Ⅶ
村の片隅で夜風が残骸を撫で、月明かりが瓦礫の影をやわらかく伸ばしていた。家々は静まり返り、人々も自宅へと引き上げていく。
村への報告を終えたクノアとリヴィナは、村の外れまでゆっくりと歩いていた。どちらからともなく、時折小石を蹴る音だけが夜道にこだまする。
「……結局、あの子も助からなかったんだって」
リヴィナの声には、まだ埃と血の匂いが微かに残る。
「かろうじて息があったのにな」
クノアはしばらく何も言わず、歩きながら夜空を仰いだ後、ゆっくり口を開く。
「誰かを救おうとしても、間に合わないことが当たり前の世界だ。魔物って突然現れるものだと思われてるけど、本当は……」
「本当は?」
とリヴィナがやわらかく促す。
クノアは白い狼の最後の姿を思い出す。
「魔物って、もしかしたら……僕らの魔法と同じなのかもしれないなって」
「もしかして、継承と?」
「そう。俺が父から、リヴィナが母から、命と引き換えに受け継いだこの力と。本当に強く願った結果、誰かの命が引き換えになって、ああなるんじゃないかって……ただの想像だけど。命を生贄に願いをかなえた姿なのかもしれないなって」
ふたりの間に夜の草の匂いと月の静けさが流れる。
「そう、かもしれないね」
とリヴィナが低く漏らす。
リヴィナは、じっと靴先を見て、静かに言葉を続けた。
「私たちは誰かの生贄の下で生きてる。お母さんもだし、この魔法の力だって、動物の血を生贄に発動してる。結局、誰かを救うには、何かを捧げないといけない。今日は、一人も救えなかった」
「守れた人もいる。全員は無理でもせめてこの手の届く範囲だけは」
クノアの静かな声に、リヴィナは小さく頷く。そのままふたりは夜道を歩き続けた。
しばらく無言のまま夜道を歩いてから、リヴィナはぼそりと口にした。
「逆行」
「ん?」
「時間が巻き戻ったらいいのになって、時々思うんだ。失くしたものとか、救えなかった命とか。全部、もう一度やり直せたらって」
クノアも遠い目をして、ふっと笑う。
「それができたら、世の中で、もう少し救われた人がいるだろうな。でも、僕たちにできるのは、今を歩き続けることだけだ」
リヴィナはクノアを横目に見て、ごく小さく笑った。
「……うん、そうだね」
二人はあえて寄り添うでもなく、離れるでもなく、ただ同じ道を夜の奥へと進んでいく。肩の距離も、夜道の気配も、変わらないまま。夜空の月明かりだけが、ふたりの背中をやさしく照らしていた。




