10-6 畏怖
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」
息が切れそうだ。
どれくらい走っただろうか。
わからない。
どこまで走ればいいのかもわからない。
どうすればこの悪夢から逃れられるのだろうか。
この屋敷に居る限り逃れられるものではないのだろう。
それだけは分かった。
もう出たい。
どうにかして出たい。
この場から立ち去りたい。
シアの目には涙が滲んでいた。
得体の知れない恐怖、人の根源的な弱みを攻撃されている感覚があった。
やがて数分程駆けずり回って、ようやくシアは走るのを止めた。何も音がしなくなったからだ。
「……お、落ち着いた?」
ピシャン!!
その言葉と同時に窓の外に雷鳴が轟いた。
「ひぃっ!!」
背筋がピンと伸びた。
「ああ、ああ……。」
まさしく腰が抜けたというようにへたり込んだ。普段は感じない疲れが、ここに来て大きく体に現れているのを感じた。
「ふぎゃ、あ……うう、うううううううううううう……。」
シアは思わず泣き出した。目からポロポロと涙が溢れ、止める事が出来なかった。
怖い。帰りたい。
だがどうする事も出来ない。
「どゔずればいいのぉ~!!」
思わず声を上げた。誰に聞こえるとも思っていないが、それでも口にせずにはいられなかった。今抱えている、率直な想いを。
心が揺れる。
心なしか、床も、自分が立っている場所もゆらゆら揺れている気がした。
床が溶けて沈んでいくような、そんな感覚に心も体も苛まれる。
「だ、大丈夫ですか?」
その言葉で正気に戻った。
「ぎゃあ!?」
突然背後から声がかかった事で、シアは思わず驚きの声を上げた。
だがその声は、一度だけ何処かで聞いた気がした。
恐る恐る振り返ると、そこには、かつて殺そうとした男ーーレストが立っていた。




