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あっぱれ柴犬

 今日こそはっ!


 おいらは、尻尾をきりっと立たせ、散歩にのぞんだ。

 いやー、なんか、

 散歩でこんな緊張したの初めて。


 でもんなこと言ってる場合じゃない。


 今日こそは絶対、ご主人をあの公園に連れて行くんだ。

 絶対!


 っておもった日の出来事だった。それが起きたのは。






 もうじき散歩の時間。俺はワフワフと待ち構えていた。

 ご主人がリード持ってやってくる。

 

 ワフ!

 さあ行こう……え?


 ごすずん、あの、それは……


 自転車……。







 自転車で散歩。

 ワフウウウ(泣)


 こ、これじゃ立ちどまるのもっっっっ。

 無理に引っ張ったらおいら冗談抜きでタヒぬかも。

 てかご主人、速くない?

 

 で、余計にまた心配になってくる……。毎日なんか、おいらが吠えても何やっても、なんも返してくれなくなって(泣)

 で、今日自転車で走ってるおいら。


 ごすずん、おいらの顔、見ようともしない。歩いてる時は時々見てくれたのに。


 てーかもうじきおトイレポイントだワフワフって喜んでる場合か俺!


 そこできっちり立ちどまるご主人。

 早くしろよとなんかスマホって板見ながら言ってる……(泣)

 

 ワフウウウウ!

 用を足しながらおいらは思った。どうしよう。

 どうしたらいい。


 ご主人、ずっとなんかそのスマホとやらをいじってる……。

 こうなったらとことん粘る(何を?)

 おい、まだかよとご主人。

 

 粘りつつおいら、公園への道を伺うっ。

 遠い……。

 ワフワフワフワフワフ、どうしたらいいんだようっっ。




 と、その時だった。なんか、懐かしい匂いがおいらの鼻に漂ってきたんだ。

 ワフ? この匂いは……。

 何回も抱っこしてもらったから覚えてる。近くにいる?

 と思ったらいた!

 彼女さんだ。公園のある方向から歩いて来るの、見える!


 おいら、走ったよ。

 ご主人が、うわ、どこ行くんだと慌てて追っかけてる。ワフワフワフワフワフ! 彼女さん!

 ワッフウ!

 追いかけるおいら。すると……

 キキーッと車が止まった。え?何何何?

 と思ってたら、おいら、いつの間にか彼女さんに抱きかかえられてた。


「あぶねえぞ!引き殺されてえのかワン公!」

 

 彼女さん、車から顏のぞかせてたおっさんにひたすらペコペコ。すみません、スミマセンって。


 そこでおいら気づいた。あ、この信号ってやつが赤の時は渡っちゃいけなかったんだ……。


 周りに人がワイワイ。大丈夫?って。無事でヨカッタネって。

 なんかお騒がせしたようで犬的に申し訳ない……。


「ワンちゃん、けがはない?」

 彼女さんが優しく言ってくれる……ああこの人天使。びっくりしたね、でも無事でよかったねって。

「久しぶりだね、貴方のご主人はどこ?」

 撫でモフ撫でモフ、あー、彼女さんのおてて柔らかい~。

 とそこにご主人の声が……。

「あの……スミマセン……助けていただいてありがとうございます」

 これはあとから聞いたんだけど、彼女さん、車びゅんびょゅん通ってたのに、おいら助けるために飛び出したんだって。

 彼女さんもひかれてたかもしれないんだぞって、スゲー剣幕で怒られたよ。


 あ、でも今はこの状況説明しなきゃな。

 

 彼女さんに抱っこされてウットリしてたおいら。ひょいとご主人に首根っこ掴まれた。

 

 ワフ?!


「この……」

 ぶうん、とご主人の腕が……ぶたれる!


 おいら覚悟したよ。目をきゅううん、とつぶって、耳伏せて。

 ご主人のこぶし痛いんだよっっ。


 でもワフ?あれ?

 何時までたっても痛くない……と思ったら、彼女さんがおいらの上に覆いかぶさってた。


「やめてください!」

 

 ご主人のこぶし、彼女さんに当たっちゃった。ご主人、なんかスゲー、その時泣きそうな顔してた。


 ゴメン、ごめんよご主人。おいら、スゲー、余計なことしちゃったんだね。




 ごめんよ、ご主人。












 取ってこーいと放り投げられるのはどんぐり……

 そんな小さいのどうやって見つける?! と言うか公園どんぐりだらけ。


 ワフワフワフと走って行っても、



 一体どれなのかワカラン!



 ま、まあ適当にくわえて戻りゃいいか……と言うか時間稼ぎだ。

 おいらも雌犬に告白する時は時間を稼ぐ(そうなのか)



 とはいえ、今は互いになんか黙り込んでる。

 気まずい……

 ここは一発芸でもと思うが、お手しか出来ない。ワウウウ、こうゆう時のために普段からっっっ

 普段からぁぁぁぁ(おい)



 あの後、なんかよくわかんない流れなんだけど、

 二人して公園に向かったんだ。

 と言うか、彼女さんが誘った。

 話したいことがあるからって。

 するとご主人も言った。俺もって。



 で、ずーっと沈黙タイムが続いてる。



 そこにおいらがどんぐりくわえて戻る……これがなかなか難しい……

 うっかり飲んだらエライことになる。


 また取って来-いと投げられ、おいらは後ろふりふり振り返りつつ走った。

 


 まだ何も言わないのかなワフ。

 後ろちらちらちらちらしつつおいら、適当になにかくわえて戻ろうとした……すると。

「いってえなこの犬ッころ野郎。なにすんだよ」

 ワフ?と思ったおいらの口元。なんか長ーい奴が……。

 間違ってヘビ銜えちゃった。

 なんてお茶目になってる場合じゃない!


 まてーって追いかけてくるワワワワワン(泣)

 すみません、うっかりしてたんです、許してと言ってんのに!

 ご主人助けて―と言ってもアカンー!


 ワフ? あれ?足元が消えた。

 じゃない。

 ワフワフワフワフワフ、おいら必死で両脚動かした。何で足元がない……と思ったらそこ池だった。


 のわあああああ!

 ワフ、ワフ、お、おいら泳げないんだよぉ、ワフワフワフワフ

「お、お前まさか犬の癖に?」ヘビ君が青くなってる。

 そーなんだよ助けてーっっ。と言ったらヘビやろうどっかに行ってもうたオイ!

 わふふ、毛皮が水吸って重たく……(ならないから)ああ……意識が遠のく……ご主人……。

 そんなおいらの耳にご主人の声が。

「ったく何やってんだよお前泳げない癖に!」

 そんな泳げない泳げない連呼しないでくれます(いやしてないけど)? おいら一緒に走ってきた彼女さんをチラッと見た。

「大丈夫ですか?!」

 心配そうにおいらを見る彼女さん。ホッ。笑ってない……。

 でももう、帰らないとってご主人が言ったんだ。こいつを風呂に入れてやらないと行けないんでって。

「すみません、じゃ、俺行きます」

 ご主人、彼女さんに背を向けた。ご主人!

 おいら別に風邪引いてもいいから、話しして行こうよ!

 かぷ、と上着に噛みついたら、何すんだとぼかっと殴られたイタタタタタ。


 その時だったんだ。


「あの……」

 彼女さんが、辛そうに口を開いたんだ。

 ご主人の足が止まる。すごい。おいらが噛みついても止まらんかったのに。

 でもご主人は振り返らなかった。でも止まってる。

 彼女さん!

「あの、どうして、来なくなったんですか?」

 ダヨネ、どうして?

 おいらはご主人を見上げた。

 ご主人、何も言わない。でも口元見たら辛そう。

 彼女さんもなんか辛そう。

 つらつらでダブル。何言ってんだおいら。

「あの」

「すみません、俺、もう行きます」

「待ってください!」

 彼女さんが声を張り上げた。おいらびっくりした。ご主人もびっくりしてた。

 さっきおいらをかばってくれた時と同じ、凄く大きな声。

 でもなんか辛そうな声。彼女さんの喉が何回も何回も動いて。

 そんな彼女さんをご主人、見つめて。

 そんな中で彼女さん、今にも泣きそうな声で……話し始めたんだ。

「もしかして、私の噂を聞いたからですか?」

「え?」

「だからですか?」

 彼女さんが言うには、何でもその、過去に……いろいろと悪さしてしまって。

 その手の処にお世話になってたんだそうだ。

 で、最近になって戻ってきたんだって。

 おいら犬だから、詳しいことは分かんないけど、そうなってしまうと人間、やり直すの大変みたい。

 でも、と彼女さんは言う。私が悪かったんだからってね。


「最初にお会いしたときに、ちゃんと話してなくてスミマセン」

 べこっと頭下げた彼女さんの声、震えていた。


 彼女さんの話はまだ続いた。

 もう、この街、出ていくって。

 みんな優しいけど、でも、やっぱ自分はここにいるべきじゃないって。

 

「本当に、スミマセンでした。こんなお話しを聞かせてしまって」


 失礼します、と彼女さん、もう一回頭下げてっっ。


 走り去っていった……。


 

 


 彼女さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!


 ふぇぇぇぇぇっくしょぉぉぉぉぉぉい!








 

 



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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女さん、とても素敵です~(*´∀`)♪ 好い~(*^^*) ケンタ素敵♪ 続き気になります!(^ω^) [一言] ご主人! 今こそ根性を見せるのです(^ω^) そして今度こそ、 ケン…
[良い点]  ケンタ、ご主人想いだなあ。  しかし、必死とはいえアブナイよ~っ!  彼女さん、身を挺して。  優しい、そして強い。  ごすずんーーっ!?  そりゃ、人生いろいろですよね。  彼女さん…
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