10-10 裏切
「申訳無。宝玉見無。」
翌日、シアがアレイトス教の会議室にて報告をしている。
「残念だが仕方あるまい。」
グレイスが表情も口調も変えず、残念そうな様子も、それ以外の感情も一切見せないまま頷いた。
シアはこの男があまり好きでは無かった。この男には感情がないように見える。超然的と言うべきか、まるで人間の行為を気に留めていないかのように見えて、好ましい物ではないと思っていた。暗殺者として表情を崩さない事を良しとする自分が言える立場ではないが。
アレイトス教自体は信じていたが、その司祭の立場である彼を信じる事は、最後まで出来なかった。
「……それで貴方はおめおめと帰ってきたと。」
グリンが言った。悪意が感じられる言い方であった。シアはこの男が最も嫌いであった。明らかに他者を邪魔者としか認識していない。
想像だが彼は、屋敷に宝玉が無いであろう事をほぼほぼ確信していたのだと思う。そして、自分があのような場所を好いていないという事も。宝玉があったら良し、無くてもそのまま自分を処理出来る。そういう意図があって、自分に仕事を振ったとしか思えなかった。ーーかつて自分があの幽霊屋敷に来た事情を説明した時、レストがそう言っていたのを思い出していた。
「何悪事?」
「いえ別に。まぁ私の情報も怪しいものでしたから、そこは申し訳ありませんね。お疲れ様でした。」
明らかに本心を隠した言葉を吐き捨てると、グリンは話を次に進めた。
「そうなりますと、手掛かりは今のところゼロということですか。」
「ワタシの方でいろいろ探ってみておりますデス。」
「伝説ではこの国にあるとのことだが、外の国に流出している可能性もある。吾輩の方でも探れる範囲では探っておるよ。」
新入りのアーシャと、獣使いのレンジがそれぞれ言った。シアはこの二人は好いていた。御しやすいからである。
「お願いします。」
「では……当面は様子見ということになるかな。」
「はい。情報の取得が優先となります。」
「分かった。ではまたそれぞれ別行動とし、一月の後、ここに集まることとしよう。それまでここは封鎖する。グリン。」
「承知致しました。」
頷いたグリンを見とめて、グレイスは早々に場を後にした。
姿が見えなくなってから、アーシャが口にした。
「司祭様は足の早いことデスね。」
「黙りなさい、新入り。司祭様には大いなる考えがあるのです。」
グリンがぴしゃりと咎めた。だが、果たしてそれが彼の本心かどうかは、どうにもシアには分からなかった。少なくとも何かを考えているのは間違いない。呑気なレンジ達は部下に運ばせたパスタを口にしているが、二人には分からないような何かを企んでいる。
「……私独自情報収集。」
「はい、お願いします。」
グリンがあまり感情の篭っていない言い方で言った。あまり期待していなさそうである。
シアは会議室を出た後、手元の通信機の電源を切った。
これで彼の役に立てたのだろうか。自分にはわからないが、彼がアレイトス教の人間と会話する時はバレないようにこうしてくれと言っていたので、恐らく正しいのだろう。
シアはいつもの冷静な感情の乗っていない顔のまま自室に向かった。
自分の懐にある、これは、彼との繋がりは、誰にもバレないようにする。
それはシアのーー幽霊が関係しない限りはーー得意とする所であった。
シアはもうアレイトス教がどうなろうとどうでもよかった。あの恐怖の時間を共に過ごし、助けてくれた彼に、少しでも恩を返す。そして、自分を陥れようとしたグリンを、アレイトス教を潰し、彼とーー。
顔には絶対に出さなかったが、その先を頭で考え、シアは心の中で思わずニヤけた。初めての感情であった。
10話はここまでとなります。
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