一話
「私、呪われてしまいましてね。明日、死ぬことになりました」
公爵家の息女ジェニファー・フェルプスの発言に、急に呼びつけられたグラハム・ウィルソンとリリア・ハルスウェルは目を剥いた。
二人の顔色の変化を見届けるジェニファーはいたって落ち着いている。
「二日前に、神殿の宝物殿に行く機会がありましてね。その中に、魔法のランプがありましたの。ほら、私、聖女と呼ばれるほど神力がありましたでしょう。その力が悪い方に働きましてね。愚かにも、誘われてしまいましたの」
神殿の宝物殿という単語を耳にした途端、神妙な顔となった二人を、順番にジェニファーは見た。
「その際に、ランプに宿っていました魔の眷属の残留思念に包まれまして、呪われてしまったのです」
神殿。宝物殿。魔の眷属の残留思念。
三つの単語が頭に刻まれたグラハムとリリアは視線を交差させる。
国と神殿は繋がっている。
かつて人々は、魔の眷属との闘っており、その聖戦は、神の声を降ろす聖女の導きによって終結した。
人々を救った実績から現在も聖女の声は神の声として価値を保ち続け、今も聖女がもたらす神の声を中心に政は行われている。
聖戦を治めた初代聖女と王が婚姻を結んだことで、歴代の聖女は、王家の血筋から現れる。
次代の聖女候補は三人おり、そのうち一人がジェニファーであった。彼女は定期的に宝物殿に赴き、古の聖戦が残した負の聖遺物の浄化を行っているのは誰もが知っている。
だから、グラハム・ウィルソンとリリア・ハルスウェルは、すぐさま魔法のランプが負の聖遺物であり、ジェニファーが呪いを受けたことも間違いないと確信を得れたのだった。
「ジェニファー様。その呪いは解けないのですか」
慎重に問うリリア。
紅茶を一口含んだジェニファーが落ち着いた口調で答える。
「ええ、無理ね。正確には時間が無さ過ぎて、手が出せない、よ」
「時間が無さ過ぎて、とは」
次は、グラハムが恐る恐る問う。
「呪いの期限が短すぎるの。呪いを受けたのが昨日の十六時。発覚したのが、十七時。
今回の聖遺物は力が強かったので、私一人で対応させてもらっていて、宝物殿に入った私が一時間半後に出てこなければ、神官に迎えに来てもらうようにしていたの。
負の聖遺物の浄化は成功したのだけど、代わりに、三日後に死ぬ呪いを受けてしまったのよね。聖遺物に残っていた残留思念にしてやられたわ」
話を一区切りし、ジェニファーが紅茶を一口飲む。それを見た同席者二人も紅茶に口をつけた。
「十七時に発見され、呪いを受けたと分かってからが大変だったわ。二人の聖女を召喚し、神官たちも過去の文献をひっくり返しての、ありったけの儀式を行い、思いつくだけの解呪を試みたわったわ。
でも、現行で分かっている呪いを解く技法はすべて効果が無かった」
「そんな……」
リリアとグラハムは絶句する。
「これ以上は埒が明かない。残り少ない人生よ、好きにさせてと神殿を飛び出したわ。神殿で閉じこもっていたって、新たな技法が見つかる保証もないもの」
視線を落とすジェニファーは淡々と話しを続ける。
聞いているリリアとグラハムの方が、目も当てられない悲し気な表情となっていた。
「一晩あらゆる呪いを解くために頑張ったけど、残された人生を好きに生きたいとも思ったの。このまま、死ぬであっては後悔が残るわ。一つでも、二つでもいいの。私は後悔の種を減らしたい。
それでね、今日の午前中に交渉して二十四時間の時間を手に入れた。それが今日の十二時。すぐに、あなたたち二人に連絡を入れ、ここに来てもらうように手配して、私も戻ってきた」
「今は十四時だから、明日の十四時まで自由に過ごせるのですか」
グラハムの問いに、ジェニファーは首を横に振った。
「自由になるのは明日の十二時までよ」
俯いていたジェニファーが顔をあげ、二人に笑いかける。
「だから、本当にこれが最後のお願いになるかもしれない。ううん、きっと最期のお願いになるわ。
二人に、私のお願いを聞いてほしいの」
グラハムとリリアは「なんでもします!」と声を揃えて宣言した。
「ありがとう。やっぱり二人は私の最高の友達ね」
ヒロイン(公爵家):ジェニファー・フェルプス
幼馴染(伯爵家):グラハム・ウィルソン
幼馴染(伯爵家):リリア・ハルスウェル
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全4話、本日12時最終話予約投稿済みです。
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