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美少女たち

(1)

性欲というものを見たのだった。

あの瞬間に。なつかしいときのこと。夏だった。

夏は暑くて ただ暑いだけで 蝉の声を聞いて 畳の古い匂いを嗅いで 

仰向けになった中年男性の腹の膨らみを うちわで扇ぐだけの

夏休みの暗い夕方だった。

扇風機がふうとゆらぎ、トラックの音が通り過ぎる。その暗い田舎家に。

私はそこから遠く離れて 夏の青空の下に

それなのに 私の顔は暗い田舎家に

私の顔の陰に暗い田舎家が。あるのだ。逃げられない。

私は性欲を見た。

どうしようもなく

私の淡いものを美しいものを壊してしまうみじめなものを。

なんで明るいの ここは。

私を汚さないで。明るいもので私を。汚さないで。

ここにもあそこにもない 帰る場所。


(2)

ああそうよ ここは朝なの。

明るくて、何もなくて平らで、セイタカアワダチソウばかり生えてる。

美しくあるのは ほんとうは美しくなくて見せかけだけの

なんにもしらない人たちが 美しいねというだけの

そういうもの

つまらないと思う。

ほんとうにいやな朝。

バット バット 金属バット

白い光の朝の庭。

階段を下りて 古い木でできたこの家に

私は美しく 歩いていく。


(3)

なんでもなかった 秋雨のこと。

しめりけ。

本にかびが生えたり、馬の耳にかびが生えたりする。

秋雨。降っていますね。

美しい横顔。指先が観葉植物に触れて 水滴が落ちる。ぴちょんて。

私は見ている。本を抱いて。

濡れた髪。馬の匂い。

自転車が走り去る。暮れてゆく。

はあ。窓。さっしに生えた黒かび。

そうね、と指で拭う、

しめりけ。

指先から落ちる かびまじりの水滴。


(4)

なんであなたそんなにきらきらしているの。

信じられないものを見た。

大きくて大きく広がって ふかふか。

そのテントの向こうに広がる砂漠を見よ。

暑いだろう? 爽やかな風に吹かれてマントをひるがえしている場合ではない。

荷物をまとめて砂漠をゆく 必要がある。

もう一度見よう。あなたはふかふかと広がっている。

かわいいなんてずるい。

砂漠の中でそんな。

かわいいなんてずるい。


(5)

ばか?

ぐちゃぐちゃのゴミ溜めだ。私の食べ残しの。シティが生み出した

腐ったキャベツ。

逃げないでくれ頼む。もう少し私のそばにいて。

こんな私のたったひとつ昔のままの美しい 背中の上のリボン。

まだ美しかった 襟元のくせ毛。

腐ったシティにも まだ映すほどの青空があった。

ゴミのようなものを頬張る。汁がはじけて撒き散らされ 壁を汚す。

くだらない落書きになり まだ人の見ることのない張り紙が破れている。

青いゴミ箱。

誰もいない。


(6)

手首に巻き付くインドトラネコ。

指先に宿る力が振りほどこうとする。

きらめく星 においたつ 汗も体も 覆いかぶさり 私を食べる。

猫よ 私は黄金の 花弁の間に はさまりて

爪の先まで 花になる

細い体に見栄をはってみても ひとしずくのきらめきでしかない。

私のずっと下に 意味があるのですね。

見えないところに。

重ねてお願い申し上げます。

吸い取って、生えて。

緑色の 細長い茎。

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