第八話 イケメン主人公になりたくてなれなくて
8、9話を同時に投稿しました。9話で一旦、導入編が終了します。
ホームルームが終わった後の教室は、生徒たちの楽しそうな声で満ちていた。
和誠は机の上を片付けながら、今日の昼休みの出来事を思い出していた。
(……)
幸來の言葉が、和誠の脳裏に焼き付いて離れない。その時の幸來の表情を思い出してみる。
俺が彼女に話しかけた時、一瞬だけ見せた戸惑いの表情。そして、最後に教室を出ていく自分に送った、悲しげな表情。それらの全てが、和誠の心を締め付けていた。
「なぁ、俺、何か変なことしたか……?」
和誠は、誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。その声は、和誠の心の中の不安をそのまま映し出していた。
彼は、今まで、誰かに嫌われたり、避けられたりした経験がほとんどなかった。なぜなら、彼は常に『主人公』として、皆から好かれる存在であろうと努力してきたからだ。
しかし、幸來のあの言葉は、和誠の心を深く傷つけた。和誠は、自分の「主人公」としてのアイデンティティが揺らいでいるのを感じた。
「おーい、和誠、帰るぞ」
そこに立っていたのは、小学校からの親友である水瀬 薫だった。クラスの女子が、一斉に彼に視線を向ける。端正な顔立ちに、すらりとした長身。和誠とは対照的に、クールでどこか近寄りがたい雰囲気をまとう彼は、女子の間でも「孤高の王子様」として有名だった。和誠は、薫の姿を見て、少しだけ安堵の息を吐く。
「おう。」
二人は、クラスメートの視線を気にすることなく、並んで教室を出た。廊下を歩きながら、和誠は再び思考の海に沈んでいた。幸來に嫌われたかもしれないという事実が、彼の頭の中を支配していた。
下駄箱に向かう途中、薫が立ち止まった。
彼は、和誠の顔をじっと見つめる。
「なんか、和誠元気ねぇ?」
和誠は、薫の質問にどう答えるべきか迷った。幸來とのことを話すべきか?いや、話したところで、薫には理解できないだろう。彼は、常に女子に囲まれ、モテる人生を送ってきた。自分とは住む世界が違う。
「はぁ〜モテ男のお前には関係ない事だよ」
和誠は、ため息交じりにそう言って、薫の顔を横目で見た。まるで、目の前にいる完璧な存在に、自分の惨めさを突きつけられているような気分だった。
「は?」
薫は、和誠が言った意味が分からず、ただ純粋に聞き返した。すると、和誠は冗談めかして笑う。
「なんでもねぇよ! それよりお前、今日こそゲーセン行こうぜ!」
「……悪い、今日は用事がある。また今度な」
薫は和誠の誘いを断り、二人は別れてそれぞれの家の方向へ歩き出した。
「俺が薫ぐらいイケメンだったら、こんなことにはならなかったかもな」
幸來に「話したくない」と言われたこと。そして、その後に見せた幸來の態度。和誠は、それが自分の見た目や、魅力の無さからくるものだと思い込んでいた。
「イケメン主人公はなりたくてもなれねぇんだよ」
和誠は、そう自嘲気味に呟き、玄関のドアを閉めた。
「ただいまー……」
重い足取りでリビングに向かうと、ソファに座ってだらだらしている姉の七架がいた。七架は、和誠に気づくと、ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
「何よ、辛気臭い顔して」
七架は、和誠の顔をまじまじと見つめる。そして、和誠の肩に手を置き、顔を近づけてきた。
「恋の悩みね」
その言葉に、和誠の顔はみるみるうちに赤くなった。
「違うはボケぇ〜!こんな時間から酒飲んでんじゃねぇよクソ姉貴!」
和誠の怒鳴り声が、静かなリビングに響き渡った。




