼女は僕を見て、静かに言葉を紡いだ。
じっと見つめてくる彼女の目に僕は少し戸惑う。
あまりにも真っ直ぐだったから。
「あるって…まさか…?」
僕の言葉に彼女は頷いた。
『そう。天使。』
彼女は笑顔で答える。
彼女の目は嘘を吐いているようには見えない。
でも…
天使…って…
「夢じゃなくて?」
彼女を信じていないわけじゃないんだけどさ。
でも、僕の質問に彼女は優しい表情のまま
静かに首を横に振った。
その仕草が、否定を表していた。
彼女は続ける。
『正直…信じてなかったんだよ…天使』
彼女は僕を見て、フフッと笑った。
『貴方と同じでね』
その言葉に僕は苦笑した。
やっぱり気付かれていたのだと言う想いと
彼女も同じだったと言う想い…。
それなら、本当に見たと言うのだろうか?
天使を…。
彼女は僕の様子に微笑んで、続けた。
『ほんの数日前なんだけどね…』
彼女は、真っ直ぐ前を見て口を開く。
『昼間、道を歩いていたの。
その日は天気が良くて、
綺麗な青空…とまではいかないけど、白い雲が2、3プカプカと浮いているくらいの晴天だった。
日曜日だったせいか、いつもより車の通りが多くて…』
そこまで話したところで、ふわっと風が吹き抜けた。
彼女の髪がなびく。
その横顔がとても綺麗で…
つい、目を奪われる。
彼女は、ゆっくり空を見上げ思い出す様に微笑んだ…
『そう。
今日のような…少し肌寒い…こんな天気。』
僕は思わず腕を掴んだ。
背中に翼が見えたような気がして…
そのまま空に溶け込んでしまいそうだったから。
彼女は僕の掴んだ手に優しく手を沿えて、
キュッと握った。
前を向いたまま…。
『何気に上を見上げたら、道案内の看板が目に付いて…
そこにね…キラッと白く光るものがあったの』
「ん?」
そこで、僕は少し考えた。
それって…、
ただの太陽の反射じゃ…?
そう思ったけど…
突っ込むのはヤボというものだろうか?
僕が口を開きかけた、時を同じくして彼女が再び口を開いた。
『私もね…太陽の反射かな?
と思ったんだけど…』
チラッと僕を見て、ニコッと笑う。
そんな彼女の視線に、僕は頬に変な汗を流した。
「そ…それで?」
とりあえず先を促す。
『その白い光がね突然、大きくなって…
その光りの中に…
白い翼が見えたの。
鳥にしては、ゆっ…くりとした翼の動きで羽ばたいていて…
到底…、
宙を舞えるはずのない羽ばたきなのに…
ソレは円を描くように、ゆっくり…ゆっくりと
舞っていたの。
それは…
数分の出来事だったかもしれないし、数秒の出来事だったかもしれない。
時が止まったようだった。
暫くするとね、光りが…さらに光りを放って、途端にフッと光りが小さくなったと思ったら消えていったの。』
そこで、やっと彼女は僕の方に身体を向けて。
『…と言っても光る翼しか見ていないんだけどね。
真ん中は光で見えなかった。
』
そう言って彼女は
天使のような笑顔で笑って見せた。
『天使か?
って聞かれたら、判らないんだけど…ね。
もう、二度と逢うなんてないだろうから…
もう確かめる術もないんだよねっ』




