きっと柴犬
わふう……。
俺は犬小屋の中で一匹、物思いにふけってた。
家の中では、ご主人がなんかバタバタやってる。確か今日、登校日だ。そのはずだ。
ちな、ご主人はすげー、良いところに入ったそうなんだ。
何で知ってるかって?
パパさんとママさんが、俺に自慢してきたから。
ケンタ聞いて、あの子頑張ったのよって。
人間のことはおいらはよくわかんないけど、二人がエライ喜んでいたからさ。
きっとご主人にイイことが起きたんだって。
そん時はおいらもそう思ってた。
でも、半年くらいたったころだった。
犬の癖に何で時間が分かるのかって?
まー、だいたいだよ。庭にある美味しそーな柿が真っ赤になってきたなーとか、カエルがウロウロしだしたなーとか、
それは丁度、その、柿が真っ赤になったころだった。
ご主人が、俺を散歩に連れて行ってくれなくなったんだ。
代わりにママさんが連れて行ってくれたんだけどさ。
わふ?って、犬語で聞いたら、
なんかママさんに通じてしまってさ。
あの子、不登校になっちゃったのよって。
それは寒い季節の入り口だった。
で、学校に行かなくなってさ。
辞めちまったんだ。何でわかるのかって、ママさんパパさんが泣いてたから。
ご主人は泣いてなかった。なんかすんげー暗い顔して、庭さきに一人でたたずんでた。
家に入らないのかな?と思ってたらさ。
いきなり飛び出して行ったんだ。
俺、びっくりしてさ。
あと追いかけたよ。あ、鎖つないでたんだけど、そんなの構っていられない。
ふんぬーって引っ張った!
わん、わわわわわん、わんっっ!てほえた。するとママさんが飛んできた。どうしたのって。
すると偶然ってアルンダナ。
つないでた鎖、ママさんがひっかけちゃってさ。外れたんだ。
俺は走ったね。ご主人探して。
ご主人ーっ! ワフワフワフワフワフワフワフッ! ワワワワワワワワン!
後ろからママさんが追いかけてくる。
どこにもいない、ご主人、どこだ?どこだ?
俺、鼻ひくひくさせてさ
ほんと心配してさ
探したよ。
そしたら……。
まあ、詳しい状況は言わないでおくよ。
でも危ないところだったんだ。
俺、ご主人の服に噛みついてさ。
引き戻したんだ。
ほっとけよってご主人泣いてた。ほっとけるか!
俺、ぼこぼこに殴られたよ。でも、でも。
ウオワワワン! ワン! ワンッ!
俺吠えた。吠えて吠えて吠えまくった。
それから……
ご主人、しばらく引きこもってたんだけど、
俺が何回も、庭からわんわん吠えて。
そのたびに、うるせーってモノ投げられたんだけど。
思い返すとあの頃、俺、なんか寝られなかったな。
夜中もさ、心配でずっと、ご主人の部屋見上げてた。
だってパパさんママさんが心配してんの知ってたから。
そんな俺の様子、見てたのか、見てなかったのかは知らないけど、
ご主人、部屋から出て来てくれるようになったんだ。
まずは毎日、おいらの散歩から慣れていきましょうって。家に来たなんかえらい人がそう言ってくれてさ。
で、今に至るというわけ。
「行ってくるなー」
俺の頭モフモフしていくご主人。いってらっさいと尻尾で送り出す俺。
かえって来たら、また散歩に行こう。ご主人。