表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆行の魔法使い  作者: ハデス
第一幕
4/7

村に向かう道中、森に入ったあたりから、二人の歩調は知らず知らず速くなっていた。


いつも通りの軽口も、どこか緊張の色が混じる。


森の小道を抜けた先、血の匂いがふっと濃くなる。倒れ伏した狼たちが六匹、七匹。その中心で、一匹の異形、魔物化した狼が、白い毛並みの小さな子狼と向かい合っていた。


「どうする」


クノアは左手を血瓶に、右手を銀のナイフに添え、端的にリヴィナへ問う。


「助ける」


迷いなく即答するリヴィナ。その判断を受け、クノアは一言だけ呟いた。


「加速」


残像を残し一閃。


赤い瞳の光の軌跡。


その直後、狼の魔物は呻く間もなく地に崩れ落ちた。


残された子狼は、震えてリヴィナの足元に身をすり寄せる。瞳は鮮烈な青、雪を閉じ込めたような白い毛並み。


「君の名前はレウコスだ!」


リヴィナが膝をつき、子狼を抱き上げる。


「本気か?今から戦闘だぞ?」


小さく呆れるクノアに、リヴィナはにやりと笑って言う。


「まあいいじゃないか、一期一会の旅。たまには同行者がいても」


クノアは肩をすくめて目だけ笑う。「本人、本狼が着いてこなかったらこの話はなし。勝手について来る分には好きにしろ」


「話がわかるな!」


喜々としてレウコスの頭を撫でるリヴィナの横で、クノアは倒れた狼たちに目を落とす。


その遺骸のほとんどは魔物による噛み傷、裂傷が生々しい。だが一匹だけ、傷一つなく、すやすや眠るような安らかな顔のまま横たわる個体がいた。血にも泥にもまみれていない毛並み。


何かが胸の奥に引っ掛かる。


だが余韻はすぐさまリヴィナの声にかき消される。


「着いてきそうだから、このまま向かおう!」


軽く頷いたクノアはリヴィナと並び、森を抜けて再び小道を歩き出した。


あの無傷の狼だけが、胸のどこかにひっそりと引っかかっている。


けれど、その違和感も、村へと向かうふたりと1匹の足音の中に静かに溶けていった。


リヴィナがレウコスの小さな足音に微笑む。


「本当に着いてきてるな」


森を抜け、村が見えはじめた瞬間、場の空気が一変した。


ふいに二人のもとへ、血相を変えた男が駆け寄ってくる。


「あの、村の外れの家なんだが、ここの突き当たり、あそこの家の中に魔物が……いまのところけが人はいない、たしか、あそこは父母と娘の三人家族で……。大きな音がして、誰かが見に行ったら窓から魔物の姿が……他の連中はもう離れて、この辺りに集まってるんだ、だけど、それで……」


動転した声が途切れがちにあふれ、クノアはやわらかな声で男の肩をそっと押さえる。


「大丈夫です。皆さんはここでかたまって、どこにも動かず待っていてください。私たちがすぐに対処します」


男は幾度かうなずき、息を挟みながらも「わかった……でも、危ないから、頼む……」と繰り返す。


クノアは男の肩にそっと触れ、落ち着いた声で話しかけながら、リヴィナに軽く目配せをする。


リヴィナは一瞬だけクノアを見て、すぐに頷いた。その足元では白いレウコスもわずかに身をかがめ、まるで長い相棒のように前方を見据えている。


「加速があれば、もう少し早いのに」


ため息まじりの呟きを残し、リヴィナは家へと駆けていく。レウコスはすぐさま横について、一歩も遅れず彼女と並んで走った。


家までの距離は短いが、すべてが間に合わないような苛立たしさが胸を突く。


家の扉を蹴破ると、すぐに目に飛び込んできた。


黒い鉄板のような皮膚に覆われた異形の魔物。


人型のそれが静かに立っている。その横に横たわる中年の女性。


少し離れた床で、子どもの身体が動かず倒れている。だが、そこからはまだ、かすかな命の温もりが残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ