10-8 反撃
数分彷徨った二人であったが、良い結果は得られなかった。
迷宮を突破する糸口は掴めず、カーネリアとシェルフの二人とも合流出来ないまま、当然の如くユウという子供も見つからない。ただ迷宮の中を彷徨う事になった。
どうしたものだろうか。レストは悩んだ。解析眼鏡でも順路は掴めない。足跡も消えている。――そもそも、この道を通っていないのかもしれない。自動生成される廊下に足跡が残っていなくとも不自然では無い。
通信機も持っていない。本当に幽霊屋敷のようなものだと思わなかったのだ。
何か手掛かりが欲しい。迷宮を解き明かすまではいかなくとも、二人と合流するための糸口が。
と、シアが突然歩みを止めた。
「ぐえ。」
歩こうとしていたレストは急ブレーキを受けて転びそうになった。
「ど、どうしました。」
「……。」
シアは黙って前を指差した。
「ま、まま、ま、前見。」
シアは歯を震わせながら言った。
レストがその指差す方向を眺めると、眼鏡に何かが映った。
何か、というよりも何か達は何れも『魔物』『死霊族』と表示されている。
そしてそれは、雷鳴と共にはっきりと姿を見せた。
人型の魔物、スケルトン、ゾンビ、そういった類いの物が大量に廊下に現れていた。十や二十ではきかない程の量だ。
「ききききききき急でございますですね!?」
ダンジョンの魔力が急に魔物生成に割かれたのだろうか。いやそんな事はありえるのか?ダンジョンにまるで知性があるようだ。レストは少しだけ考えたが、そんな時間は無かった。
「にににににに逃げましょう!!」
一体だけなら魔導書や渡された短剣でどうにかなるかもしれないが、これだけ数が多いとどうにもならない。スキルでならば処理出来るが、疲れ果ててしまうと、シアを一人残して疲労困憊の状態に陥ってしまう。それは現状は避けるべきだろうと考えた。
そう言ってシアの腕を引いて魔物達と反対側、来た道に一度戻ろうと振り返ると、
「……嘘だぁ。」
そこには大量のスケルトンやゾンビが居た。
「いいいいい幾ら何でもこんな、僕達を完全に狙うような沸き方することあります?!」
「うえええええええええええ!!助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
シアはもはや恐怖で幼児退行しかけていた。それは言い過ぎだとしても、少なくとも正気ではなかった。この程度の魔物は容易に狩れるだけの実力をシアは有している。だが今はそれを可能とするような余裕が無かった。
「おおお落ち着いて、何か策を、というか、幾ら何でもこの湧き方、湧き量、おかしい!!おかしすぎる!!」
レストは眼鏡のダイヤルを回して周りを見回した。
「…………まさか?」
レストは一つ気付いた。魔物達の足元が床と同化している事に。
最初はゾンビだから、死霊族だから腐っているのだろうかと思ったが、それでもスケルトンの骨が溶けるだろうか。溶けはするだろうが、湧いた側から溶けているというのは明らかにおかしい。
「試すしかない!!『燃える火球よ空を裂け!!火炎刃!!』」
魔術書を取り出してレストが叫ぶと、魔術書から炎の刃が飛び出し、壁に向けて飛んでいった。
「どどどどどどど、どこを狙って!?」
シアが叫ぶと同時に、炎の刃が屋敷の壁にぶつかった。
ボウという音と共に、木製の壁に火が付き燃え出す。
すると屋敷全体が揺れた。
「GYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
誰のものかわからない声、恐ろしい、聞くだけで身の毛がよだつようなと共に。
「なな、なん、なんです!?」
シアが戸惑っている中、レストは壁をじっと見つめる。魔物達は動きを止めた。
「やはり!!」
「何が!?」
「ここ、この屋敷自体が魔物なんです!!」
「なっ……。」
シアは思わず絶句した。そんな事が有り得るのか?
「つまりあの魔物も全て、屋敷が、魔物が生み出した幻影というかコピーみたいなものです!!だからあの魔物の足元が床と一体化しているのです!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?そ、そんなこと有り得るの?!」
「起きているから仕方ありません!!わざわざ木の壁で囲って魔物だというのをバレないようにしている手の込みよう、何か裏がありそうです!!」
「と、いう事はもしや、幽霊関係の騒動も……。」
「もしかするとこの魔物がやっているかもしれません!!」
それを聞いてシアの怒りは魔物の方に向いた。
「じゃ、じゃあアタシのこの……恐怖は全部……。」
わなわなと手が震え始めた。許せない。ここまで追い込んだ相手がただの魔物だと。
そしてその魔物は悲鳴を上げた。つまり、ダメージを受けた。殺せるであろう、という事だ。
恐怖を感じていた分、その感情が今まさに反転し、怒りへと向かった。
「ゆ、ゆゆゆ、不許!!短剣貸!!」
シアの叫びに少し驚きながらも、レストは短剣を差し出した。シアはそれをふんだくると、剥き出しとなった魔物の肉体へとその短剣を投げた。
ブスッ、という音とともにその短剣は突き刺さった。
「GGGGGUAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「毒塗短剣、苦。」
再び屋敷が震え、真っ平らだった廊下が斜めに歪んだ。すると近くの部屋の扉が開いた。
「いでっ。」
「あだだだだだ。」
カーネリアとシェルフが飛び出してきた。
「二人とも何処から出て来てるんですか!?」
「知りませんわ。なんか床が斜めになって壁にぶつかったと思ったらここに居たのですわ!!」
「頭いでー。変な魔物に追いかけられるわ揺れるわで散々だわ。」
レストは眼鏡をいじる。
「空間の歪みが減っている……。魔物が焦っているのか!!」
レストがそういうとシアはニヤリと笑みを浮かべた。
「良!!此儘殺!!」
「その意気です!!行きましょう!!」
「応!!」
そう言ってレストとシアはそれぞれ炎の刃と毒の短剣を振るいながら屋敷の中を駆け出した。
「何あれ。」
シェルフが唖然としてその背中を見つめていた。




