11-2 日常
「シーッシッシッシッ、いやあ笑いが止まりませんわ。」
カーネリアが金貨でお手玉しながら笑声を上げた。
彼女が笑っているのには原因がある。ディメイングループの買収である。
国に仇なすアレイトス教と繋がりのあったディメイングループは取り潰しの運びとなったが、それを良い事に彼女はその支店や資産をそのまま取り込む事に成功したのだ。
おまけに、ディメイングループが取り込んだマネドール商会のものも全て吸収し、ゼーニッヒ商会の地位は揺るぎない物となった。
「やーホント、あのアーシャのバカにゃー感謝しかありませんわ。」
ゲッヘッヘと下卑た笑いを上げる。
「そういうのをもう少しアタシらに還元してくれてもいーんじゃないのぉ?」
シェルフがその姿を見ながら呆れ顔で言った。
「事務所建てるとかさぁ。アタシらも延々騎士団に匿ってもらうわけにもいかないっしょ?アタシは修道院に居る事も出来なくはないけど。」
レストの事を言っているのだろうという事はカーネリアにもわかった。張本人たるレストはこの場には居なかった。彼は近くで殺人事件があったという事でレヴィに駆り出されていた。騎士も着いていくから、という事でシェルフとカーネリアは留守番をしていた。
「事務所ぉ?土地代に建物代に家具その他……出費が多数。考え物ですわね。」
だが却下はしなかった。それはそれで一考に値すると思ったからである。カーネリアとしてもこの環境はあまり良いものとは思えなかった。相変わらずケーキは出してくれるが。
「とはいえ、あの連中をとっとと片付けないとどうにもなりませんわね。」
「まーね。」
シアと裏で手を結んだ……とレストは言っているが、それのお陰で大分気は張らずに済むようになった。だがそれでも、アレイトス教と明確に敵対している以上、身の危険は残り続ける。何せ誰が信じているか分からないのだから。騎士団にすら協力者が居たのだ、どこに居ても不思議ではない。
「とっとと片付けるためにも、さ。」
「わかっていますわ。アーシャのバカタレの使っている情報源も利用出来るようになりましたし。情報収集は常に行なっております。もう少しお待ちになって。」
「しゃーないわね。」
シェルフが渋々納得したところで、レストが騎士達を連れて帰ってきた。
「いやなんで分かったんですか!!あのタンスが凶器だって!!」
「皆さんはこう、観察が足りないのですよ。……受け売りですけど。」
興奮する騎士達にレストが言った。
「木製のタンスに血痕が残らないわけないじゃないですか。いくら拭き取っても。それにルミノール反応……はまだこの世界では見つかってないか……。まぁ見落とさない方法はあるという物です。後は魔力試験と各人のスキルを照合させればすぐに分かります。あの人のスキルは『重量削減』でしたからね。」
「でもあのアリバイが崩れるのなんてどうやってやったんですか!!」
「聞いてなかったんですか?あのアリバイは結局他の方々に「自分は此処に居た」と思わせるだけで、実際には居なかったんですよ。声を録音して何か言われたら返すようにしてただけ。そういう魔法の痕跡が残っていたから決め手になったんじゃないですか。全く。」
大凡どのような事件だったかは、その会話だけで察しがついた。多分騎士の扱いなどに苦労しているであろう事も。
「お疲れー。」
シェルフは心の底からそう思い、言った。
「本当ですよ……。」
レストは頭を抱えながら言った。
「ああ事件自体は簡単だったんですが、とかく騎士の方々ーーシュイロンさんとマーガンさんの物分かりが悪くて。」
レストはかつて読んだ創作物ーー具体的な名称を提示してしまうとシャーロック・ホームズだがーーでも刑事があまり役に立たないという描写はあった。刑事と騎士の違いは大きいし、創作物と現実との差もあるという事は理解しているが、同じような立ち位置の人間は同じような知能なのだろうか、という悪態が頭の中を過った。が、口にするのは失礼だと思ったので我慢することにした。
「はあ。」
我慢しないで生きることが目的だったのに、なんでこんなことに。レストは溜息を吐いた。
「ところで何の話してたんです?」
「カーネリアが儲かってるからお零れに預かりたいわねって話。」
「もう少し品のある言い方は出来ませんの聖職者。」
言い方は兎も角、レストにも理解は出来た。
「お零れはともかく。情報収集の方は?」
「むぐー、ちゃんとやっておりますわ。やっていないみたいな言い方は心外という物です。……まぁ結果が伴っていないという点に関しては、残念ながら同意は致しますけれど。」
カーネリアはぶつぶつと文句を言った。やれ情報屋が使えないだのと言ったことを並べていた。
「ただまぁ、一つだけ気になる情報が入りはしました。」
「なんです?」
「最近貴族の家から家宝が幾つか売られたという話ですわ。お金に困ったとかそういう理由でしょう。貴族、という点が気になりましたの。殆どのケースで、宝玉は貴族に関連しておりましたでしょう?」
「確かに。」
レストも少し興味が湧いた。確証は勿論ないが、カーネリアの言う通り、貴族が関係しているというケースは多かったように思う。アーシャも一応貴族である。
「売られた先については把握しております。行ってみますか?」
「行きましょう。」
レストが言うと、シェルフもふぅと溜息を吐いてから言った。
「ま、行ってみないとわかんないしね。」
そう言って椅子から立ち上がった。




