11-7 天解
レンジとアーシャにはその言葉の意味があまり理解出来なかった。したくなかったのかもしれない。
「……グレイスさんが何デスって?」
「あれは本来は魂の管理者、私と同じ、皆さんで言う所の神の一柱でした。ですが、あまりに身勝手な介入を繰り返したため、私を含めた他の管理者の合意の元、その神の力を分割して地上に堕とす事にしました。ですが彼の最後の抵抗により、分割した神の力はレピア国を中心とする範囲にばら撒かれてしまいました。」
「それが宝玉……?」
レストの問いに、クレアは頷いた。
「そして、その宝玉を回収するよう、私達が働きかけたのが、今でいう所の貴族という方々ですね。」
「つつつつまりあの男はモノホンの神だというのかね!?」
「その通りです。今はその力を失ってはいますが。アレイトス教というのは、彼が復活するための隠れ蓑に過ぎません。」
「つまり、アレイトスという神はいない……?」
レンジが呟くと、またクレアは頷いた。
「はい。それはかつてあの男を追放した、最も技術力を持った管理者、その名前を捩った、偽りの名前です。彼なりの復讐のつもりなのでしょうか。それ以上の意図があるかどうかは分かりませんが。」
「そのグレイスってのがアレイトス教の教祖ですか?」
レストが尋ねると、
「然。」
シアが答えた。
「で、グレイスってのが神……魂の管理者として復活したら、この世界は……どうなるんです?」
「彼の言う通り混乱には陥るでしょう。ですが作り変えられるとすれば完全に1からです。貴方方も含めて全てを作り直そうとするでしょう。私達も抵抗はしますが、それでも彼の暴虐を止められるかというと怪しい。」
「敵わないという事ですか?」
シェルフが尋ねた。
「いえ、その、……どう言えばいいのか……。」
クレアは何か言葉に詰まったようであった。
「あーもうなんか面倒くさくなった。ぶっちゃけますのでレストさん、後は任せました。」
いきなり言葉が崩れた。クレアは例え話と説明が苦手であった。
「要するにね、魂の管理者同士だと、あんまり干渉出来ないんですよ。ちゃんと魂の管理者としての法律に従って裁判に掛けないといけない。でもそれには時間が掛かる。その間にアレが無茶やるのを止めようとはしますよ?勿論しますけれど、なーんて言えばいいかなぁ。レストさんならこの例えで分かると思うんですけどぉ、インターネットから接続を解除出来ない状態でコンピュータウイルスに侵されてるようなものなんですよ。ある程度の抵抗は出来ますけど、ウイルスの活動を完全に抑え込む事は出来ない。根本的な対処を行わないといけないけれど、それには時間が掛かるって事です。」
全員の視線がレストに注がれた。
「あー、んー、そうですね。病気みたいなもんです。シ……」
シアと言い掛けて一応止めた。
「そこの人は風邪をひいてるみたいですね。その風邪をひいた場合ですが、時間が経てば治りますけど、それまでに咳が出たり熱が出たりはするでしょう。要するに、対処は出来るけどそれまでの被害をゼロには出来ませんよ、という事……でいいですか?」
「はい。でその被害というのが、この世界全ての消失になるだろう、という事です。」
クレアはニコニコしながら言った。
レスト以外の全員が、何となくだが理解した。このままではとりあえず想定外のまずい事態に陥るだろうという事を。
「……つまり僕達を此処に呼んだのは、宝玉集めをやめろという?」
「少なくとも宝玉が集まりきる前にグレイスを消して欲しいなって。」
軽い口調で彼女は言った。
「う、うーん。」
レストが考え込んでいる間、レンジは深刻そうな顔で尋ねた。
「……もしかして、下手をすれば別の世界にも影響があったりするのだろうか?」
「はい。貴方の世界も例外ではなく。作り替えるというか、完全に抹消されるので、貴方の考えているように、貴方だけ生き残るという事は出来ないでしょうね。もしかすると助けて貰えるかもしれませんが……私が知る限りあの男はそういう性格ではありません。自分が良ければそれで良い、大変利己的な性格です。魂の管理者……もう神という表現しますが、神だった頃も大変に自分勝手で。どんな約束も自分に利がなければ平気で破ってきました。貴方方との約束など平気で御破算にするでしょう。」
それを聞いて彼の顔は青褪めた。全部バレている。本物の神様だ、と。そして同時に、自分の考えが甘かった事にも。レンジは頭を抱えた。
「やばくね?」
彼はぽつりと呟くように言った。




