安い追憶
ねむいときは 指を数えると良い。
指折りかぞえると 楽しい夢だ、緑色の野原の宇宙。
空に手をかざす かぞえた指
なつかしいねえ。それは過去のこと。
柿の木の下で せみの幼虫をつかまえたこと。
桃の皮のようなもやの向こうに君がいること。
栗のいがが落ちて割れてあなたが生まれてきたこと。
丁字路のカーブミラーの中に まあるくおさまり
私の過去は いつまでそこにあるのだろう。
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ばんごはんのにおい 夕闇に もれてくる
風に竹の葉がゆれ たけのこがぐんと伸び
一番星、二番星、と数えるうちに ますます星が増え
流星は落ち 引き伸ばされた夜が
まわる。
くらいトイレの窓から ふくろうが鳴くのを見る。
トタン屋根、静かに吊るされているタマネギ。
それらは まだくらいけど朝は近いよと
言っている。
そうして夜は明け
人が動きだすまでの
束の間。
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アルザス生まれのわたしの母は 海の向こうが大好きだった。
ここは悲しいアイランドだよ。かつて恋人たちが座っていた場所を
私は掘り返している。いつか希望が出てくるのだろうか。
あの日 誰かに訊いた気がしましたが。
世界はいつ滅ぶのですか。
無邪気だった。そうとしか言いようがない。
ボールが転がるのが楽しくて 追いかけたり、
先生のつるりとしたおでこが好きだったりしました。
だからそんなことを言った。
現に恋人たちは消え 岬から
アルザスの方角をながめ 空虚という語を思い出すのみ。




