僕の天使
『貴方は天使を見たことがある?』
そう言われたら、どうしますか?
僕は笑った。
天使?
いるわけない。
もちろん、見えているもの全てが総てではないことは知っている。
だけど。
あれだろ?
光る翼人間。
おまけに普通では見えないらしい。
だから、僕が見ることはない。
僕は、眼鏡を指で押し上げて軽く息を吐いた。
「ない。
僕には"見えないものを見る"能力はないから」
その言葉に彼女はユルリと微笑んだ。
天使…
前言撤回。
いるかもしれない。
彼女の存在は僕にとって、天使だから。
彼女には翼はない。
もちろん実体もある。
だけど。
天使を代名詞として捉えるのなら、
それはまさに隣で微笑んでいる彼女だろう。
『なぁに?』
彼女は髪を後ろに流す仕草をする。
サラリと彼女の髪が揺れて甘い香りが僕の鼻をかすめた。
みとれてしまう。
彼女の細くて小さな腕。
真っ直ぐ伸びた栗色の髪。
白くて透き通るような肌。
二重で大きな瞳に長いマツゲ。
そして…
桜色の唇。
そこから溢れる透き通るような君の声…
『なぁに?』
彼女は再度、問う。
僕の視線が気になったのだろう。
僕は、一気に体中が熱くなった。
"君という天使なら見たことがある"
なんて言ったら、気障だって笑うかな?
そう想像(妄想?)して
僕は勢い良く首を横に振って掻き消した。
そんなの…、らしくない。
僕には似合わないだろ。
少し苦笑する。
だが。
冷静になればなるほど、先ほどのことが思い出され、恥ずかしさが込み上げてきた。
どうしよう…。
彼女の顔が見れない。
…落ち着け。
落ち着け!
僕は、再び熱をもった自分に言い利かせて、目を閉じた。
そしてゆっくり深呼吸する。
スーハー、スーハー、スーハー…
「………っく〜〜」
だ、駄目だ…。
つか、怪しすぎるだろ。
彼女の横で、肩を上下させ(深呼吸のせいで)
半興奮状態の(恥ずかしさで顔が赤いままだから)
男が座ってるんだ。
変質者にしか見えない。
そんな僕を知ってか知らずか彼女はクスクスと笑いだした。
突然、笑いだした彼女に僕は目を開けて彼女を見た。
「何、笑って…
━━━っ」
反則…だ…。
その瞬間…
僕は彼女の笑顔に何も考えられなくなってしまった…。
「天使みたいだ」
『え?
天使?』
彼女はきょとんとして、僕を見る。
(ハッ)
そこで我に返った。
赤かったはずの顔が、今度はサーッと蒼くなる。
彼女は、未だきょとんとして僕を見たまま。
オレ…今…
慌てて自分の口を塞ぐ。
だけど、時既に遅し。
顔は真っ青。
頭の中は真っ白。
まさか声に出してしまうなんて…
なにか…
なにか、言わないと…。
「…ち、違うんだ(何も違わないけど)
て…天使…そう!
"天使を見たいな"って言ったんだよ」
うまく誤魔化せたかな?
オレの必死の言い訳。
引き攣った顔で恐る恐る彼女を見る。
彼女は暫く呆然としていたが、何かを納得したように軽く唇を開けて、すぐに微笑んだ。