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11-4 天啓

「行くとは言いましたが随分と遠いですね。」


 レストは不平を漏らした。


 カーネリアの案内した先は、北地区の奥、山奥の修道院であったからだ。


「カリーナさんをお呼びした方がよかったかもしれません。……疲れた。」


「あんなもん呼び出したら大変なことになるわよ。街中で鉄のバケモンが出てくるのよ?」


 確かにそれは皆の興味を惹き恐怖を煽ることになりそうである。レストは頭を振った。


「最終手段ですね。」


 シェルフは満足気に首を縦に振った。


「でもなんでこんなところに。殆どやり取りしない場所よ。アタシも全然知らないし。場所だけは聞いたことあったけど。」


「ここの院長がそういうものを集めているとのことですわ。珍しいもの、古いもの。この修道院も、古代の遺跡を改良したとのことです。変わり者ですわね。」


 確かにわざわざ山の上に住んでいるのは、相当な変わり者であることは間違いないだろう。レストは交渉が上手くいくのかと不安になってきた。


「まぁでも一応ネタは用意致しましたので。」


「僕に背負わせた荷物ですか?」


 カーネリアはその修道院に向かう途中、変な鞄を寄越してきた。それをレストは背負っていた。


「ええ。古文書とかそういうのですわ。とりあえず詰め込んでおきましたの。」


「でも宝玉の価値知ってたら要らないって言われそうですけどね。」


「まぁその時はその時。権力に物を言わせれば宜しいのですわ。」


 騎士団の指示という名目で接収すれば良い、という意味なのはレストにも予想がついた。


「そうならきゃいいんですけど。」


「まーね。」


 レストとシェルフはそう言うと、再び山を登り始めた。




 山の上にある遺跡。それにある程度手を加えて、住めるようにしたのがこの修道院、イルン修道院である。


 手を加えて、とは言うが、本当に最低限と言うべき様相である。板を立てかけ、魔法で留めてあるだけで、辛うじて風を防いでいるという状況。よくこれで住めるものだとレストはつくづく思った。


 そのせいなのか、人の気配は無い。修道院長が一人で修行も兼ねて住んでいるのだと言う。


「それで遠路遥々。ご苦労様です。」


 そんな年老いた修道院長、モローが何度目か濾した薄い薄い紅茶を出しながら言った。その茶碗は薄らと頬を染めるよりも薄い赤に染まっていた。


「こうした場所で修行するとなりますと、いやはや、食料というのは重要でしてな。」


 節約の技とでも言いたげに彼は言った。


「はぁ、どうも。」


 レストはそれを口にした。不味かった、というよりも、味がしなかった。


「それで皆様は騎士団の方から宝玉を回収しにきたということですが、宝玉とはこちらでしょうか。」


 そう言ってモローが取り出した光り輝く球体は、レストの眼鏡には『時間の宝玉』と表示されていた。


「はい、それです!!それです!!」


 レストは興奮を隠せない様子で言った。


「勿論タダとは申しません。こちらの、骨董品と交換というのは如何でしょう。」


 レストの背中の鞄をごそごそ漁ってカーネリアが取り出したのは、古ぼけた巻物であった。広げると巨大な悪魔のような黒い影が人々を襲う絵が描かれていた。


「ほう。」


 モローは真剣にその絵に目を通した。


「……素晴らしい。」


 何がだろうか。シェルフにはよく分からなかったが、口は出さないでおいた。


「貴方がどの程度の金額を出したか、無論存じ上げております。こちらの絵巻物。その宝玉の買取金額と同程度のものとなっております。」


「そのようですな。」


「流石、お目が高いですわ、一眼でご理解頂けるとは。如何でしょうか。交換と参りません?」


「うーむ。……弱りましたな。私としてはこれを交換したい気持ちは大変強く持っております。ですが、そうも言っていられない事情というものがあるのです。」


「事情?」


 カーネリアが尋ねた。


「はい。……これを買うより前、私の元に声が聞こえたのです。こうした山の奥、静かな場所に一人で住んでおりますと、人の声など聞こえることは稀でございます。最初は幻聴かと思いましたが、実際には確かに聞こえたのです。その声によりますと、『数日後、ある宝具が世に出回る。必ず貴方が買いなさい。そしてこの神殿に永久に保管するのです』と。」


「指令みたいですわね。」


「その声は女性的で、神々しい威厳に満ち溢れておりました。私は確信しました。この声は我らが神、クレア様のものであると。長年の信仰から私は間違いないものと考えておりまして、そういうわけで、この宝玉はこの神殿に安置せねばならぬのです。」


 カーネリアは弱った。恐らく彼の言うことは真実である。少なくとも、幻聴であろうとなんだろうと、彼には何かが聞こえたのだ。そして彼の信仰心は相当に高い。となると、これを手放せと脅した所で手放すことは無いだろう。


「む、う。」


 そのカーネリアの考えはレストにも理解出来た。


「あー、ではそうですね。……ではこれはお預け致します。」


「いいのですか?」


「僕達の目的はこれを集めることではありません。これを敵に、邪教に渡さないことです。つまり、モロー修道院長、貴方がこれを絶対に敵に渡さないと約束して頂けるのであれば、僕達は安心してこの場を去れるというわけです。」


「それはお約束致します。」


「……あー、……ですが、他の方は約束してくださらないようです。」


 レストは何かの音が聞こえたことでそう言いながら振り返った。


 吹き抜けの廊下の、窓らしき穴から何かが入り込んでいた。


「ゴアアアアアア!!」


 武器を持った魔物ーー二足歩行の爬虫類、リザードマンと呼ばれる種族であった。

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