9-13 迷走
「ふぃー、ふぃー。ふぎゅー。」
少し離れた場所で、アーシャが大地に倒れ込みながら息を荒く吐いた。
「ああ全く、間に合ったか。」
下僕とした魔物ーースパイクタイガーと呼ばれる、走りと攻撃に特化した虎型の魔物であるーーをよしよしと撫でながら、レンジ・O・ティーマがぼやいた。
「意気揚々と出ていく物だから心配してたらコレだ。全く、もう、感謝したまえ。」
アーシャが内通者を利用して何とか宝玉を奪うという計画を聞いてから嫌な予感がしていたレンジは、予め脱出用に壁を壊せて高速で脱出出来るスパイクタイガーをステルス魔法をかけて配置させていたのである。
「いやホント、本当に、助かりましたデス……。」
レンジが呆れた目で、正座してしょぼくれるアーシャを見下ろした。
もう既に内部の連絡ルートは潰れた。騎士団の動向は探れない。多分、この女の店も潰される事になるだろう。アレイトス教は邪教だ。更に言えばテロリストだ。それに与するとなれば取り潰し、良くて別のグループに吸収される事になろう。
この女の価値はほぼ無いに等しいように思える。
それでも彼女を助けたのは、レンジが根はお人好しだからである。
彼は非情な面はあるが、少しでも関わった者には一方的・双方向問わず友人として認識し、一定の親愛を抱く性格であった。そして、そんな相手を見捨てる事も出来なかった。
「今のうちに店の金を拾ってきたまえ。すぐに騎士団の手が回るぞ。」
「はい……。そうしますデス。ありがとうございますデス。」
「全くもう。感謝しろとはいったが、撤回しよう。今はまだいい。とりあえず奴らの手を確実に離れてから改めて感謝してもらう事にしよう。」
レンジはそういうと、辺りを神経質に伺いながらスパイクタイガーに乗り、アーシャのディメイングループの本店に向けて走らせた。
まだ一応この女には金蔓としての利用価値はあるし、相手が悪すぎただけで、ある程度の頭も働く。ブルーアのような強力スキルを持った人間も、ヴェダのような潜伏工作員も失った今、彼女が教団の戦力にならないという事はないだろう。
そう彼は自分に言い聞かせ、彼女を捨てない理由を作った。
「ああ、自分が憎い。」
こんな調子では魔王は遠いのではないか。そう思わなくも無い。だが彼には、小脇に抱えた敗北者を投げ捨てる非情さは持つ事が出来なかった。
第9話はここまでで完結となります。お読み頂きありがとうございました!!
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