第十話 以外な再会
10から12話を同時に投稿しました。 ぜひそちらもご覧下さい。
「うわぁあああああぁあああ!!」
幸來はベッドにもぐり込み、枕に顔を押しつけて絶望を叫んだ。声は枕越しにか細くこもるだけで、自分の鼓動がやけに大きく感じられる。
(なんで! なんでなの⁉︎)
和誠を遊びに誘おうと決めた、夏休み二日前のあの日から、誘えないまま四日が過ぎていた。そう、4日が過ぎていたのだ。
(もう夏休み二日目だよ!)
一通りベットの上で転がり回った後、幸來はしぶしぶ起き上がる。
「死にたい…」
と、今にも消えそうな声で呟いて、自分を叱咤しながら夏休み二日前からの出来事を思い返した。和誠からの「死刑宣告」を受けてから、覚悟を決めたはずの彼女は、教室に戻ってから何もできずにいた。
(無理だよ! さっきも変な感じで急に出ていっちゃったし、絶対変な子って思われてるよぉ!!)
覚悟はあっさり崩れる。ホームルーム、午前の授業、昼休み、終わりのチャイム。放課後になり、薫が和誠を迎えに来る。
「和誠、帰るぞ」
「おう」
教室を出ていく二人の背中を見送った幸來は、机に突っ伏して小さく息をついた。
(終わった。私の夏休みが…)
「文月さん、大丈夫? 今日一日中、なんか元気なかったけど」
声をかけられて、幸來は震える声で返す。
「はい…大丈夫です。私の夏休みが終わっただけなので…」
「えっ⁉︎ まだ始まってないのに?」
(明日こそは絶対、元宮くんを遊びに誘うんだから!)
翌日、教室で。
「おはようございます、元宮くん」
「お、おはよう、文月さん」
「……」
(だから何なの〜! この三日間、「おはようございます、元宮くん」しかまともに話せてないじゃん!)
「昨日も言ったけど、明日から夏休みだね」
その言葉に、幸來の顔が強張る。
「ふ、文月さんは何か夏休みの予定ってあったりするのかな?」
和誠が慌てたように尋ねる。幸來の中で稲妻が走る。
(チャンスよ! 今ここで“遊びたい”ってアピールしなくちゃ)
「いえ、特には」
「へぇ〜そうなんだぁ…」
「……」
(下手か! 何なの私って)
そこへ翔太が入ってきて、二人に近づく。
「なぁ和誠。夏休みどっかいかねぇ? って、なんでこんな変な空気?」
「お、おう、いいな。行こうか翔太くん。じゃ、あっちで計画を立てよう」
和誠が翔太の肩を組む。
「なんだ?お前なんか気持ち悪くねぇか?」
幸來は頬を叩いた。
(切り替えていかなくちゃ! 絶対、昼休みは誘ってみせるんだから!)
三度目の覚悟を決めたが、その日は終業式で午前中までだった。
「やっぱり、死んだ方がマシなんじゃ…」
再び枕に顔を埋めると、一階から母の声が聞こえた。
「幸來〜、あなた昼から塾なんだから早くご飯食べちゃって」
「はぁーい」
はぁ、とため息をつきつつ食事を済ませる。一ヵ月の間学校を休んで学力面で遅れを取っている幸來は、夏休みの多くを塾の夏期講習に充てることになっている。家を出て、駅前へ向かうバスに乗る。駅近くの通りは人通りがあり、ビル群が並ぶ。
塾の入っているビルの前に差し掛かったとき、見覚えのある人影が目に入る。
(えっ、元宮くん⁉︎)
しばらくして和誠も幸來に気づく。
「ふ、文月さん⁉︎ 偶然だね、こんなところで会うなんて」
「こんにちは、元宮くん。久しぶり…でしょうか?」
幸來は早めに気づけたことで、なんとか自然に振る舞えた。
「そうだね、二日ぶりだね。文月さんも駅前に何か用事があって来たの?」
「はい」
「そうなんだ。じゃあ、また学校で」
その言葉に、胸の奥がきゅっと痛む。今の関係では、夏休みに一緒に遊びに行くなんて到底無理だと自覚する。
「はい。では、また学校で」
「……」
互いに別れを告げて、ふたりとも塾の前から動けずに立ち尽くす。
「ま、まさか文月さんもここの塾行くの?」
「ってことは、元宮くんも」
二人の心の中で、驚きと喜びが渦巻く。声には出さずとも、互いの表情がその感情を物語っていた。




