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イソジン

イソジンの茶色を眺めていた。

銀杏の葉が黄色になった秋の日のこと。

私の座ったクラフトビール屋のテラス席に置かれたイソジンの瓶。

「前のお客さんの忘れ物なんですよ」

と店主は淡々と言った。

なぜここに置いたままなのかは言わなかった。

すぐに取りに戻るだろうと思っているのかもしれない。

「どうぞ」

「どうも」

店主が持ってきたビールのグラスを受け取る。

やや濃いめの黄色の中に小さな泡が湧き上がっている。

一口飲んで、ああ、まあ、なるほどと思った。

そういう味だった。



「もしもイソジンを飲めと言われたら」

と彼女は言った。

京都の小さな寺の縁側で、そこそこ色づいたがまだ盛りではない程の紅葉を見ていたときのことだ。

「嫌だよね?」

そうに違いないがことによるとそうではないかもしれない、みたいなニュアンスの瞳で彼女は僕を見た。

「嫌だね」

と僕は答えた。

「だよねえ」

彼女は安心したように言った。

小さな、というよりは、寂れた、というほうが適していると思えるような庭だった。

しかし日当たりはよく、座布団はよく手入れされていてふわふわしていた。

庭よりも座布団の具合が良いなあと、僕は思った。

彼女は隣で眠そうにあくびをした。



「マジョリティなんだよ」

語気を強めて田中は言った。

「それなのにその自覚がない。だからマイノリティに配慮することがない」

拳は握られている。

今にもこのテーブルを叩きそうだと思った。

しかし田中はそうしなかった。

感情の起伏が激しい男だが、会社員になってからはいくらか抑制がきくようになったような気がする。

学生の頃は、居酒屋で酒に酔ってグラスを叩き割り、店主にこっぴどく叱られたこともあった。

「したがって、」

と田中は言った。

言ったところで、ひどくむせた。

むせながら「ちくしょう」と言って机を叩いた。

やっぱり叩くのか、と僕は思った。

思ったついでにポケットにイソジンを入れたままだったことに気づいた。

僕はイソジンの瓶をポケットから出した。

「うがいでもしてきたらどうか」

田中はギロリとした目で僕を見た。

それから立ち上がり、イソジンの瓶をひったくるように掴み、トイレに向かった。

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