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明太子の論文

明太子について、彼は論文を書いた。

その論文はとても精緻な論理によって書かれており

一部で少し評判になった。

しかし時とともに忘れられた。

彼はそのことを気にしなかった。

そしてまた次の論文を書いた。

こんどは流れるような美しい構成の論文だった。

「素晴らしい」

あるとき、目利きで有名な山口教授が彼に目をつけた。

教授は彼の過去の論文にも目を通し、

彼が並外れた才能の持ち主だと確信した。

「私の研究室に来てほしい」

教授は最大限の研究費と給与を用意して彼を迎えた。

教授のもとで彼は研究を続けた。

やがておいしい明太子ができた。

彼は教授への感謝の気持ちを込めて明太子を山口と名付けた。

これが昨今人気のある山口型明太子の誕生物語である。

今年で百年になる。



匂いを嗅ぐということを思い出さねばならない。

雪の積もった竹林を歩く。

古びた列車から見知らぬ田舎の景色を眺める。

子供の頃の思い出。

息を止めて生きてきた。

東京に来てからのこと。

古い息を吐き出して匂いを吸う。

いやなことばかり思い出す。

つらい。

やりたくない。

やれよ。

はい。

正月の匂いも忘れたんだろう。



あれは忘れたんじゃなかったか。

ほら、あれ。

どれよ。

あれだってば、忘れたけど。

困ったね。

そうして忘れちまったあれは、記憶の底に灰のように降り積もる。

(あるいはそれは雪だったかもしれない)

天気予報を見てため息をつく。

数年に一度という大雪が降り続いていた。

いつ止むとも知れぬ。

もう終わりにしよう。

と私はひとりごちた。

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