国民的美少女
「国民的、ってなんだろうね」
と彼女は、国民的美少女であるところの小島津藻乃莉は言った。
非常な美少女だった。
まるでうすぼんやりした光が彼女の背後から解き放たれているようだった。
それが故にコンテストで頂点に立ち国民的美少女の称号を得た。
「それで言えばおじさんだって、国民的おじさんなのにね」
「どういう点で」
と私は疑問を呈した。
「普通のおじさんなのに」
「普通だからこそ最大公約数的な国民的おじさんなんだよ」
と彼女は言った。
「いや待て」
と私は言った。
「それでいけば国民的美少女は最大公約数的な美少女でなくてはならない」
「そうじゃないの?」
と彼女は言った。
「いや」
と私は反論する。
「君は少なくとも最小公倍数的美少女だ」
「最小公倍数」
彼女はそうつぶやいた。
納得していない様子だった。
しばらくして彼女は顎に手を当てて考え始めた。
この考え事は長くなりそうだった。
二人の間のテーブルの上にはコーヒー(ブラック)とコーヒー(ミルク入り)とポン・デ・リングとオールドファッションのドーナツが1個ずつおいてある。
「コーヒーのおかわりはいかがですか」
と店員がやってきて尋ねた。
「いえ、まだたくさんありますので」
と私は答えた。
コーヒーはまだひとくちしか飲んでいない。
店員は何も言わずに歩いていった。
彼女はまだ顎に手を当てて考えている。
「最小公倍数というのはいわば」
と私はつぶやいた。
彼女に聞かせようというのではない。
ひとりごとである。
「青と緑を混ぜたら青緑になるという程度の」
私はコーヒーを飲んだ。
この店のコーヒーはさほどおいしくはない。
どちらかというとドーナツの味が売りのはずだ。
それで私はポン・デ・リングをむしゃむしゃと食べた。
おいしかった。
「あ」
と彼女はようやく口を開いた。
「それは私が食べたかった」




