表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

サポートキャラに転生しました

作者: ful-fil
掲載日:2026/06/21

 サポートキャラ。

 それはゲームにおいて、主人公をサポートするキャラである。

 多くの場合は主人公と同性で、友人あるいは事情通なクラスメイトなどの立ち位置にある。

 乙女ゲームにおいては、攻略対象の好みや家族構成など個人情報に精通していたり、ヒロインへの現時点での好感度を数値で教えてくれるなど、情報源として優秀である。

 容姿は概ね地味で平凡、眼鏡や書物などの地味系小道具を装着していることもある。

 サポートキャラに恋愛イベントが用意されることはなく、美麗な一枚絵に描かれることもあまりない。

 

 ……。



 あ、俺、サポートキャラだわ。


 その日、俺は自分が乙女ゲーム世界のサポートキャラに転生していることに気づいた。





「ねえねえ、トニー、デズモンド様の好感度は今幾つ?」

「デズモンド様ね。ん-、そうだなー、5ってとこだな」

「たったの5? 最大100よね。低すぎない?」

「しょうがないだろ。学園生活始まったばっかりなんだし。ゼロでないだけマシだろ。存在は認識されてるってことなんだから」

「むぅ~、仕方ないわね。地道にイベントこなすしかないか」


 眉間にシワを寄せて走り去っていく少女、シャーリー。

 ゲームのヒロインである。

 一応、俺の幼馴染でもあるが、御覧の通り、人にものを尋ねておいて、情報料も払わなければお礼の言葉も述べない失礼なやつである。

 こんな礼儀知らずが学園の貴公子と呼ばれるイケメンたちにアタックしたって上手くいくわけないと思うのだが、ゲームって不思議だよな。


 俺はゲーム知識のある転生者だが、どうやらシャーリーも同類らしい。

 ただし、あっちは俺が転生者だとは気づいていない。

 学園入学と同時に前世の記憶を取り戻したらしい彼女は、ぱったりと俺を幼馴染扱いするのをやめた。

 完全に『ゲームのサポートキャラ』としてのみ接してくるようになり、話しかけてくる用事と言えば、『エルドレッド様の好感度は?』とか、『ジェラルド様の好感度は?』とか、そんなのばっかし。

 そして、それらの質問にバッチリ答えることができてしまう自分。

 攻略対象の姿をちらりとでも見ていれば、自動的に彼らのデータが取得され、脳に記憶されたそれらを必要に応じて正確に思い出すことができるのだ。

 サポートキャラの能力、すげー。

 ただし、俺が目視した時のデータなので、日にちが開くとリアルタイムの数値と誤差が出る。

 まあ、同じ学園に通う有名人なので、大抵毎日どこかで視界に入るんだけど。


 シャーリーが俺を便利な情報源としてのみ扱うようになったので、俺も彼女を『人を人として見ない認知が歪んだゲームプレイヤー』として扱うことにした。

 つまり幼馴染としての絆は切れたわけだ。

 話しかけられれば答えるが、こっちから話しかけることは未来永劫、ない。


 俺以外の友人知人からも『なんか最近態度変わった』と距離を取られ始めているのに、攻略に夢中で気づいていないシャーリー。

 攻略対象も一人に絞らず、あの人この人と目移りしている様子だし。

 あいつの未来は明るくないな。

 俺が心配する筋合いじゃないけどな。





「ねえねえ、トニー、クラレンス様のプレゼントされたら嬉しい物って何かな?」

「そりゃ初雪草の根っこだろ。研究に必要らしいから」

「初雪草ね。それどこにあるの?」

「運が良ければ輸入品専門店の薬草コーナー。そこになかったら雪山に採りに行くしかない。凍りついた岩場に生える植物だから」

「げー、最悪!」


 パタパタと足音を立てて走り去っていくシャーリー。

 最悪って、雪山行く気か、普通だったら遭難するぞ。

 乙女ゲームのヒロインが普通の人間かどうかは不明だが。

 セリフの前半、輸入品専門店の辺りをまるっと無視したってことは、耳に入ってなかったか、聞いても頭に入らなかったか。

 まあ俺の知ったことじゃない。


 こうやって異性の幼馴染に頻繁に話しかけられていると、普通ならカップル認定されそうなものだが、俺とシャーリーに限っては周囲からそのように見られてはいない。

 会話が短く事務的、なおかつ笑顔もなければ身体的接触も皆無だからだ。

 食堂で昼食を取っていたら小走りに寄ってきて、聞きたいことを聞き出したら一秒も無駄にせず去っていった。

 邪魔される時間が短くて済んで、こっちも助かる。


 それにしても俺の能力はどこまで進化するのだろうか。

 攻略対象の好感度どころか、今一番欲しい物や、それがどこにあるのかまで突き止めてしまっている。

 ゲームのサポート用に限定されてると思うと残念だ。

 ゲームの枠を超えて、これだけの精度で情報を集められるのなら、色んな活用法が見えてくるのに。

 そんなことを思いながらデザートのアップルパイを食していた俺の前にスッと現れた一人のモブ。


「なあ、トニー、おまえ色んなことに詳しいよな。もしかして女子のことも詳しい? たとえば、あの子とか……」


 そう言ってチラッと目で示したのは、窓辺でひっそりと本を開いている女子。

 地味に可愛い子だけど、あいにくゲームとはなんの関係もない、これまたモブだったりする。

 モブの情報なんか用意されてるわけが……。


〇ダフネ・ダーリントン。ダーリントン男爵の長女。弟が一人いる。婚約者なし。特定の交際相手なし。内向的。趣味は読書と刺繍。好きな色はミントグリーン。好きな食べ物はパンプキンパイ。好きな動物は犬。苦手なものは香辛料が効きすぎた料理とすぐ怒鳴る男性。将来の夢は夫と犬と子どものいる家で慎ましくも穏やかに暮らすこと……


 ……出たよ。


 脳内に流れ込む情報に、呆然と固まる俺。

 ダフネ嬢から無理やり視線を引きはがすと、情報の流入は止まった。


 何だよこれ、モブにも情報が用意されてんのかよ。

 てことは……。


 試しに目の前にいるモブ男子を見てみる。

 今までとは違う、『見よう』という意識を込めて。


〇パーシー・メアスコット。メアスコット子爵家の次男。上に兄、下に弟がいる。婚約者なし。特定の交際相手なし。単純素朴、友情に厚い。趣味は乗馬とフェンシングと魚釣り。好きな色は赤。好きな食べ物はシェパーズパイ。好きな動物は犬。苦手なものは難解な本とすぐ泣く女。将来の夢は騎士になること……


「……パーシー」

「何だ?」

「君は三人兄弟か?」

「そうだけど」

「乗馬とフェンシングをやってるか?」

「やってるけど」

「将来は騎士を目指してたりするのか?」

「そうだけど……やっぱりおまえ他人のことに詳しいな」


 俺はアップルパイをフォークでつつきながら、頭の中で要点をまとめた。


「彼女はダーリントン男爵家のダフネ嬢だ。犬好きだから、親しくなりたいなら犬の話題を振ってみろ。パイの中身は何が好きかって話題でもいいだろう。彼女は繊細だ。怒鳴る男は嫌われるから、くれぐれも大声など出さないように立ち居振る舞いに気をつけろ」

「おお、ありがとう、友よ!」


 なんか熱い感じに感謝された。

 知らんぞ、その情報で上手くいくかどうかなんて。

 まあいいか、モブ男子の情報が合っていたのなら、モブ女子の情報もこれで合っているだろう。

 それにしてもまさかゲームに関係のない人物の情報まで読み取れるとは。


 ……。


 人物……だけなのだろうか?


 攻略対象の欲しい物はその品名から所在まで出てきたよな。

 もしかすると……。


 俺は右手に持ったフォークをじっと見つめた。

 目に神経を集中して。


〇ステンレス製のフォーク。学生用の食堂で使い込まれた品。


 出ちゃったよ。

 ゲームとなんの関係もないアイテムの情報が。

 これ鑑定だよ。

 俺の特殊能力、実は鑑定スキルだった……?





 それから俺はありとあらゆるものを鑑定しまくった。

 さすがに女性のスリーサイズその他はモラル的にどうかと思ったので、なるべくプライバシーを侵害しないように心掛けた。

 でもちょっとだけ見てしまった。

 だって気になるじゃん、ものすごく立派な胸部装甲をお持ちの女性教師、その衣服の下が詰め物なのか本物なのか。

 そういったプライバシーに関わる鑑定は、結果を知っても黙して語らず、誰にも明かさないとここに誓う。


 鑑定しまくって分かったのは、人間については細かいことまで色々読めるが、フォークやスプーンなどの無生物は極めてシンプルなフレーバーテキストみたいなものしか出てこないということ。

 やはりサポートキャラとして与えられた能力だからだろうか。

 説明文の文字を凝視したら詳細情報が出てくるんじゃないかと、じーーーーっと睨んでみたりしたが、何も追加されなかった。

 骨董品などの鑑定ができれば大儲けと思ったが、ゲーム世界もそんなに甘くないか。


 ……人間以外の生き物だと、どうなんだろう?


「なあ、パーシー」

「ん?」


 俺は最近親しくなったモブ男子に声をかけてみた。


「おまえ犬飼ってるよな? いっぺん見に行っていいか?」

「いいけど、遊ぶなら服が汚れる覚悟で来いよ」


 パーシーはダフネ嬢と親しくなることに成功したらしい。

 一緒に図書館に通うなどして徐々に距離を縮めているようだ。

 感謝のしるしと言って、犬の足型のクッキーをくれた。

 こっそり鑑定したら、『パーシー・メアスコットの手作りクッキー』と出た。

 ……パーシー、おまえお菓子作りの趣味もあったのか。

 一度鑑定しただけではわからないものだな、と犬の足型クッキーを齧りながら思った。

 普通に美味かった。





 メアスコット家の庭。

 パーシーの愛犬は賢そうな顔をしていた。


「マロウ、待て」


 嬉しそうに尻尾を振って主人の周りをぐるぐる回る愛犬に、パーシーが片手の手のひらを見せると、ぴたりと止まった。

 更にパーシーが人差し指を一本立てて見せると、びしっと姿勢よく座ってみせる。


「よーしよしよし、いい子だ」


 パーシーが愛犬をわしゃわしゃ撫でまわしている間に、こっそり鑑定すると……。


〇マロウ。セッター。6歳。メアスコット家の飼い犬。スタミナとスピードに優れる。遠乗り、狩猟、魚釣りなどのお供でお出かけするのが大好き。最近子どもたちとのお出かけが少ないのがやや不満。運動不足で太り気味。幸福度78。


 ……ペットには幸福度ってあるんだな。

 攻略対象の好感度と同じようなものだろうか。

 78なら、まあまあ幸せそうだ。

 品種と年齢も出ている。

 やっぱり無生物より詳しいな。

 それにしても運動不足か……。


 パーシーと共にボールを投げたりして、犬と存分に戯れながら、俺は提案した。


「なあ、パーシー。今度の休みにマロウ連れてどこか行かない?」

「うーん、そうしたいのは山々なんだが」


 愛犬と取っ組み合いごっこをして庭をゴロゴロ転がったパーシーは気のない返事を寄こした。

 じっと見つめると……。


〇パーシー・メアスコット。メアスコット子爵家の次男。犬好き。友人に遊びに誘われて嬉しいが、週末には意中の人とのデートを優先したい。が、しかし、肝心のデートプランが決まらず、未だデートに誘えていない。頭の中は『どうやって彼女をデートに誘うか』で占められている。


 ダフネ嬢か。

 彼女との距離を縮めるのに忙しいのか。

 気持ちは分かるが。

 それはそれとしてペットも大事だろう。


「彼女も誘えばいい。犬好きなんだから犬と遊ぼうって言えば来るだろ」

「……その手があったか!」


 ペットのダイエット大作戦は、飼い主の恋愛大作戦も兼ねることになりそうだ。





 釣りにするか遠乗りにするか、行先をどこにするか、男二人はいいとしてダフネ嬢にも同性の連れがいた方がいいのではないか、それは誰にするか……。

 俺とパーシーはそれらを楽しく論じあっていた。

 そこへ遠慮もなく割り込んでくる礼儀知らずが一人。


「ねえねえ、トニー。クラレンス様の好感度って今幾つ?」

「んー、15ってとこかな」

「低すぎない? 初雪草の根っこをあんなにプレゼントしたのに!」


 知るか。

 あんなにって、どんだけ押し付けたんだよ。

 必要量以上に、非常識なほどの量を渡したのだとすると、好感度は上がらず、むしろ下がる。

 過ぎたるは及ばざるがごとしなんだよ。

 適量だったとしても、品質が悪ければやっぱり好感度は下がる。


「もう知らない! あんな面倒くさい人、やーめた。やっぱりデズモンド様にするわ。ねえねえ、トニー、デズモンド様の今欲しい物って何?」

「あー、過去百年分の災害の記録を探してるらしいな」

「災害の記録ね。それどこにあるの?」

「公的なものなら公文書図書館。私的なものなら各貴族家の日誌だな」

「げっ、こっちはこっちで面倒くさい。学校の図書館に入れといてくれればいいのに」


 ぶつくさ文句を垂れながら、走り去っていくシャーリー。

 呆れ顔で見送るパーシー。


「……俺の存在、完全無視だった」

「あいつ、いつもあんな感じなんだよ。他人が目に入らないっていうか」


 モブは眼中にないというか。

 攻略対象以外は人間だと思ってないんだよ。


「同行者を募るにしても、あれはナシだな」

「うん、あれはやめとこうな」


 シャーリーだけは誘わないことにしよう、と俺たちは頷きあった。

 その日のことだ。

 昼休み、ランチを食べに食堂に向かって中庭を突っ切ろうとした俺。

 ふと視界の端にいる一人の人物が気になった。

 花壇の花に手を伸ばしている少女。

 その手の先にあるのは……。


〇レンゲツツジ。ツツジ科ツツジ属の落葉低木。日当たりの良い高原・草原・湿地などに群生する。朱色の美しい花を咲かせる。観賞用に庭に植えられることも多い。全体に強い神経毒を含む。花には蜜があるが蜜も有毒。


 少女は花を摘み取り、がくをちぎって捨てて、ちぎった根元を口に運ぼうとしている。

 ……蜜を吸う気か!


 毒の花が少女の口に入れられる寸前、俺はその手を掴んだ。


「ダメだ。この花は毒なんだ」

「えっ……」


 驚いた顔で俺を見上げる少女。


〇ミラベル・リビングストン。リビングストン男爵家の長女。同い年の妹が一人いる。栄養状態不良。痩せすぎ。


 同い年の妹ってとこにもツッコミたいが、仮にも男爵家の娘が栄養状態不良で痩せすぎってどういうことだ。

 見ると、確かに手首がやたらと細いし、顔色も青白い。

 ダイエットのしすぎか?

 いや、花の蜜を吸おうとしていたのを考えると……。


「……おなかが空いてる?」

「お恥ずかしいことですが。子供の頃、親戚の家の庭で、よく似た花の蜜を吸ったことがあったので、これなら空腹をまぎらわせることができるかな、と……」

「……食堂で何かおごるよ」


 ミラベル嬢は飢えていた。

 スプーンを持つ手が微かに震えている。

 見ず知らずの男に食堂に誘われて警戒もせずにフラフラと付いてくるあたり、脳にブドウ糖が行き渡っていないらしい。

 食べ物を減らすと、一時的には頭がクリアになって集中力が高まるが、やがて栄養不足で頭が回らなくなる。

 幸いにも胃腸は食事を受け付けないほどには弱っていなかったようで、彼女はランチを完食し、デザートのカスタードパイを綺麗に平らげた。

 砂糖を大量投入した紅茶を飲み終えて、彼女はホッと一息ついた。


「……生き返ったような気持ちです」

「事情、聞いた方がいい? 聞かない方がいい?」

「聞いていただけるのならば、話したいと思います。気分の良い話ではないのですが」


 聞かなくても鑑定すれば大体のことはわかるが、彼女の口から聞くのが大事だという気がする。

 ポツリポツリと語られたその内容は確かに気分のいい話ではなかった。

 よくあると言えばよくある話で、母親が亡くなり、父親が再婚して、再婚相手とその連れ子による継子いじめが始まったというわけだ。

 鑑定で「同い年の妹」と出たのがその連れ子なのだろうが、義妹でなく妹と表示されたあたりがちょっと怪しい。

 父親の浮気で出来た腹違いの妹なのではないだろうか。

 もしそうなら、再婚相手とは長年の愛人関係にあったわけで、それが再婚で家に入ってきたとなると、穏便には済まないことは想像に難くない。

 男爵家の中は先妻の娘であるミラベル嬢に味方する者と、後妻とその連れ子に味方する者とに分かれ、争いの末、後妻側が実権を握ったわけだ。

 敗北したミラベル嬢への冷遇が始まった。

 それがおよそ三か月前のこと。


「この頃では夕食も出てこない日が多くて……」

「娘が餓死してしまったら男爵家の体面に傷がつくでしょうに」

「後先考えない人たちなので」


 はあ~、と暗い顔でため息をつくミラベル嬢。

 気の毒だけど、ため息ついてたって解決にはならない。

 三か月冷遇されただけで栄養不良の痩せすぎになってるんだから、年単位でやられたらマジで死ぬだろう。

 そんな家で冷遇に甘んじてないで、自分の食う物を自分で手に入れるようにしないと……。


 ……ハッ。


 俺の脳内でアレとコレが繋がった。


「ミラベル嬢」

「何でしょう?」

「魚、好きですか?」





 メアスコット子爵家は私有地に小さめだが豊かな森を持っている。

 植生も豊かだし、キノコも採れるし、なんといっても清らかな小川が流れて綺麗な鏡のような池を作っている。

 その池に俺たちは来ていた。


「自由に釣っていいんだな?」

「もちろん。ここで養殖してるのはニジマスなんだが、人気がない魚だから外部に売ることはあんまりないんだ。新鮮なうちに料理すれば美味いから、身内と来客で消費してる。食いたいだけ釣ってくれ。釣れたら俺が焼いてやる」


 メアスコット家次男パーシーは魚も焼ける料理男子だった。

 ほんと、人間って一回鑑定したくらいではわからないよな。

 ダフネ嬢やミラベル嬢も鑑定を重ねれば、隠れた特技の一つや二つ、出てくるかもしれない。

 プライバシーだから不必要な鑑定はしないつもりだが。


 本日の釣りイベント参加者は、パーシー、ダフネ嬢、ミラベル嬢、そして俺の合計四人、プラス犬一匹。

 パーシーにとっては念願の初デート。

 マロウにとっては運動不足を解消する楽しいレジャー。

 ミラベル嬢にとっては腹いっぱい食べられる貴重なチャンスだ。

 といっても女性二人は釣りが初めてとのことなので、釣果はあまり期待できない。

 男二人で四人分釣れればいいが、そうでなかった場合は持ってきた軽食を食べればいいだろう。

 気持ちのいい戸外で食べれば、冷めきったポークパイやソーセージロールでも十分美味いはず。

 広い所へ放されたマロウは大喜びで走り回っている。

 パーシーが各自に釣り竿を配る。

 それぞれが場所を選び、敷物を敷く。

 なんとなく男女でペアを組む形になったのは、女性の釣り針に餌をつけてあげるためだ。

 生餌は女性たちが怖がるだろうから、練り餌にした。

 食いつきが悪いかもしれないと思ったが、ニジマスは貪欲だった。


「引いてる、引いてるわ!」

「慌てないで、ゆっくり竿を上げて」


 釣れた。

 馬鹿みたいに釣れた。

 ここの魚は警戒心がないのか?

 何気なく水面を鑑定してみた。


〇鏡の池。メアスコット子爵家の私有地にある釣りスポット。男女のカップルだと不思議によく釣れる。釣れば釣るほど恋心も燃え上がる。


 ……もしかして乙女ゲームの隠しイベントなのでは。

 まあいいか。


 十分に釣れたので、ありがたく調理に取り掛かることにする。

 石のかまどで火を起こす。

 ライターがなくても火を起こせる自分が誇らしい。

 この世界では誰でもできる事だけどね。

 パーシーが手際よく魚の腹を割いて内臓を取り出し、小川で軽く水洗い。

 彼の指示に従って、四人で魚を串に刺し、塩を振り、焚火の近くに立てていく。

 遊びから戻ってきたマロウが興味深そうに魚の匂いを嗅いでいるけど、『待て』と命じられて大人しく待っている。

 そんなマロウをダフネ嬢が目を細めて撫でている。

 さて、焼けるのを待つ間に森の恵みを取りに行くか。


「何をしてるんですか?」

「うわ!」


 背後から声をかけられてびっくりした。

 ミラベル嬢、いつの間に……。

 顔色は少し良くなっているが、まだ細すぎる彼女は体重が軽いせいか気配が薄い。

 足音もなく背後に忍び寄られると、幽霊みたいで心臓に悪い。


「これを摘んでたんだよ。食後のデザートにと思って」


 池からさほど遠くない所に群生していた赤やオレンジ色の実。

 釣り糸を垂れながらこっそり鑑定していたのだ。


〇モミジイチゴ。別名キイチゴ。バラ科キイチゴ族の落葉小低木。健康で清潔な状態。実は食用で美味。生食にする他、果実酒やジャムなどに加工できる。


「これは、ラズベリー……でしょうか?」

「うん、ラズベリーの仲間。毒もないし、美味しいよ」


 小さな実を一つミラベル嬢に渡す。

 自分でも一つ口に入れる。

 本当は水洗いしてからの方が安全だけど、虫も付いてないし、鑑定した感じ汚れもなさそうだったから、まあ大丈夫だろう。

 実を噛むと爽やかな風味が口の中に広がった。

 ミラベル嬢も実を口に入れて、慎重に咀嚼している。


「……美味しいです」


 家で甘い物食べさせてもらってないのなら、こんな野生のベリーでもごちそうだよな。


「森の恵みだな。パーシーに、ていうかメアスコット子爵家に感謝しよう。あいつんちの森だから」

「私、いただいてばかりで、何もお返しできないのが心苦しいです」

「んー、お返しがしたいなら、またこの手の遠出に付き合ってやってくれ。あいつ、ダフネ嬢と仲良くなりたいんだよ」

「それは見ていればなんとなくわかります」


 パーシー、下心がバレバレだったよ。


 ほどよいタイミングで火の傍に戻ると、ニジマスがいい感じに焼けていた。

 焼きたての魚をミラベル嬢は美味しい美味しいと感激して食べた。


「美味しい、です……外に出ればこんなに美味しい物があるんですね。私、知らなかった……外に出ようともしなかった……」


 感激のあまりこぼれた涙を、ダフネ嬢がハンカチで拭いてあげていた。

 俺は空を見上げて飛んでる鳥を眺めているふりをした。

 鼻水垂らしてる顔を見られたくはないだろうからね。


「また来よう。今度はフライパンも持ってきて、ニジマスのソテーを作ってあげるよ」


 パーシー、おまえはどこまで料理が得意なんだ。

 分けてもらった魚をハフハフ食べていたマロウが嬉しそうにワン、と吠えた。

 俺たち四人は笑い合い、またこのメンバーで一緒に釣りをしようと誓い合った。





 一年後、学園にて。


「ねえねえ、トニーどこにいるか知らない?」

「あー、トニーの幼馴染の……名前何だっけ」

「シャーリーよ。それよりトニーどこよ。最近教室にいないし、探しても見当たらないんだけど」

「そりゃそうだろ。あいつ学園辞めたもん」

「辞めたぁ?」

「そ。退学」

「なんで!?」

「冒険者になるんだとさ」

「はあぁあ~~? なにそれ、攻略の途中なのにサポートキャラがいなくなるなんて、シナリオはどうなるのよ!?」





 遠くでシャーリーが吠えているような気がする。

 が、俺の知ったことではない。

 俺はもう乙女ゲームのサポートキャラを辞めたのだ。


「トニー、あれは何ですか?」


 相棒に問いかけられて、俺は彼女が指し示す物をじっと見る。


〇デビルズ・ネペンテス。別名『死人の寝袋』。植物モンスター。甘い香りで獲物を引き寄せ、蔓で絡めとって消化液の入った袋に閉じ込める。袋の中には消化できなかった金属類が溜まっていることがある。


「食虫植物が巨大化したような魔物だな。近づいたら襲ってくる。倒す?」

「近づかなければ襲ってこないのなら、無理せず迂回しましょう」


 俺の相棒は慎重な性格だ。

 冒険者として生きていくのに向いていると思う。


 かつてミラベル嬢と呼ばれていた彼女は貴族籍を抜けてただのミラベルになった。

 言葉遣いは丁寧なままだが、それ以外はどこから見ても平民だ。

 家の外で食べ物を得ることを覚えた彼女は、めきめきと才能を開花させていった。

 体力をつけると同時に体を鍛え、武器の使い方を覚え、狩りを覚え、今では野営にも慣れた。

 彼女は冒険者になったのだ。


 そして俺も冒険者になった。

 俺の鑑定は野外でのサバイバルに最適だ。

 初めて見る植物でも危険かそうでないか分かるんだから。

 町での暮らしにだって俺の鑑定は役に立つ。

 初めて会う人間でも信用できるかそうでないか見抜けるんだから。

 俺がついていればミラベルを色んな危険から守ることが出来る。

 これは俺にしかできないことだ。

 だったらもうやるっきゃないだろう、学園退学して彼女と一緒に行くっきゃないだろう。

 だって考えてもみろ、シャーリーとミラベル、人としてどっちをサポートしたい?

 ミラベルだよな!!

 シャーリーと違って真面目だし、何かしてあげたらすごく嬉しそうにお礼を言ってくれるし。

 痩せすぎだったのが少しふっくらしてきたら、顔もものすごく可愛くなったし!

 ミラベルの方がいい、絶対にいい!!


 というわけで、俺は冒険者になった。

 サポートキャラに転生した俺、ミラベルのサポート役として生きていくと、ここに誓う。


<完>



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ