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ある日の詩

美しい沢のせせらぎを聞きながら私たちは歩いた。

サイラン武人(ぶじん)の足跡をたどる。

「奴はきっと、」

蚤熊(のみくま)は言った。

「飛び跳ねながら歩いていた」

足跡は途切れ途切れで、私にはほとんど見えない。

しかし蚤熊は驚くべき視力で判別する。

「三日前だな。さもなくば二日前」

とするとサイラン武人はもうかなり遠くへ行ってしまったのではないか。

私がそう言うと、蚤熊はにやりと笑った。

「奴は長時間歩くのが苦手だ。ずっと歩き続けられる俺たちの方が速い。まあ、」

蚤熊は目の前の足跡を見つめた。

これは比較的はっきりしていて、私の目でも輪郭を見てとれた。

「一週間はかかるまいよ」

そうしてまた歩き始めた。



ボエンデュウムの街は広い。

丘の上から見下ろすと、赤い屋根の家並(やな)みがどこまでも連なっている。

その中にひときわ大きな建物がある。

カイエン堂。

街の中心を為すノーレン教の第一教会である。

歴史は千年の昔にさかのぼる。

この地を訪れた聖者ノーレンが、一軒の農家で水を乞うた。

当時のボエンデュウムはまだ人の少ない農村に過ぎなかった。

ボエンデュウムという名も、古語で広い畑というほどの意味である。

ノーレンは飲んだ水のおいしさに瞠目した。

これは聖水ではないかと思った。

そして農民にこの水に名はあるのかと尋ねた。

「カイエン」

と農民は答えた。

湧き水、という意味の古語である。

ノーレンは感謝して一切れのパンと祝福を与えた。

と、ノーレン教『開教記』にはこのように書かれているのみである。

それから五百年の後、ここに街が造られるにあたり、『開教記』の記事を元にカイエン堂が建てられた。

堂の地下からは水が湧き、その傍らにノーレンと農民の像が祀られている。



リサイクルショップがあった建物に、居抜きでラーメン屋が入った。

居抜きにする意味があったのかどうかわからないが、ともかく居抜きである。

広い店の端に五席ばかりのカウンターがあり、それ以外は棚が並んでいる。

客は適当な棚に丼を置き、立ったまま食べる。

妙な店だが味はひじょうにうまいので、いつも客が多い。

私も常連である。



彼はかつてプロ野球のピッチャーだった。

曇天の川上と呼ばれた。

晴れた日にはなぜか勝てなかった。

曇っている日にはよく勝った。

この理由を分析して彼はこう語っている。

「晴れると世界の見えぐあいがよくてね」

いわく、晴れた日には世界が明るく見える。

どう投げても良いように思えて、適当に投げてしまう。

反対に曇っているとしっくりこないのでよく考えて工夫して投げる。

その違いではないかと。

私には細かいことはわからないが、曇天の川上が私のヒーローであることには違いない。

彼は今では農家になった。

おいしいレタスが自慢である。

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