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三話

三人は昔話に花を咲かせた。

十六時半になり、執事がジェニファーに声をかける。

「もうそんな時間」と呟きながら、彼女は二人に残念そうな笑みを向ける。


「では、リリア。明日の昼近くまでグラハムをお借りするわね」

「ジェニファー様……」


喉を詰まらせるリリアにジェニファーが微笑みかける。


「明日の十一時。会えるのを楽しみにしているわ。いつも通り、遊びに来てくれると、嬉しいわ」


立ち上がると三人はリリアを見送る。

その背が部屋を出てから、ジェニファーは残ったグラハムと向き合った。

努めて普通を装おうと必死な彼の様子に、ジェニファーは笑うしかない。


「緊張しないでよ。いつもならリリアと一緒のところ、私と二人きりというだけよ」

「……ごめん」

「あやまるのもなし。美味しい料理を食べて、観劇する。それだけよ。さあ、一緒に行きましょう」


歩き出そうとするジェニファーの横にグラハムが立ち、肘を出した。


「エスコートします」

「ありがとう」


申し出を素直に受けたジェニファーがそっと彼の肘にてをかける。ほほ笑みかけると、少しましにグラハムも笑った。


「昔から泣き虫よね、グラハムは」

「……いつの話をしているんですか」

「私とリリアの方が背が高かったころ」

「それって、出会って間もない時期でしょ」

「そうね。あんまり勉強嫌いで逃げ出してばかりいる私に、出来る子を探してきたのよね」

「ええ。公爵家の聖女候補に仕えると思って初対面の時は、とても緊張しましたよ」

「まさか、と、思ったでしょ」

「ええ、思いましたね」

「初日から、かえるやへびを仕込まれて泣かされることになるとはおもいませんでした」

「それはそれはグラハムは見事に引っかかってくれたわ。かいがあったというものよ」

「まさか公爵家の神聖なお嬢様がかえるやへびや、くもやねずみを自ら仕込んで驚かせようとするなんて思わないですよ」

「ふふっ。片やリリアはすごかったわね」

「ええ、すごかったです」

「私が用意したかえるやへびを窓の外にポイポイ捨てていくんですもの。あれは私の方が青ざめたわ」

「その後も見事でしたよね」

「ええ、隠れていた私をつまみ上げて、引きずり出して、机に向き合わせて、先生に、『さあ勉強しましょう』とにべもなく言うのよ」

「強かったですよね」

「お父様はなんという子を選んできたのと思ったものよ」


憮然とするジェニファーに、グラハムはふふっと笑う。


「笑ったわね」

「いや……」

「いいのよ。それで。グラハムは良い仲裁役よね。調整役?かしら。個性の強い私に平然とぶつかってくるリリアと調整役のグラハム。本当にバランスがとれていたわ。リリアぐらいじゃないと、私相手じゃ、きっと誰もが逃げ出していたはずよ」

「そうですね。普通のご令嬢なら、かえるを見ただけで卒倒しそうです」

「腰を抜かしたグラハムが標準よね。リリアを驚かせることは、難しくて、一度もうまくいった気がしないわ」

「ジェニファー様、もういいでしょ。昔の恥ずかしい話なんですから」

「あの時は、男の子を泣かす喜びを覚えそうだったわ」


からかうようにジェニファーが笑うと、グラハムがいっそう恥ずかしがる。


他愛無い会話をしながら馬車に乗りこんだ二人は、高級料理店へ向かった。馬車のなかでも、個室に通された料理店でも、終始懐かしい話や呪われる前の近況を話し続けた。


幼馴染、友達、そんな延長線上にある、幼い恋人ごっこは、周囲が見ているだけで微笑みたくなるような雰囲気を醸していた。


観劇も終え、帰宅する。

ジェニファーは家族と日付が変わるまで語り合い、眠りについた。


翌朝。


迎えに来たグラハムとお出かけ用の馬車に乗りこんだジェニファーは街中で降ろしてもらった。


二人は、ただぶらりと散歩し、色々な店を覗く。食べ歩きもして、衝動買いもした。

公爵家を代表する聖女にとって許されない行為をジェニファーは満喫する。


「楽しいわ。こんな喜びがあるのなら、忍んで遊んでいれば良かった。リリアなら相談していたら、良い案出してくれだったのに」

「確かに」

「今日は無礼講よね」

「……、そうですね」

「なら、教えてよ。いつからリリアのことが好きだったの?」

「えっ、それ、今聞きます!」

「今だからこそ、聞くのよ」

「それは……」


もじもじするグラハム。

昔の面影を見出し、ジェニファーは目を細める。


「これからカフェに入るんですからね。そしたら、みっちり聞き出してやるわよ」

「ええ!!」

「今話さないと、カフェにいる間、ずーっと根掘り葉掘り聞くわよ」

「そんなあ」

「だから、白状なさい」


びしっとジェニファーが決めると、グラハムが視線を逸らし、首に手を当てて、言いにくそうにつぶやいた。


「初めて会った時からですよ。へびとかえるから助けてもらった時……」


この答えにはジェニファーの方が目を丸くする。


「そんなに早かったの。気づかなかったわ」

「……、助けてもらった姿があまりにかっこよくて」

「かっこいいって……」

「内緒ですよ。言わないでくださいよ。一生言わないつもりなんですから!」

「分かったわ。大丈夫、死人に口なしですもの。衝撃的なのは、私が二人のキューピッドだったってことだもの!」




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