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10-9 炎滅

「『燃える火球よ空を裂け!!火炎刃(フレイム・カッター)!!』」


(はぁっ)!!」


「『火炎刃(フレイム・カッター)!!』」


(ていやぁっ)!!」


「『(カッター)!!』」


(どりゃぁっ)!!」


「GYAAAAAAAAA、GUAAAAAAAAAA!!」


 炎の刃と、短剣による連続攻撃で、屋敷の壁はずたずたになり、生肉のような皮膚を顕にした。


 屋敷がこの世のものとは思えない悍ましい叫び声を上げ、その度にぐにゃぐにゃと屋敷の床が、壁が、全てが歪む。


 雷鳴も止んだ。どうやら雷雲もまた、雰囲気作りのためにこの魔物が生み出していたようである。


 そして本来無かったはずの部屋の扉が突然現れ、そこから幾つもの骨ーー人間の服を着たーーものが飛び出してくる。


魔物(魔物か)!?」


 屋敷の正体が知れて、平常心を取り戻したシアが、その骨に短剣を向ける。


「いや、これは純粋に人間の骨……。」


 レストも冷静に分析する。骨に溶けかけの肉や溶けた衣服の欠片がこびりついている。


「……なるほど。これはおそらく、この屋敷に入った方の遺骸です。」


遺骸(遺骸)(しかし)骨単独(骨しかないのは何故)?」


「……想像、ではありますが……。多分食ったんですよ。この屋敷が。」


「……!!」


「この溶けかけた肉。多分ですが、消化中だったのではないでしょうか。そして、この背丈。迷い込んだ少女の歳と一致します。……ああ。」


 レストが観察していくと、溶けかけた衣服に「ユウ」と書かれているのを見つけた。シアもそれを見とめた。


確定(確定、か)。」


「……残念ながら。」


 シアは今や恐怖以上に怒りが込み上げていた。魔物に翻弄されたという事実に対する怒りも勿論あるが、それと同程度に、自分と同じように恐怖を感じながら食われていったであろう少女やその他の遺骸に対する憐れみと、そんな立場においたこの魔物に対する怒りが混じっていた。


 自分は暗殺者である。自分も同じように恨みを買う事はあろう。だがここまで恐怖を与えながら殺す事はしなかった。それをこのような、甚振るようなやり口で食らうこの屋敷の形をした魔物を、悪意を、許す事が出来なくなっていた。


 と同時に、あまりの恐怖に、既に自分が何のためにここにいるのかを忘れかけていた。


「……不許(許せない)……!!(行こう)レスト!!」


「はい!!」


 怒りはもはやレストを完全に味方として認識させた。いや、既にアレイトス教の事などどうでも良かった。


 自分のを助けてくれたのはレストである。アレイトス教ではない。


 自分の恐怖を取り除き救いをくれたのはレストである。アレイトス教ではない。


 だから自分はレストを信じる。


 ーー彼女はある意味純情であった。




「GUAAAAAAAAAA!!」


「止めなさい!!私の、私の大切なレジディーターをこれ以上傷つけないで!!」


 ダメージを与え続けていると、そう言って現れたのは、母親を名乗っていた女性であった。


「あ、あなたは何故此処に!?」


此処出来(此処で出てくるとは)貴様元凶(貴様が元凶か)。」


 シアが短刀をかざして言った。


「そう、私がこの屋敷を作った。お願いだから殺さないで。私も、この屋敷も。」


「理由によります。何故この屋敷を作ったんです。」


同意(そうだ。)理由言(理由を言え)理由次第(理由次第では)(生かしてやる)。」


「私は化学者です。生物学を専攻しています。私は、魔法と化学の融合により、新しい生物を生み出す、そういう研究をしていました。」


 今までの流れとこの発言。レストは大体の理由を察した。直感が叫んでいた、「あ、この人は生かしておくとロクな事はないタイプの化学者だ」と。それを口にするとシアが本当に実行しそうなので、何とか我慢した。別にいいのではないかと叫ぶ自分の悪意……あるいは正義の心を黙らせながら。


 だがその後彼女が語った理由は、レストの想像と全くもって同値であった。


「従来にない生物とはなんでしょう。私が閃いたのは、それ自体がダンジョンである生物です。従来、ダンジョン自身が意識を持つ事はありませんでした。魔物自身をダンジョン化させる事ができれば、それが可能なのではないかと。」


 シアにも大凡の流れが理解出来た。だがレストは何も言わないし、まずは話を聞こうと手出しはしなかった。


「私は成し遂げました。ダンジョンと魔物の融合体、それがこのレジディーターです。ですが問題は、それなりの大きさが必要だった事により、定常的に魔力の供給が欠かせない事です。魔物が生きるためには魔力が必要ですから。魔力を有しているのは誰か。人間です。だから私は、人間が迷い込むような仕組みをこのレジディーターに組み込みました。迷子の少女を装う仕組みを覚えさせたり、窓から見えるように宝ーー例えば伝説に残るような聖剣、盾、あるいは宝玉、宝石などを持った人影が映るようにさせたり。」


 シアの怒りが増してきた。つまり宝玉はフェイクで、ただこのレジディーターとやらが見せた幻影だったのだ。そして、自分はそれに翻弄され、ここまで恐怖を人に見せなければならなかったのだ。


「ですが最近は餌が足りなくて、やむ無く貴方方、騎士団の方に来てもらったのです。騎士団の方なら、娘が危険な場所に行ったとなればきっと乗ってくれるでしょうから。」


「……で?その話を聞いて、僕達にどうしろと?」


「先程申し上げた通りです。レジディーターを傷つけないでください。そして大人しく餌になってください。それが私達の為、そして化学発展の糧になるので グサッ がぁっ!?」


 話の途中に割り込むように、シアが短刀をーー毒のないただのナイフをーー女の右肩へ投げた。それは鋭く突き刺さり、女は肩を抑えて怯んだ。


「な、なにを!!」


 女性が憤りの声を上げたが、レスト達は平然と言った。


「あんまり、こういう事は言いたくありませんが。……アンタに生きる価値はありませんよ。いや、マジで。」


「同意。」


「まままま待ってください!!」


「ではもう一つ尋ねますが、何人餌にしました?」


「え……?」


「このレジディーター、ですか。それをここまで成長させるのに、何人の人間を食わせたか、と聞いています。」


 すると女性は、きょとんとした顔で、平然と言った。


「そんなこと、覚えているわけないじゃないですか。ゴミが何人死んだって構わないでしょう?だってこの研究は人類の発展に大切なーー ザクッ ひぎぃっ!?」


 シアの別の短剣が、彼女の左肩を貫いた。


「い、痛いッ!!何をするんですか!!」


(それが)御前他者与(お前が他の者に与えた)痛一部(痛みの一部だ)(痛いだろう)?」


「そこに落ちている白骨死体だけで相当量です。十や二十では足りません。それだけの数の人を犠牲にして、平然としていられる、その感性。僕にはとても信じられませんね!!」


 レストは激昂しながら言った。あまりにも身勝手に聞こえたからだ。


「そ、そんな。私はただゴミ掃除と同時に化学の発展が出来ると思っただけーー」


 女性が更に墓穴を掘ろうとした時、床が抜けた。


「HHHHHHHHUNGRYYYYYYYY」


 床からそんな叫び声が聞こえた。


「ちょ、ちょっと待って!!レジディーター!!私は、私は食べーーーーーー」


 そんな事を言いながら、女性は血を流しながら穴の中に落ちていった。


「あああああああああああああああああああああいだいいいいいだいいだいいだいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 じゅう、という何かが溶けるような音と、女性の絶叫が轟いた。


「うわぁ。」


 レストは目を背けた。穴の底には、更に多くの白骨死体と、今まさに肉が溶けていく女性の姿が見えてしまったからだ。


「自業自得。」


「まぁ、その、そうですけど、ね。」


 肉が溶けて脳が溶けて、ただ叫ぶ事しか出来なくなった彼女の姿は、レストからも自業自得にしか見えなかったが、それでも哀れには見えた。


(しかし)此魔物如何(この魔物はどうするの)?」


「……放置するわけにもいきません。」


 そういってレストは魔導書を取り出した。


(そうよね)。」


 シアは短剣をレストの前に差し出した。


「『火炎よ舞え、火花よ眼前の武器に咲け、属性付与・炎エンチャント・フレイム!!』」


 魔導書から炎の花が咲き、短剣を包み込んだ。シアの短剣は炎の刀身を纏い、赤く輝き、やがて青へと至った。


破ッ(はぁっ)!!」


 シアはその短剣をぽっかりと開いた床の穴へと投げ込んだ。


「そして、燃えろ!!」


 レストは手を翳し、切り刻んで落ちていた魔物の欠片(かけら)を穴に投げ入れて、


「『欠片(かけら)(あぶら)物質変換マテリアル・トランスフォーム!!』」


 スキルを発動させた。


 ゴゴゴゴウという轟きと共に、巨大な火柱が立ち上った。


「GUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAA…………。」


 魔物の断末魔が、暗い闇の中から響く。


 そして燃え上がった火柱が天井を、屋根を焼き、その中の肉体も灼き切った。


 青い空と太陽の光が、その天の穴から差し込んできた。


成功(やったぁ)!!」


「ええ!!」


 レストとシアがきゃっきゃと腕を組んで喜んだ。




「アタシら今回いいとこ無かったわね。」


「ですわね。」


 綺麗な空を仰ぎながら、シェルフとカーネリアが、何が起きたのか分からないといった様子で一言ボヤいた。

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