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置手紙

飼い主様へ

いつもめんどうを見てくれてありがとう。

おかげで食べるものにも 住む場所にも 困りません。

ときにはおいしいレストランや お寿司屋さんにも 連れて行ってくれる。

いろんなお酒も飲みました。

住んでいる部屋は ひとりなのに2LDKもあり 日々の必需品だけでなく

たくさんの本を入れておく書棚や 高性能のパソコンや

それらを扱うための広い机と心地いいチェアも与えてくれました。

ベッドは心地よく お風呂は広く

トイレはきれいで定期的に清掃が来ます。

こんなにいろいろなものを くれて 感謝のしようもありません。

本当はたくさんの好意に報いるために わたしは素晴らしいものを

生産しなければならない。飼い主様のために。世の中のために。

けれどわたしには何を生産する能力もない ぼんくらなのです。

朝になると起きて 散歩をして ご飯を食べる。雨が降ると本を読む。

あなたにもらった旅費で 少しばかり旅に出てみる。

その感想を書いた文章や 不意に思いついた詩を あなたに見せると

あなたは喜んでくれる。でもそれでいいのでしょうか。いいえ、

それではいけないのです。素人にしては上手いという程度の文章です。

あなた以外のだれもほめてくれない詩です。

わたしはなにも生産していない。

でもわたしはなにかを生産しなければならない。なのに生産できない。

この堂々巡りの中で わたしは苦しいばかりです。

あなたが優しくしてくれればしてくれるほど

ひとり苦しみを増幅させてしまう。

わたしは愚かです。生産できないこと以上に。

もう逃げるしかない。

ごめんなさい。こんな不義理はない。ひどい話でしょう。ほんとうは

わたしは土下座でもしなければならない。でも こめんなさい。わたしは逃げます。

許してくれなくていい 罵って 馬鹿にしてください。

この美しい首輪 ありがとうございました。ここに置いておきます。

楽しく穏やかな日々でした。感謝します。さようなら。


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