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10-4 屋敷

 時間は若干前後して、レスト達は町外れにある幽霊屋敷へと到着した。快晴で雲一つ無い中、この屋敷の近くだけはどんよりとまるで曇ったような雰囲気が漂っている。


「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」


 騎士団に依頼してきたという女性が涙ながらに言いながらレストにペコペコと頭を下げた。


「うちの娘が、うちのユウが、この中にぃ……うう、ううう。」


「安心してください。探しますから。」


 レストが倒れ込みそうになる彼女の肩を支えながら、出来る限り安心出来るような声色で言った。


「ユウさんの特徴は?」


「え、えー、あ、そうですね……。えー、その、白いワンピース着ている、黒髪の子です。十歳くらい。」


 何故そこで戸惑うような声が出るのだろうか。少しばかり気になったが、レストはそれより屋敷に入る準備を始めた。


「何故(わたくし)が只働きを……。」


 一方のカーネリアはぶつぶつと文句を言っていたが、それでも一応着いてきた。彼女としては一応の思惑はあったーー幽霊屋敷の謎を暴けば金になるのではないかと。加えてもう一つ理由はあったが、それは彼女にも具体的に言葉にすることは出来なかった。それが何かの感情によるものなのか、それとも単純に自分でも理解出来ていないのか、それも分からなかった。彼女の思考の殆どは金算用に回されていたからである。


「まーいいじゃん。人助けはいつか回り回って自分のところに戻ってくるかもしれないし。それに、幽霊がホントにいるなら、ちゃんとさ、供養してやんないとね。」


 シェルフは弔いのために来ていた。彼女は口調こそ崩れているが、真っ当なモンク、修道士であった。


「ですね。とにかく入りましょう。」


 レストはそう言うと母親に一旦騎士団のところに戻るよう告げて、母親が離れたところで扉に手をかけた。


 ギギギギギギギギギという音を立てて扉が()()()()開いた。


 それを見ていたカーネリアとシェルフは顔を合わせて、ごくりと唾を呑んだ。


「……押した?」


 シェルフが振り絞るように尋ねた。


 レストは何も言わずに首を横に振った。


「……帰りましょうか?」


 カーネリアは顔面蒼白でそう言ったが、


「いや、……子供がいるなら危険です。たす、たす、た、助けましょう。」


 レストは足を震わせながらも眼鏡を起動した。


「こ、こういうのにもきっと何かトリックが……ああ、なんだ、魔法ですね。移動魔法の応用です。魔法で扉に触れたら、こう、自動的に開くようになっているみたいです。便利ですね。ハハハ。」


 空元気であることは誰の目にも明らかで、レスト自身すら自覚的であった。


 だがそれでも、レストは前に進むことにした。足を上げて、扉の先へ、敷居を跨ぐ。


 カーネリアとシェルフはそれに付き従うように、同じく扉を潜った。


 誰もいなくなった玄関で、開け放されたままの扉は、やがて勝手に閉まった。


「三名様、ご案内。」


 少し離れたところで女性がそう言うと、風がビュウと吹いた。


 風と共に女性の姿は消え去った。





「え、ええ?ええええ?」


 幽霊屋敷の前で、邪魔者であるレスト達を見つけどうすべきか思案していたシアは、扉が自動で開いたこと、彼ら彼女らが扉を潜って入っていったことに驚愕し、そして同時に、扉が自動的に閉まったことに恐怖を感じていた。


「あわ、わわわ、わわわわわわわ……。」


 恐ろしい。


 何故閉まったのかが分からない。いや、開いた理由も分からない。三人が平然と入っていけたことも理解出来ない。怖くないのか。ただの愚か者なのか、それとも、高い勇気のある勇者と呼ぶべき存在なのか。混乱するシアでは判断がつかなかった。ーーどの程度の勇気が必要かという目安についても、シアは自分の認識をベースにしていたため、目算が出鱈目に間違っていることに気づけていなかった。


「お、落ち着け、落ち着くの私……。ふー、ひー、ふー、はー、……(よし)。」


 普段の冷静さが再び戻ってきたのを感じた。だが良くはない。状況は断じて良くはないと言える。


 シアは扉の前に立った。レスト達が戻ってくる気配は無い。扉の前でウロウロと右に左に考え込みながら歩く。


 そう、状況は極めて良くない。少なくともシアにとっては。


 元々彼女は此処に来て、館に入るかどうか決めあぐねていた。最悪、入ったことにして「宝玉なぞ無かった」と言えばそれで済むと思っていた。


 だが、あの邪魔者達が居て、何かを嗅ぎつけて館に入ったのだとすれば、それをみすみす見逃すわけにも行かなかった。彼女はアレイトス教を信じていた。自分が力を貸せば世界が滅びるのだと。そして、新たな世界でやり直すことが出来るのだと。


 彼女は今の自分が嫌いだった。人を傷つける生業しか身につけることが出来なかった自分が。生きるために他人を殺す自分が心の底では嫌っていた。だが死にたくはなかった。だから騎士団に自首するという選択肢も取れなかった。自分は既に多くの命を奪っている。彼らの法に照らせば、許されることは無いのだろう。自分としては止むを得ないことであったが、理解して貰えるとは思えない。


 だからこそ、新たな世界でやり直せるというアレイトス教の考え方に乗ることにした。アレイトス教を信じていれば、世界の破壊から逃れることも出来、自分は生き続けてやり直す機会が与えられるのだと信じることにした。


 そんな彼女だからこそ、アレイトス教の邪魔をし、そして騎士団に与するレスト達は邪魔者以外の何者でも無かった。


 そんな彼ら彼女らが此処に居る。こうなると、入ったことにして「宝玉は無かった」で終わらせるという選択肢は消えてしまった。


「……(やだなあ)。」


 冷静さを取り戻しつつも、本音を一言呟く。


 そしてシアもまた扉に触った。


 ギギギギギギギギギ。


 音を立てて扉が自動的に開いた。


「うぎゃああああああ!?」


 取り戻した冷静さは飛び去った。思わず後方に飛び退ける。


「…………。」


 短剣を構えてじっと扉の先を見ーーようとして直視することを恐れ、チラッ、キョロッ、見ては目を逸らし、見ては目を逸らしを繰り返す。


「い、否居(いない)幽霊(ゆうれいなんて)否居(いない)。」


 そう自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟きながら、シアはゆっくりと、ゆっくりと屋敷の中へと入っていった。


 シアが入った瞬間、扉は自動で閉まった。


 そして風がピュウと吹くと、突然屋敷の上空にだけ、強い雷雲が現れた。


 雷雲は雨と風を撒き散らし、そして屋敷の上空で雷の轟くゴロゴロという音を響かせた。

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