9-10 契約
「いかがデス?調子の方は。」
期日になってアーシャはニヤニヤとしながら騎士団本部へとやってきた。部屋にはレヴィやレスト達を護衛する騎士達、そして、
「いやあ最高ですわね。」
満面の笑みを浮かべニヤニヤと答えるカーネリアも居た。
アーシャは何故こんなにカーネリアの機嫌が良いかは理解していた。自分の鼻を明かせるものと思い喜んでいるのだろう。全くもって忌々しい。アーシャは心の中で唾を吐いた。
一方のカーネリアも何故アーシャが微笑んでいるか予測はついていた。きっと自分達が失敗したと思っているのだろう、と。
だがレストは別の理由で笑っているのではないかと疑いながらその様子をじっと見つめていた。
「では約束の物は?まさか無いとは申しませんデスよね?」
「勿論。」
そう言ってカーネリアは空間の宝玉を差し出した。
「…………は?」
アーシャは唖然としてそれを見つめて、
「に、偽物デス?」
絞り出すようにそう尋ねた。だが若干芝居がかった言い方のように思えた。
ーー実際のところ芝居である。アーシャはこれが本物だと知っているのだから。
「本物ですわ。」
カーネリアは一蹴した。
「本物である事は僕も保証します。大変でしたよ。」
「全く。」
レストとシェルフがやれやれといった様子で言った。
アーシャはじっとそれを見つめて、
「……そうですか。それは良かったデス。ではワタシはこれで。」
そう言って空間の宝玉を手に取って立ち去ろうとした。
「ちょちょちょちょ、ちょっと。」
カーネリアがそれを許さない。宝玉をひったくってウーと唸り声を上げた。
「どういうつもりですの。約束ですわよね?契約書まで書いて。」
「契約書デスか?」
アーシャが何のことだとばかりにキョトンとした声で言った。レストは「ああやっぱり」という顔でそれを見つめていたが、カーネリアの目には入らない。眼前の裏切り者のクズ野郎だけが目の中にあった。
「私共がこれを回収したら私共がこれを頂く。そして私に関する情報は伏せる。そういう契約でしたわよね?」
「どこにそんな契約書が?ありましたっけ?あったとしても残ってます?」
その知ったかぶる態度に、カーネリアは完全に切れた。
「レストさん!!」
怒りの篭った声で彼女は叫んだ。言外に「契約書を出せ」という意図を含ませながら。
契約書を書いてから、その原本はレストが預かっていた。
「はいはい。」
そう言ってレストは契約書をしまった棚の鍵を開けようとして、言った。
「……あー。」
予想通り、という声色であった。
「どうしました!!」
「鍵開いてますね。閉めたのに。」
「はぁ!?」
カーネリアか叫びにも似た憤怒と驚愕を上げた。
「し、しょ、書類は!?」
「まぁ、はい。無いです。棚の中には。」
レストは棚の中をチラチラと見て言った。
「あああああああああ!?」
カーネリアの慟哭が騎士団の部屋に轟いた。
「おーやおやおやおやおやおや?契約書が無いのであれば!!アナタが勝手に言ってる「約束」なぞ知ったことではありませんデスねぇ!!さあ家宝を渡して貰いますデスよ!!」
「そんな理屈が通るとお思いですか!?というレストさん随分と落ち着いていらっしゃいますね!?貴方に預けておいたのですよ!?なんでそんな落ち着いているのですか!?」
「まぁ、それはその、そういう事もあるかなと思って。」
「そういう事ってなんですの!!あっていいもんではありませんわよ!?」
カーネリアがレストの首を締めながら言った。
「ケケケケケ。仲間割れデスか。まぁそんな事はどうでも良いのデス。さあ契約書を見せて下さいデス!!あるならデスけどね!!」
「はい。」
首を絞められながら、ゴソゴソとレストは鞄を漁ると、書類を突き出した。
アーシャのサインが入った、契約書であった。




