卯月の章(二)
クラス発表で自分の所属することになったクラスを知った生徒が続々とそのクラスに入っていく。
夏樹も一年六組の教室に入る。一年六組は四十名。既に半分以上の席は埋まっている。
夏樹の席はいちばん窓際の列の前から五番目の席らしい。後ろからは二番目なので教師からも目立ちにくいかも、なんて思いつつ席に着く。
「おお、君。同じクラスだったのか」
夏樹のすぐ前の席の生徒が、夏樹のほうに振り向いてそう声を掛けた。なんとさっき写真を撮ってもらった男性と一緒だった生徒らしい。
「俺、こういうもんだけど、よろしく」
制服胸元の名札のほうを指さしながら彼がそう言った。名札には「長田」と書かれている。
「あ、うん、よろしく……、ナガタ君、かな?」
夏樹はそう答えた。
「……やっぱりね、よく読み間違えられるんだよね。俺はオサダだよ。アイウエオのオから始まるオサダだよ」
「ごめん、早速読み間違えちゃって」
済まなさそうにそう言った夏樹。長田からの突っ込みが入る。
「君がオリハラなんだから、俺がナガタなはずないんだけどな」
長田は夏樹の「折原」という名字を正確に読んだのだが。長田の言ったことの意味がいまいち分からなかった夏樹は質問する。
「どういうこと?」
「うん、今は仮の席順で名字のアイウエオ順、つまり五十音順に並んでるんだよ」
「ああ、そういうことか」
「俺はカトウだ。よろしくな」
そのとき、そんな声がすぐ後ろから聞こえた。確かにアイウエオのオの次は、カキクケコのカだ。ということは、次はキ、かな。
「その次の俺はクサノでーす」
ちょうどそのとき教室に入ってきた生徒がそう答えながら夏樹たちの隣の列の最前席へと向かった。
そう、男女は五十音順でも別になっているのだ。出席番号も男子が先で、女子が後ということになっている。男子は窓際の列のいちばん前の席の出席番号一番アオキ君から始まって二十二番ワタナベ君で終わる男子の集団の次に、女子二十三番アンドウさんから始まって廊下側の列のいちばん後ろの四十番ヨシナガさんへと続く女子の集団が来るわけだ。
オリハラ君、つまり夏樹は出席番号五番だ。北村さんは出席番号二十七番、つまり女子の中では五番目なので夏樹とある意味「位置的に同じ」ともいえる。このクラスの男女比は二十二対十八と微妙に男子のほうが多い。多分、学年全体で見てもそんなものなのだろう。
長田が話し出す。
「折原のお母さんとのツーショット、うちのじいちゃんに撮ってもらってラッキーだったな」
「うん、うまく撮れてるだろうねー。腕前良さそうだったもん」
長田は語気を少し強めて言い出す。
「なにしろな、うちのじいちゃん、むかし写真館やってたんだよ。四、五年前にもう止めちゃったけどな」
長田は語気を少し元に戻し、続ける。
「最近は写真館に来る人も少なくなってるし、じいちゃんもそろそろ歳だと思ったってよ」
少し残念そうにも聞こえるようにそう言った長田。さらに続けて夏樹に質問する。
「折原は下の名前なんていうのか?」
「ナツキ。夏休みのナツに、樹木のジュの字で、夏樹だよ」
夏樹は字を説明しながら自分の名前を答えた。
「おお、いい名前だなー。やっぱり夏生まれなのか?」
「うん、誕生日八月だから」
「そっかそっか、なんかカッコいいな。俺なんてマサルだぜ。勝負に勝つのマサル」
長田の名前は「勝」の字一文字で「マサル」というらしい。それに対し、夏樹はフォローする。
「マサルもカッコいいんじゃない?」
「うーん、ちょっと時代遅れっぽくねえか? まぁ、これも戦争に行ったことのあるじいちゃんがつけてくれたんだけどな」
「あと、オサダ・マサルって響きでよくおさるだの何だの言われたし」
そう続けて言った長田。確かに、人類がお猿さんから進化してきたことをどことなく感じさせられる顔つきをしている長田ではあった……。