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12-2 窮余一策

「は?」


 カニが喋った。


 呆気に取られた様子で、呆然としているが、カニなので表情は良くわからない。ただ爪がパシンパシンと動いている。


 信者たちもまた呆然とそれを眺めていた。自分たちが何を見ているのか、見せられているのか分からないという様子で。


 騎士達もまた、自分たちが何を見せられているのか理解出来なかった。


 あれはなんだ。カニか?神か?


「いや全く、ここまで見事に引っかかってくれるとは思いませんでした。」


 騎士達に混じって信者を止めていたレストがしたり顔で言った。


「おまけにグリンさんまで自分から処理してくれるとは思いませんでした。」


「全く助かったわね。」


 横でワイバーンスタッフを振り回していたシェルフが笑みを浮かべながら言った。


「相手がアホで。」


同意(まったくだ)。」


 シェルフと立ち回りを演じていたシアが言った。


「……!!シア!!何をしている!!殺せ!!」


 カニが叫んだ。


(断る)前指示聞否(お前の指示など聞くか)。」


「なんだと貴様……!!まさかお前も裏切るつもりか!!」


肯定(ああ)(しかし)詐欺師裏切(詐欺師が裏切りを)(咎めるとはな)。」


「詐欺師だと!?」


 カニは両手を持ち上げて怒りを示す。


詐欺師(詐欺師だろう)世界再生詐欺(世界再生詐欺とでも)(言おうか)騙連中(騙される連中が)此居(此れだけ居るのが)(驚きだが)。」


 カニは、グレイスは内心焦りを感じていた。この様子を見るに、自分の企みはバレている。どうやってバレたのかはわからない。シアとはあまり接していない。シアに限らず、他の人間たちともこうした考えがばれないようにと直接の接触を避けていた。だというのに、此奴らは全て見透かしているような目で見てくる。


 何故だ。


 いや、そもそも何故私はこのような姿になっている?グレイスは自分に問いかけた。


 宝玉が全て揃って、その力を解放する事で、私は完全な姿を取り戻す。それは確かだ。だが、その姿は以前とそこまで変わらないはずなのだ。魂の管理者と人間との形状に違いはない。だが今の姿はなんだ。グレイスには何が起きているか全くわからなかった。


「不思議ですか。」


 レストが言った。


「不思議に思うようではなんというか、大した事ありませんね。魂の管理者様のお知恵というのも。」


「なにぃ……。」


 挑発的な発言に耐えきれず言葉を荒げる。


「ふざけるな。ふざ……待て、貴様、何故魂の管理者という言葉を知っている?」


 グレイスはレストの言葉で疑問に思った。魂の管理者という単語は通常使われない。現世には存在しない言葉のはずである。それを何故この男は使ったのか。使えたのか。疑問でならなかった。


「理由は簡単です。貴方の体に起きた異変。それは僕とクレアさんとで策謀した結果ですから。」


 グレイスーー羽の生えたカニは呆然とハサミをパチパチ鳴らした。



----------------



「偽物を掴ませましよう。」


 クレアが協力を仰いだ後の話である。レストは早々に切り出した。


「宝玉を偽装することは出来ませんか?」


 レストが問うと、クレアは頷いた。


「出来ます。少々、いや相当手間は掛かりますが。」


「是非お願いします。それで時間の宝玉と物理の宝玉を偽装しましょう。」


「物理の宝玉も?」


「あー、あれは確かに、集めるのが難しいもんね。」


 シェルフが理解出来たという様子で頷いた。


 物理の宝玉は現在カリーナを形成している。宝玉全てを集めるとなれば、カリーナを分解しなければならないということになる。それは避けたいとレストは考えていた。カリーナは相当の戦力になる。失うわけにはいかない。それに何より、カリーナという個の命を奪うことになる。出来る限り避けたい。


「ええ。その二つと、後は……。」


「いえ、それで全部です。知識の宝玉は、あの男が隠し持っています。あれがあれば、吸収の宝玉で魂を奪うこともありませんから。」


 クレアが言うと、レストは頷いた。


「でしたら、その二つを偽装して、取り込んだら何か副作用が発生するようにしましょう。」


 うーむ、とクレアは唸る。出来ないことは無い。だがやるしかない。自分で呼び寄せて策を考えろと言っておいて、考えたものを却下するのは、業績こそ尊敬するが人間的には最低な自分の先輩のようになってしまう。クレアはそれは避けたかった。


「なんとかしましょう……。」


「副作用も良いのですが、完全に殺すみたいなことは出来ないのですか?」


「んー、それは無理ですね。残念ながら。魂の管理者に死という概念はありませんので。」


 クレアが辛そうに言った。死ねない体というのも問題なのだなぁとつくづくレストは哀れに思う。


「じゃあ……物質変換の対象には?」


「通常は出来ませんが、不純物を混ぜ込めば出来るはずです。」


「なるほど。……物質変換で別の物にすれば、殺せるようになるのでは?」


「あ、そうです!!それだ!!素晴らしいですよ!!呼んでよかった!!」


 クレアのテンションが急上昇した。


「そうだ、何故気付かなかったのか!!物質変換スキルを有効にすればいいのか!!急いで作ります!!偽物にその不純物を混ぜましょう!!そうすれば、貴方のスキルも通用します!!」


 そう言って彼女はどこかへ走り去った。


「あ、あの!!吾輩達はどうすれば良い……行ってしまった。」


 クレアの後ろ姿を見ながらレンジが愕然として言った。


「貴方方には釣り出しをお願いします。」


「釣り出し?どういうことデス?」


 アーシャが尋ねた。


「宝玉が偽物に代わったとして、それを吸収する流れにしないといけません。」


「まぁ、確かに。」


 レンジは、レストの言葉の意味がわかったような気がした。


「偽物がちゃんと出来たらの話ではありますが、偽物を渡す人が必要です。それをお願いします。」


「む、むむ。」


(いや)其私役目(それは私の役目だ)。」


 悩むレンジを押して、シアが割り込んできた。


前感情出(お前では感情が出る)発覚可能性(バレる可能性がある)。」


「う。」


 言い返すことは出来なかった。その通りだろうとは理解出来た。


「ではワタシが。」


「吾輩がダメならお前もダメだろ。」


 アーシャがフンと胸を張って言ったが、レンジが止めた。


「当然ですわね。」


 カーネリアがそう言った。


 異議ありとばかりに掴み掛かろうとするアーシャをレンジが抑える。


「もう少し自覚したまえ!!」


「うがああああああああ。」


 二人+カーネリアのやり取りを見て、はぁ、と溜息を吐いた後、シアが口を開いた。


在無視(あれは無視しよう)。」


 レンジとシェルフも同感であった。


「ではシアさん、お願いします。僕たちは騎士団の本部にいますので、そちらに攻め入る形に誘導を。」


「ま、宝玉が出来ないと話にならないわけだけどね。」


 とシェルフが言うと、ちょうどクレアが戻ってきた。小脇に二つの宝玉を抱えている。


「無用の心配ってやつだったみたいね。」


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ。頭が痛い。超疲れました。もう二度とやりたくない。でもまぁ。」


 クレアは宝玉を掲げて言った。


「出来た!!これを取り込んだら奴は……げへへへへへ。」


「何に変換するつもりなのさ。」


 シェルフの問いにレストは答えた。


「んー、偽りの神(いつわりのかみ)だと僕は認識しているので……。かみ……かみ……かに……。有翼の蟹(ゆうよくのかに)にでもしましょうか。」


「何ソレ。」


素敵(素敵……)。」


「アンタレストの行動なら何でも肯定すんじゃないわよ。」


 陶酔したようにキラキラした目でレストを見つめるシアに、シェルフが思わずツッコミを入れた。

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