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ヘルシーな生活
酒を飲みたいと思ったのもつかの間、酒を飲んだらたちまちもう飲みたくないと思ってしまった。もうだめです。酒はもう。竹林に分け入って、竹藪から出てきた老人と酒を酌み交わす。わずかにのぞく夜空に月が浮かび、酒に映る。うまいか、と老人は言った。うまいね、と私は言った。ここはもうだめなんでしょう。せめてものうまい酒ですね。老人は切り株に腰掛け、うまそうに酒を飲んだ。見上げた瞳に月が映る。だめってことはないさ。阿弥陀様に言うんだな、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
ときめきを失ってからはや十年。おじさんはおじいさんになった。ひげが白くなり、やがて枯れた。酒を飲めなくなり水を飲むようになった。水で酔うようになった。うまい水は甘い水、などと言いながらさきほど飲んだばかりの水分を放尿で失う。ときめきとは尿のことであったか。




