哲学者
エアコン
おじさんはそれを エヤーコンと呼んだ。
思い出すのは おじさんの部屋の
茶色いシックな エヤーコン。
そこは たばこのにおいがして 古びたギターがあり
昭和が どろりと 滴り 溜まったような 部屋だった。
昭和の面影が世界から消え去る頃
おじさんはこの世を去った。
いまや家は朽ち エヤーコンは錆び
薄情な私にも 愛情豊かな家族にも 顧みられることなく
なかったことに なろうとしている。
エヤーコンをつけよう、とおじさんは言った。
くさい たばこの 煙を吐きながら。
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パリミティ
僕たちはそれを 意識すべきなんだ この世界に生きる 市民として。
彼は熱っぽく 訴えた。
いわく、愛なんていらない。
それは虚構 幻想だ。
ある種の病 なのである。
どうしますか、それで?
それで! パリミティとは それです。
彼の唾が 飛んだ。
幻想を乗り越える 技術。
夢を見る 工学。
パリミティについて詳しく述べたいのだが……ああ……時間が……
詳しくは私のウェブサイト……ああ……
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ボヤーリンの美学を理解できるのは
日本ではあなただけですね。
石畳の道に雨が降り 反射する車のライト。
サンダルに 短パンで 歩く人の、
すね毛が微妙に 光を乱す。
ぼんやりと照らされ 月光、ないし日光、
並べる、そういう美学。
現にあったのだ 三十年前。
いまは あなただけ。
フロイトはもう 怒らないよ。




