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11-5 天光

「よし行け吾輩の僕!!」


「ゴーゴーデス!!」


「ぶぇっくしょん!!」


 レンジ、アーシャが修道院の中に入り込んだ魔物を応援する。その声援を遮るようにクシャミが響く。


「馬鹿者煩いぞ!!」


「役立たずは黙って咳しなさいデス!!マスクもするのデス!!」


(ごめん)。」


 シアはマスクを二重にして鼻を啜っている。


 これが彼女の作戦、『仮病』である。


 ……プロの暗殺者がそのようなことで良いのかという疑問は当然のようにレンジやアーシャから呈されたが、それでも鼻水を垂らしくしゃみを繰り返す姿を見せれば、二人も渋々納得せざるを得なかった。


 着いていかなくても良かったかもしれないが、シアとしては、最悪の場合に備えて場に立ち合いたいという思いもあった。最悪の場合、つまり、レストの身に危険が及ぶようなことが無いように、という意味である。


 その時はくしゃみで手が滑ったことにして魔物を殺すつもりでいた。


 ザルだが、ザルだからこそ敢えて誰も疑いはしないだろうということはシアは確信していた。それはこの世界の医療体制にも関係している。熱があると言ってもその熱があるかどうかを具体的に確認する術がないのである。水銀を用いた熱の測量技術自体はあったが、正確なものではなかった。なのでもし測れと言われても誤魔化しが効いた。


 一方体調不良で仕事をすると捗らないという認識は広まっていた。


 なのでシアのこの作戦は、二人にはバレていなかった。……二人が底抜けのお人好しと馬鹿だということも手伝っていることは言うまでもない。




「ゴアアアアアア!!」


 雄叫びを上げるリザードマンにシェルフがワイバーンスタッフを向ける。


「あわ、わわわ。なんでここに魔物が……?この院は魔物に襲われた事なかったのに……。」


 モローがガクガクと震えながら言う。


「あるいは、宝玉が目当てかもしれません。シェルフさん、カーネリアさん。この間のラウム廟覚えてます?」


「大量に魔物に襲われた時の話?」


「あの時の魔物の現れ方は不自然でした。もしかすると、誰かが操っているのかもしれません。」




「おいバレたではないか。ちょっと察しが良すぎないか。」


「落ち着くのデス。無効化されてたというわけでは無いではないデスか。」


 シアは言葉には出さなかったが、心の中で「流石……」と恍惚な笑みを浮かべた。


「そ、それもそうか。ともかく、まずは行くのだ!!リザードマン!!」


 リザードマンは少々嫌そうな顔をしながらもレスト達に飛びかかった。後詰として更に別のリザードマンも穴から入り込もうとしている。


 このリザードマン達は何処から来たのかと言えば、この山に元々生息していた魔物であった。だがこのイルン修道院には手を出そうとはしなかった。何も無いただの瓦礫にしか見えなかったというのもあるのだが、それ以上になにか、聖なる何かを感じさせるものが此処にはあったのだ。魔物に信心を抱くような知能は残念ながら原則として無いが、そんな魔物達であっても萎縮させる何かが。


 だがスキルで操作されている以上、本能でも抗えない。リザードマン達は渋々、自らの武器である石斧を振りかぶってレスト達に襲いかかった。


 シェルフはそれを受け止めて流す。レストはそれに向かってスキルを放つ。また床に煮物がべちょりと落ちた。


「もう少し他のものに変えない?」


 シェルフが言うが、レストは首を横に振った。


「そんな暇ありません、次も来ますよ。」


「私は基本的にそういうのではないので、そういうのではないのでー。頑張って下さいましー。」


 カーネリアはモローと骨董品、宝玉を庇うようにしながら言った。


「はいはい、アンタはそうして、なっ!!」


 リザードマンの脳天を叩き潰しながらカーネリアが叫ぶ。その叩き潰されたリザードマンは竹輪麩となって美味しそうな匂いを漂わせた。




『そのスキル……。やはり来てくれましたか。』


 どこかから声がした。


「このお声は……神のお声……。」


 モローが静止するカーネリアを無視して立ち上がった。


 彼は恍惚としながらぽっかり穴の空いた天井を見つめる。そこに光が差し込んだ。


 リザードマン達はその光を見て、スキルの効果も忘れて一目散に逃げ出した。スキルですら抗えない、根源的な恐怖、あるいは畏敬の念がそうさせた。


「ど、どこへ行く!!」


 レンジが叫ぶ。が、リザードマン達は気に留めず立ち去っていく。


「なんデス?あの光。」


(知らん)。」


 そんな会話をしていると、光はどんどん強くなっていく。


「あわわわわ、吾輩達まで包まれるぞ!?」


「ひぃぃぃぃぃ!!まだ死にたくないデスぅぅぅぅ!!」


馬鹿(ばか)!!(うるさい)!!」


 どんどんレンジ達の声が大きくなり、その声はシェルフ達にも届く程になってしまった。


 風邪である事も忘れてシアが一喝するが、時既に遅し。


「なんかどっかから声がするんだけど!?」


「アーシャと……後誰ですか!?というかこの光はアーシャのせいではないのですか!!」


 物陰に潜んでいるのがカーネリア達にもバレた。アーシャは仕方なく言う。


「違いますデスよ!!」


 場は混乱の様相を呈してきた。そんな中、天から再び声が聞こえた。


『話があります。レストさん。お仲間もその他もまたまとめて聞いて欲しい話が。』


「その声……。」


 レストには聞き覚えがあった。随分と昔、遠い記憶となりつつあるが、記憶にはこびり付いていた。


『まずはこちらにご案内致しましょう。』


 すると全員の視界が光に包まれ、真っ白になった。






 後にはモロー修道院長だけが残された。


 彼はキョロキョロと周りを見渡し、魔物も居なければ客人も居ない、自分が買った宝玉もなくなったのを見て、どうしようかと思い、最終的に神に祈りを捧げた。


「神よ、どうか我らを守りたまえ。」


『勿論。ですが守るのは私ではありません。彼らです。』


 そんな声が聞こえた。

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