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雪の妖精

作者: 葉月



これは、私が子供の頃の話。



子供の頃は身体が弱く、季節の変わり目にはよく風邪を引いたり、熱を出したりしていた。あの日もそんな時期の出来事だった。



まだ小学校低学年くらいの頃。季節は秋から冬に変わり、今にも雪が降りそうな曇り空だったのを覚えている。

その日は、前日に熱を出してしまい学校を休む事になった。両親は仕事に行ってしまったので、家にいるのは私とおばあちゃんだけだった。


私は自分の部屋で、熱にうなされながら中々寝付けずにいた。トイレに行きたくなり、重くてダルい身体をベッドから起こし部屋を出る。

私の住んでる家は、ちょっと古くて大きい家だ。私の部屋からトイレに行くには階段を下りて、長い廊下を歩いていかなければならなかった。でも、廊下は庭に面しており、大きい窓があり四季折々の風景を楽しめるので私のお気に入りだったので苦では無かった。


トイレからの帰り、何気無く庭を見ると庭の隅っこで何やら草木が動いているのが見えた。最初は野良猫かなと思い気にせず、そのまま部屋に戻りお昼まで寝ていた。



お昼ご飯を食べ、その後部屋に戻る前にさっきの動いていた場所が気になる私は、廊下から庭を見つめる。窓に近付いてよく観察するが、先程のように動く気配は無い。気のせいかと思うが、どうしても気になる。しばらく廊下でしゃがんで庭を見ていると、見かねたおばあちゃんがカーディガンを持ってやって来た。

あかり、熱あるんだから部屋で寝ていないと…」

「……はーい」

渋々、おばあちゃんからカーディガンを受け取って羽織り部屋へ向かう。が、その時庭の木が揺れた気がした。


「あっ」

私の上げた声に、隣にいたおばあちゃんが不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの??」

「……今、木が揺れたの」

揺れた木を指差して言うが、おばあちゃんには分からなかったみたいだ。熱でうなされているから変な物でも見えたのかと思ったのか、私の背中を押しながら部屋へ急がせる。

「ほら、熱が下がってないのよ。部屋で暖かくしていなさい」

「でも……」

私は名残惜しく庭を気にするが、階段を上るまで目を離さない気のおばあちゃんに根負けして大人しく部屋に戻った。



ベッドに潜り込むが、庭が気になって中々寝付けずに何度も寝返りを打つ。熱で身体がダルいはずなのに全く眠れそうにない。どうにかして庭を見たいと思っていると玄関のチャイムが鳴った。部屋のドアをそっと開けると、おばあちゃんが対応している声が聞こえる。静かに部屋を出て階段を下りてみると、どうやらおばあちゃんの友達が来たみたいで、玄関で話している声が聞こえて来た。これはチャンスだと思い、廊下の窓から庭を見る。



すると、先程は揺れていた木が今は揺れていない。だが、植込みの背丈が低い木は左右に揺れている。もっと近くで見ようと思い、窓をそっと開けて庭に置いてあるサンダルを履く。なるべく音を立てないように植込みに近付いた。


隠れられるか分からないが、大きい庭石に身を隠して植込みを観察する。すると、何やら白くて小さいものがいた。猫かなと思うが違った。小さい人だった。

大きさは15cmくらいだろうか。白いとんがり帽子を被り、上下セットの白いモコモコした服を着ている。絵本とかに出て来そうな可愛い小人だった。




1人かなと思い周りを見渡すと、少し離れた場所から沢山の小人達が出て来る。皆同じ格好をして植込み下に集まり、何をするのかと思えば先程揺れた木に向かってトコトコ歩いていく。あっという間に小人の大行列が出来上がった。


木の方を見ると木の上に小人が数人待っていた。歩いている小人達に合図をするように手を振る。皆、その小人を目指して木に登り始める。もっとよく見ようと近付いた時、葉っぱが当たり音を出してしまった。その音に小人達は一斉に私を見る。逃げてしまうかと思いきや、小人達ひそひそと話始める。すると私の元に1人近寄って来て話し掛ける。



「こんにちは」

喋れると思っていなかったので、私は驚いて固まってしまう。私が返事をしなかったので不思議そうに首を傾げるが、もう1人近寄って来る。

「驚かせてごめんなさい」

「……ううん。あなた達は誰なの??ここで何してるの??」

私の質問に小人はニコッと笑って答える。

「僕達はフェー・ネーヴェ。『雪の妖精』だよ」

「フェー……??妖精さんなの??」

「そうだよ。今はね、雪を降らせる準備をしに行くんだよ。他の人には内緒だよ」

口に人差し指を持ってきて「しーっ」って言うので、私はコクコクッと頷く。


「雪を降らせるってどうやるの??」

庭の木に登っているだけで、それで雪が降るとは思えない。木に登り続ける小人を改め、妖精達を見ながら質問すると、妖精は手招きして「ついてきて」と言った。彼等についていくと、大行列の半分は既に木に登っており、まだ登っていない子達を待っていた。

「この木がここで1番高いんだよ」

高いのは分かる。辺りを見回しても、この庭で1番高いのはこの木だ。でも、それと雪に何の関係があるのか分からなかった。



「それが…どうしたの??」

目線を合わせるように、しゃがんで訊くと妖精は少し悲しそうな顔をしながら言う。

「僕達は体が小さいんだ。だから、自力では空まで行けない。空まで行って、雪を降らすためにこの木に登るんだ」

「……でも、木に登ってもお空には届かないよ」

木を見上げながら、空の高さを確認するが、到底届きそうにない。

「うん。でもね、高い所に登れば風に乗りやすくなる。風に乗って空に行くんだ」


あんなに沢山の妖精が空を飛んでいたら、すぐ気付きそうなのに今まで全く気付かなかった。どうして、今だけ気付いたんだろう。

「………いつも、ここからお空に行ってるの??」

妖精はフルフルと首を振り、悲しそに言う。

「違うんだ。何時もはもっと寒い場所から行くんだ。そのため、皆で移動してたんだけど、今年は早く雪を降らせなきゃいけなくて……」

たまたま、この地を選んだらしい。私には分からない事情が妖精達にもあるのだろう。私は「そっか」とだけ伝えて、木に登る妖精達を眺める。



そして、私を案内してくれた子達も登る順番になった。別れるのは寂しいなと思っていると、私の気持ちが通じたのか妖精はニコッと微笑む。

「寂しくないよ。私達は雪を降らせたらずっと冬の間はいるから」

「……何処にいるの??」

妖精は両手を大きく広げると「世界中!!」と言った。

「世界のあちこちにいるから、あなたが忘れないでいてくれたらまた会えるよ」

その言葉に私は安心した。妖精に向かって微笑み返す。

「うん、忘れないよ」

「今日の事は皆に内緒だよ。じゃないと、ビックリさせちゃうから」

そう言うと、妖精は手を振って走って行く。そして、小さい身体で大きな木を登り始める。


あっという間に木を登り終えると、全員揃ったのを確認し最初の1人が木のてっぺんから空へジャンプした。すると、風が横から吹き始め、妖精が背中から羽のようなものを出し風に合わせて飛んで行く。それに続くように次々妖精達が空へ向かって飛んで行く。私はその姿を、最後の1人まで見届けた。





「………!!………り!!……灯ちゃん!!」

私を呼ぶ声にゆっくりと目を開ける。視界に入って来たのは何時も廊下から見ている庭だった。どうやら私は庭の真ん中に倒れ込んでいたようだ。おばあちゃんに呼ばれて、慌てて起き上がる。

「………あれ??」

さっきまで木の下にいたのに、ここまで移動した記憶が無い。そんなに近くないのにいつの間に移動したのだろう。


「大丈夫かい??おやつだよって呼びに行ったらこんな所で倒れて……。熱は??」

私の身体中を触り、何処にも怪我が無い事を確認したおばあちゃんは、今度は額に手を当て熱を測る。まだ少しあるのか、おばあちゃんの手がひんやり冷たくて気持ち良かった。

「まだ熱があるじゃない。何してたんだい??」

私を立ち上がらせ、支えるように手を背中に回して歩きながら訊く。

「………これから雪が降るんだって」

私の言葉におばあちゃんは空を見上げながら不思議そうに言う。

「予報では今日は降らないよ。……夢でも見ていたんだね。さぁ、暖かいお部屋に行きましょう」


おばあちゃんの言う通り空を見上げると、雪が降りそうな空では無かった。相変わらずの曇り空でどちらかと言うと雨が降りそうな色だった。

「………夢だったのかな」

ボソッと呟いた言葉はおばあちゃんの耳には届かなかった。中に入り熱を測ると37.9あったのですぐ部屋に戻された。

夜に、両親が帰って来た時に雪が降ったか確認したが、残念ながら降っていなかった。



やっぱり、熱にうなされて見た夢なのだろうかとがっかりした。



次の日の朝。なんと雪が積もっていた。

どうやら一晩中降っていたようで、庭は真っ白な雪に覆われていた。「夢じゃなかった!!」と大はしゃぎする私を両親は不思議そうに見ていた。

熱も下がったので、学校に行く準備をして何時もより早めに家を出た。学校に行く途中、もしかしたら妖精達に会えないかと期待していた。すると、ある家の塀の穴から昨日見た妖精が出入りしているのが見えた。


「あっ」

思わず声を出すと、私の声が聴こえたのだろう。此方を見て、とても驚いていた。その妖精は私を案内してくれた子では無かった。恐らく仲間だろうが、あの時は既に木に登っていたのかもしれない。近付いて話そうと思ったが、妖精は慌てて逃げてしまった。

「………夢じゃなかったんだ」

妖精が逃げた方向を見ながら、私は嬉しくなり思わずガッツポーズをしてしまった。





それから、雪が降る季節になると妖精達を探すが全く見付ける事が出来なかった。

成長するにつれ、熱を出す事も無くなったので、寒い時期にも関わらず外に出る度に探すが見付からない。毎年がっかりしながら舞い散る雪を眺めている。




あの頃住んでいた家も無くなり、昨年から社会人になって一人暮らしを始めた。大人になった今でも、雪が降る季節になるとつい妖精を探してしまうが見付けられない。子供にしか見えない類の妖精なのか、それとも探すのを止めたらひょっこり現れるのだろうか。



小さい頃の記憶なんて、どんどん薄れていくものだ。探すのを止めたらそれこそ妖精達を忘れてしまいそうだ。それはそれで寂しい。



やはり、今年も探そう。



そう心に決め、早く雪が降る季節にならないかと空を見上げる。



私は、また妖精達に会うのを今でも夢見ている。





初、軽めのファンタジーです。


暖かい目で読んで頂ければ幸いです……m(_ _)m

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