めっちゃ柴犬
くんくん。ん？ 今日は……この匂いは……ご主人の好きなお肉だ。
もちろんおいらも大好きさ。
ご主人が落ち着いてから、ママさんも穏やかになった。
ご主人がこもってた時はほんと、げっそりやつれててさ。パパさんも出かける時いつもおいらを撫でてくれていたのに、フラフラしながら出かけてた。
でも今は違う。ワフッ。
パパさん、なんか振り切ったとゆーか、すっきりした感じで。
いつも俺のこと、もふもふもふもふもふもふなでなでなでなでして出かける。
フサフサのおいらの毛がなんか爆発した後みたいにぽっさぼさになるまで。
え？そんな見てくれじゃ雌犬にもてないよって？
いいんだよ。そんなこと。
「今日はケンタにもご褒美あげるね」
おいらに一足早い晩御飯。やったね。おっ、肉だ！ それも骨付き！
ママさん、いつもあの子をありがとうって言って、おいらの前にご飯を置いて行った。
ウマソー。一気に食うの勿体ない……しばらく眺めていようと思ったけど。
前にそれやって、猫にとられたことがあるからあわてて食う。
骨のところ、バリバリかみ砕く。くーっっっ、旨い！
そこにご主人が帰宅。ただいまと俺をなでもふ。
お帰りと尻尾でご挨拶。
「今日、先生に進路のことで聞かれたよ」
晩飯時。ご主人の声が聞こえてくる。
「あらそうなの。で、あなたはどうしたいの？」とママさん。
するとちょっと時間をおいて、ご主人の声がした。
「就職しようかと思ってんだ」
就職……ううむ、人間の言葉はムズイ。
「なんだ、進学しないのか？」とパパさん。
うん、とご主人、なんか小さく返事。
ご主人の様子がなんか沈んてる？ あれ？
「あなた、この子が決めるんだから。ね？」
ママさんの声。パパさんがなんか唸ってる。ううむ。
あ、そうだ、説明忘れとったが、今、ご主人が通ってるところ、つうしんせいとか言うガッコなのだそうだ。
ワフワフ。人の言葉ムズイよ。がっこの種類もワカンネ。
まあそれはいいんだけど、ひとつ気がかりがあってさおいら。
その事を、ご主人、彼女さんに言わないんだ。
まあ、俺の気にしすぎかもしれないけど。
季節はまた、ご主人がこもっちゃった時期に近づく。鼻が冷たくなってくる。寒いワンっ
最近、彼女さんとの会話が途切れがちなの、気になるなぁ。
「取ってこーい」
と言われて走り出すおいら。気になって後ろちらちら。
ご主人と彼女さん、なんか互いに俯いて座ってる。わふう……。
はよとって戻らんと。何か心配。
ワフワフ、ワフワフ、ボールは……。
え？
池の……中に……。
この寒空の下で泳げと！
ウウ、自慢じゃないがおいら泳げない（犬なのに？！）
なんてウロウロしていたら、ボールがどんどん沈む……ワフワフワフワフワフ、どうしようって、
池の前でウロウロしていたら、なんとご主人がやってきた。
「ケンタ、もういいよ」
ワフ？ それどういう意味？
そう言えば彼女さんは？
ワフ、ワフとご主人の周りをワフワフしたけど彼女さんがいない。
どういうことだワン？
公園にもいない……。
「帰ろう」
ご主人が、そんなおいらの首にリードつけた。
「あら、ケンタどうしたの？」
ご飯残してる俺に、ママさんが心配して聞いて来た。
ワフワフ。ご主人が心配でさ。と犬語で伝えると、
「お腹の具合でも悪いの？」と聞いて来た。
ちがわいっ！
ま、まあ、普段からがっついてばっかだから？
ママさんからそう思われるんだ俺。でもさ。
はばかりながらおいら柴犬でぇっ。ご主人様に人一倍忠誠心があるんだぞ！
最近ほんとずーっと元気なくて。
そんなご主人見てたらそりゃ飯食う気も失せるよ。
てかママさん気づいてない？
気付いてないか……
そのう、前のガッコ辞めた時も、ママさんパパさん、ご主人のこと何も気づいてなかったみたいだから。
でもおいら、分かるんだ。
ご主人、パパさんとママさんが大好きだからさ。
きっと心配かけたくないって。
でもさ、ご主人、でも……。
なんて犬小屋のところでワフワフしていたら、ご主人が二階から降りてきた。リード持って。
あ、散歩だ……。
いつもはウキウキするんだけど……。
行ってくるって言って、ご主人、俺と歩き出した。
フンフンフンフン、って感じで歩いてたんだけど……
あれ？
いつもとコースが違う？
ご主人、このままだと公園と方向違いますよ！
ワフワフワンワンっ。
ご主人、なんか四角い板みたいなの見ながら、おいらを引っ張った。こっちだって。
ちょ、おいらを見てよ。ご主人！
どうなってんだよぉぉぉぉぉぉぉ！
わふう……なんか前と同じになってきたような。
心配だ。
結局公園には行かなかった。行かなかったんだ……。
