あるいは
モーメント。
ざく、ざく。足音が。
ひばり。もう舞い上がれない夕暮れ。
ネオンもない田舎だもの。
つぶれかけのホテルと 客のいない料理屋が 向かい合わせの交差点。
ここで高校生をしているってのは、なんだか寂しいことだよね。
ずっと遠くで明るく楽しく生きてる人たちがいて
でもまあ意味ないってことではおんなじかな。
そうだよ。雲はちぎれ
夕闇に見えなくなる。
ああそうか。ひばりだと思ったのは
私の一部。
それがなくなったら
私は高校生でなくなる。
もう置いていくよ、君。
いつまでもそこで そうしていなさい。
☆
結局恋愛なんて すべて損害のようなもの
と、隣の人が言ってた。
おもしろい話だ。人間っていう感じがする。
人間はいつもおもしろい。なくしたものについて話す。
たとえばいつだったか、赤ん坊がちぎれた雲を惜しんでいた。
インドの音楽が流れ、横浜のチェーン店が話題に上る。
三枚目の俳優の話。または、カルボナーラの由来について。
炭素を散りばめた白い皿があり、思いのほか紅茶はおいしく、
煙草の煙がいつか通り過ぎた田舎の国道沿いの喫茶店に似ていた。
ねえダーリン
と、隣の人が言った。
笑いが起こった。美しい素敵な笑いだと思った。
その美しさは地中海のようで 明るく暖かく
海沿いの街に白い建物があり 乾燥した大地があり
世界とは何なのかという答えを
見つけだせないでいる私たちにとっても 魅力的なのだった。
ごちそうさまです
と、隣の人が言った。緑色の街へ帰ります。さよなら。
ドアの隙間から見えた街は 日差しが明るく 緑色をしていて
隣の人がいなくなったこのテーブルは
静かで冷たい 場所になった。