冷たい風
もう会社やめたいんですと彼は言いました。彼は来ました。ここへ。この部屋へ。癖の強い前髪に、瞳は隠れ、青白い壁紙を背に、彼は言いました。
「ああ、なんというか。ここはいい場所です」
そうおっしゃる方は多いんです。
と私は言いました。理由はわからないんですけれども、と。
「世界を」
彼は小学生の頃のことを思い出しているようでした。
「校門を出て、横断歩道を渡ります。竹やぶがあります。ちょっとおかしなおじいさんの住んでいる家の前を通ります。田んぼがあり、山が見えます」
彼は、すう、と息を吸いました。
「山の上に雪雲が見えるんです。山は雪に覆われ、田んぼは水が満ちて、私は冷たい風を心地よいと思う」
彼は泣いていました。冷たい風の中で、泣いていました。
☆☆
冷たい風を背負って 遥かにやってきたぜ
ここは砂浜 見渡す限りの日本海
オフロード・カーで駆け抜ける
踏みしめる砂 雲に覆われた空
雪が降ろうとも 負けじと照らす 太陽の光
そばに寄って見ろよ 砂で作った城は
今日も元気に 光り輝いている
☆☆
恐竜のほねを探そう、というのが僕たち探検隊のもくひょうだった。
あるとき宗介くんが岬の下の崖をほりにいこうと行った。
ぼくはちょっと怖かった。あの崖は高くて、その下の海は暗いから。
それでも宗介くんは行こうと行った、僕たちはバスに乗った。
古いバスだった。ちょっとした段差をこえるたびにガタタンと揺れた。
崖の上に来た。もう帰ろうと僕は言った。なにを言ってるんだこれから崖を下りるんだ。
僕たちは崖を下りた。踏み外したらしぬと思った。小石が僕たちのかわりに落ちていった。
あ、と宗介くんが言った。恐竜のほねだ。
そんなばかな、と僕は思った。そしてやっぱり恐竜のほねではなかった。
恐竜のほね、だよ、と宗介くんは言った。僕はそれが恐竜のほねだというふりをすることにした。
恐竜のほね、です。と僕は言った。やはりそうか。僕たちはもくひょうをたっせいした。
宗介くんは気分がうきうきしていた。かえりのバスの中でもたのしそうだった。




