表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆行の魔法使い  作者: ハデス
第一幕
6/7

クノアが家に駆けつけたとき、室内は喧騒と破壊の余韻に満ちていた。


煙と埃の中で、白い狼のような異形。


月光をそのまま纏ったような美しい身体が、黒々と禍々しい人型の魔物と対峙していた。


壁は裂け、床には爪痕が刻まれ、家具の残骸が散らばる。


クノアは倒れ込むリヴィナに一瞬で駆け寄る。


「大丈夫か?」


「……レウコス。あれが、レウコス……」


かすれ声でそう告げると、リヴィナは意識を手放した。


クノアは状況を把握しながら、一気に頭を切り替える。残る黒い魔物をロックオンし、腰の血瓶を掴む。


「加速」


赤くきらめく瞳。


正面から一気に間合いを詰め、銀のナイフを閃かせて斬りかかる。


だが、刃は重厚な外殻に阻まれ、金属的な響きを立てて弾かれる。


魔物の反撃。その腕が振り下ろされ、床を抉る。クノアは冷静に身体を捌き、かつてリヴィナですら難儀した鉄の隙を探る。


その時、白い狼が静かに一歩、前へ踏み出した。


レウコスは、雪嵐のごとき巨体で黒い魔物に向かってしなやかに跳ぶ。


クノアは思わずレウコスの体に手を伸ばし、その毛並みに手を添える。


「――加速!!!」


これまで誰にも聞こえないほど低く呟いてきたクノアの声が、その時だけは胸の底から突き上げるように放たれる。


掴んだレウコスの白い毛並み越しに、ただ一心に願いと力を託すように。

言葉は夜の家ごと貫き、レウコスの身体へまっすぐ届いた。


レウコスのしなやかな猛進とクノアの魔法の反響が、黒い魔物を真正面からねじ伏せ引き裂く。


空間が揺れ、世界が一瞬だけ静止する。


最後に残ったのは、断末魔を上げて崩れ落ちる黒い魔物の骸だった。


レウコスは黒い魔物の死骸の上に悠然と立ち、砕けた壁から射し込む淡い月明かりを全身に受けていた。


その姿は、もはや獣とも神ともつかない。白銀の毛並みが夜気にゆらめき、現実離れした神々しさと、どこか異質な威圧感を漂わせている。


クノアはその光景に思わず見とれ、手を伸ばしかけた。


「……レウコス」


指先はかすかに震えたが、触れる寸前でそっと空を切る。


振り返ったレウコスの瞳には、遠い世界への哀しみと、ほんの一瞬の誇りが宿っていた。


その神秘的な姿を、言葉もなく見送るしかなかった。


やがてレウコスは何も告げず、月明かりの中に静かに溶けて消えた。


残されたのは、月下の静寂と、掴みきれない余韻だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ