おいら柴犬
おいら、柴犬。
名前? 知りたいの?
ケンタだよ。
ケ○タッキーなんて言うなよ。しょっちゅう言われてうんざりしてんだから。
毎日毎日ご主人と一緒に散歩。
俺のご主人はまだコーコーセイ。青春真っ只中ってやつ。いいねえ。
尻尾フリフリ歩いてると、向こう側から綺麗な女性が。
ご主人の心拍数上がる。無駄に耳がいいから……俺。
ワフっ、と小さく吠えると、ご主人はこら、静かに、と俺を撫でた。
「こんにちは」
向こうから話しかけてきた。
「こ、こにんちは」
ご主人、日本語間違ってますよ。
因みにこれ、いつもの合図と言うかはじまり。
二人の馴れ初めは、俺たちが初めてこの散歩コースに来た時のこと。
あ、説明忘れとったが、ここ、公園ね。
前は寄らなかったんだよ。何でって、俺が帰りたがらないから。
だあってよお、広い場所で思い切り走り回れるんだぞ。もちろんご主人を引きずり回してだが。
で、その日は、最近ちょっと太り気味だからってんで、ダイエットもかねて来てたんだ。
ちなみに俺の名誉のために言っておくが
太ってるのは俺じゃないワンッ。
そんな時だ。彼女とご主人は出会った。
ひと目逢ったその日からってやつだ。
ご主人の眼はもうハート型になっとった。
それからだ。
ここが散歩コースになった。
嬉しいことにドッグランも出来て、最近はご主人からとってこいしてもらうのが楽しみになってる。
最初はとってくることが分からないでさ。
ずっとそこでボールでワフワフ遊んでたら、
戻ってくるんだよバカと怒鳴られた。
「とってこーい!」
ぶうん、とボールが飛んでいく。
それを追いかける俺。
わふわふ、わふわふ。探しやすいところに投げてくれるといいのに、ご主人、壊滅的にコントロールが悪いもんだから、
たまにスズメバチの巣の真下なんかにボールなげたりする。
ある意味コントロールの天才だと思う
わふっ。
困った。
はよ咥えて戻らんと。
向こうからさ、
あにしてるだ、はよ咥えて戻ってこい!と声が。
分かってますよ、でも……。
数分後、尻尾をぶっ刺された俺がボールを咥えて戻ると、
ご主人、待ってましたとばかりにまたボールを放り投げた。
今度は野良猫の群れの中……コントロール良すぎでしょご主人。
しかもこいつ、このへんのボス猫だよな。
顔見たことがある。
あのー、すみません、ボール返してもらえませんか。
すると向こうはニャッ? となんか喚いた。
スミマセン、猫語は分かんなくて。
返して。お願い……
シャキーンと猫たちの爪が。そして俺に猫パーンチ!
ぐわああああああああっっっ
数分後。
「賢いワンちゃんですね」
彼女が俺をなでなで。
それ見てご主人様ニコニコ。
どうやらこの女性、動物が好きらしく、
ご主人に話しかけてきたのも俺がきっかけ。
そのために俺に取って来させてるのかどうかはしらんが、
話のネタにはなってるっぽい。
会話は大事だからねえ……分かるよご主人。
ネタは分かるが、顏に肉球のあざつくって帰ってきてんだからそろそろお開きにしてもらいたいもんだ。
「あら、ワンちゃん、怪我してるみたいですよ」
彼女さん、俺を抱っこして言った。
「お鼻に引っかき傷……尻尾も、これもしかしてハチに刺されちゃった? 大丈夫?」
やさびーなー。
「いやいや、こいつ丈夫だから……」
心配しなくてもイイデスヨとご主人。飼ってくれる人を間違えたか俺。
彼女さん、病院に連れて行きましょうって言ってくれた。
病院、はっきり言って好きくないが、尻尾がひりひりするから治してほしい。
結局病院まで俺を抱っこしてくれた彼女さん。なぜかご主人から嫉妬の眼で見られる俺。
俺……犬なのに……。
あー、でもさ、
嫉妬まで出来るようになったんだ。
と言うのも、ご主人、この女性と出会うまでは……ガッコにも行けなくてさ。
俺と散歩する時くらいだったんだよ。外に出るの。
でも今は週一くらいでガッコに。
なんで行かなくなったかは、犬のおいらには分からないけど。
でもさ、週一でも、行くようになったんだから進歩だよね。
恋の力は偉大だよ。
「はーい、炎症抑える薬、打っときますねー」
はっ。
い、いかん、油断していた!
後ろを振り返る。看護婦がでっかい注射針片手にニコニコしてる……うわわわわ!
ワフフワフフフフワワワワン!
俺はあらんかぎり抵抗する。いや、ハチにぶっ刺されところは痛いけど、
こいつの注射はそれ以上にいたいんだよぉぉぉぉぉぉぉ!
ご主人助けてぇぇぇー!
「ほらほら駄目じゃないか、ちゃんと薬うってもらわなきゃ」
ひょいと抱えられて俺はブッスーとケツに刺された。